不安と過敏性腸症候群(IBS)
不安の功罪
好んで不安を感じたいという方は少ないと思いますが(お化け屋敷やジェットコースターなどは少し異なります)、実は全く不安のない生活というのは意外に不便な可能性があります。
例えば、幼稚園や小学校近くを車や自転車で通りかかったら、いつどこから子供が飛び出してくるか分からないから少し注意しようとスピードを落としたり、周囲を見る回数が増えるかもしれません。
朝から用事があるときは寝坊しない様に、目覚ましをセットしたり、モーニングコールをお願いすることもあるかもしれません。
いずれもこれらの行動の背景には、経験則や想像からくる「不安」があると考えられています。
逆にいえば、適度な不安やそれから来る緊張は私たちが社会生活をスムーズに営む上では潤滑剤にもなっているとも考えられます。
ただし、それは不安や緊張が適度であった場合であり、過度の不安は逆効果となります。
これはスポーツ心理学などで言われる逆U字曲線*とも一致します。
過敏性腸症候群(IBS)は悪化や慢性化の背景に過度の不安があると考えられており、認知行動療法では不安をなくすのではなく、適度な不安のレベルに調整することを目指します。
*逆U字曲線:あまりに緊張感がないとだらけてしまうが、緊張が強すぎてもよいパフォーマンスは難しい。適度な緊張感がもっともよいパフォーマンスを生むという考え方。
不安は過保護な家族なようなもの??
過敏性腸症候群(IBS)に対する認知行動療法(スッキリプロジェクト)をさせていただく中で、協力者の方の意見から受けた印象として「不安は過保護な家族なようなもの」というのがあります。
先に述べたように、不安は心地よいものではありませんし、常に緊張するぐらいならそんな状況を避けようという心理が働くのは当然です(詳しくは「回避行動と過敏性腸症候群(IBS)」で述べています)。
しかし、そもそも過敏性腸症候群(IBS)における不安は「万が一の事態に備えておこう」というものが多い印象を受けます。
急にトイレに行きたくなっても間に合うように事前にトイレの有無を確認する、であったり、そもそもトイレに行きたくならない様に食べないようにするなど様々な不安に対して対策を立てます。
それはまるで過保護な家族が、「念のためトイレの位置を確認しておかなくていいの?」「今ご飯食べて大丈夫?」と聞いてくるような印象を受けます。
数週間に1回程度、「元気?」「大丈夫?」と家族から連絡が来るぐらいならそれほど気になりませんが、毎日、もしくは1時間ごとに「元気?」「大丈夫?」と電話がかかってきたらどうでしょうか?
仕事や授業の妨げになるのでやめてくれ、と苛立ったり、何か悪いことでも本当に起きるのだろうかと不安になったりするかもしれません。
過敏性腸症候群(IBS)における不安はこの後者の1時間ごとの電話が自分のお腹から自分に語り掛けてくるようなものだと思ってもらったらいいかもしれません。
必要以上に「大丈夫なの?」と聞かれることで大丈夫でなくなっていく。
しかし、電話をしてくる家族は不安にさせたいわけではなく、ただ、ただあなたのことを心配しているだけ…。
過敏性腸症候群(IBS)における不安はこんなずれた気遣いをする家族のようなものかもしれません。
だとすれば、私たちにできることは心配してくれる気持ちはありがとう、でももう少し頻度を控えてくれると嬉しいな、というのを分かってもらえるように言葉や行動で説明することになります。
自分の中にいる「過保護な不安」に理解してもらえるように言語化し、行動を伴うことで納得させるためのスキルが認知行動療法となります。
もし、自分の中の不安と適度に付き合う方法を学びたいという方が居ましたら、ぜひ中央事務局までお問い合わせください。
素材
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