もはや外交ではない、幼稚園児のケンカだ!?
「武漢肺炎」をめぐる人類史的考察⑦
~外交の交渉経過を一方的に暴露~
感染症という人類共通の課題に立ち向かっているときに、国益や勝ち負けなど関係なく、互いに思いやりと助け合いこそ必要な時でも、韓国の外交当局者からは心無い不躾けな言葉が飛び出すのは、どういうものか。
安倍首相は3月5日夜、中国と韓国からの入国者に対し、自宅や指定されたホテル等での14日間の待機を要請し、入国後の公共交通機関の使用自粛を求めることなど、新型コロナウイルス感染拡大防止のための緊急水際対策を発表した。
これについて青瓦台のカン・ミンソク報道官は8日、「韓国に対し行き過ぎた措置を取りながら、日本からはただの一言も事前協議がなかった」と記者説明した。これに対して菅官房長官は10日午前の記者会見で、韓国側には事前に通知していたと説明した。すると、青瓦台は直ちに反論し、「日本は韓国政府に事前協議や通知なしに今回の措置を一方的に発表した。5日に韓国政府が日本の措置の可能性を感知し、外交ルートを通じて事実関係の確認を要請した際も事実ではないと否定していた」として、まるで日本政府が嘘を言っていたかのように説明したうえで、「(日本による)去年7月の輸出規制強化措置の発表に続いて、繰り返される日本の信頼できない行動に改めて深い遺憾の意を表す」として、日本を「信頼できない国」とまで言って批判した。
「信頼できない国」とは、日本から言わせれば、まさに韓国のことで、国と国とが交わした条約や合意を簡単に覆しておいて、どうすれば信頼できる、というのか。
この話には、さらに続きがあって、菅官房長官は11日の記者会見で「韓国に対しては事前通報を行っており、措置の発表後にも丁寧な説明を行っている」と再度、反論した。これに対して、韓国外交部は、この問題をめぐる一連の日本とのやりとりについて、詳細な交渉経過を一方的に公開した。
それによると、産経新聞などその日の朝刊から日本が入国制限をとるという情報に接したと見られる韓国側は、5日の午前8時50分と10時に日本の外務省に対して、「韓国からの入国制限の強化に踏み切るなら、事前の協議が必要だとする考えを伝えた」という。さらに午後4時16分に、両国の外交当局者が電話で話した際にも、日本側は「メディアが報じた内容は事実ではない」と強調したうえで、「入国制限は、閣議で決まる予定となっており、事前に通知できない」と伝えてきたという。
<KBSニュース3・16「日本の入国制限に関する韓日の交渉経過を公開 外交部」>
<中央日報3・16「韓国外交部「日本、事前通報難しいと話した」 日本の入国制限主張に再反論>
管官房長官の記者会見や12日の毎日新聞の報道によれば、この時点で韓国側には2度にわたって「通報」したことになっているので、韓国側の言い分は、あくまで彼らの受け取り方を表明しているに過ぎない。
<アジアニュース24「外務省が隣国の難癖を返り討ちにする!」>
~日本は文句を言えば、言うことをきく~
そもそも韓国側は、日本の決定に対して「事前の協議」を求めたとしているが、日本の最高政策決定機関である内閣の閣議で決定する内容について、いかにして協議を申し入れ、決定を左右しようというつもりなのか。大統領や外相が直接電話してくるなら話が通らないこともないかもしれないが、一介の外交官同士がどんな話をしようと一国の総理の耳に届くはずがない。
そもそも韓国は140か国に及ぶ国から入国禁止や入国制限を受けているが、それらの国からは事前に通知があったのか、事前に何か協議したことではあったのか。ベトナムやイスラエルは、韓国からの着陸寸前の飛行機の着陸を拒否して追い返し、中国やベトナムは何百人もの韓国人ビジネスマンを、入国した途端、いきなり拘束して隔離措置がとった。それらについては抗議さえしていない。
明らかに、日本のことだから何でも文句を言えば、言うことを聞くはずだという日本を見下した傲慢さが見える。
韓国海軍のレーダー照射事件や、半導体材料の輸出管理強化をめぐる両国間の交渉でも、いやというほど見せつけられたことだが、韓国にとって、自分たちが納得し満足できない説明や通知は、日本がいくら誠実に応じても、説明にも通知にもならず、はじめから受け入れることはない、ということなのだ。
そもそも外交交渉の経緯を、相手側の同意もなく一方的に公開するという行為自体、外交上、極めて非礼で、それがもたらすマイナスの結果は計り知れない。永遠の喧嘩別れで終わるのならいいかもしれないが、これでは話し合いの前提となる信頼も生まれない。複雑な外交的合意を目指す交渉でもなく、単純な事実をめぐって180度違う相手の立場をなじるだけのやりとり。韓国の主要メディア、朝鮮日報の論説委員も「これでは外交ではなく、ほぼ幼稚園児のケンカだ」と揶揄するほどだ。「このような韓日政権の「敵対的共生」が続く限り、両国間の幼稚で消耗的な戦いに終わりは来ないだろう」。(朝鮮日報3・13【萬物相】「外交なのか、それとも幼稚園児のケンカなのか」)
~韓国の日本批判がそのまま真実として世界に伝えられる~
文在寅政権になってから、閣僚をはじめ対外発信を担当する報道官と言われる人たちまで、日本に対しては、つねに棘(とげ)がある言葉で応じ、あたかも日本に対しては自分たちのほうが優位に立っているということを誇示する、そうした言動を通じて、むしろ国内の世論を扇動しようとしているに使っている節がある。
安倍首相が5日夜、中国と韓国からの入国制限措置を発表すると、韓国政府から日本の検査体制に対する疑問や批判が公然と語られるようになった。
韓国外交部の趙世暎(チョ・セヨン)第1次官は6日の記者会見で「海外メディアも伝えているように、先進的で優秀な防疫システムを備えた韓国とは違い、日本は検査件数が我々とは比較できないほど極端に少なく、感染状況も不透明な側面がある」と言い放った。
康京和外交部長官は韓国駐在の富田大使を呼び出して抗議した際、「日本政府の不透明かつ消極的な防疫措置に懸念を表明し、「韓国はむしろ、こうした(日本の)対応を注視している」と指摘した。
丁世均(チョン・セギュン)首相は7日、「日本政府の措置は科学的でもなく賢明でもない」と指摘した上で、韓国のウイルス検査は世界最高レベルであり、検査の規模や検査結果の透明性は、世界が新型コロナウイルスの特性や致死率などを把握する上で役立っていると強調。その上で「日本は果たしてわれわれのように透明で積極的なのか疑わしい状況だ」と述べた。<聯合ニュース3・7「日本の入国制限 「対応は不可避」=韓国首相」
問題は、そういう韓国側の発言と主張が、海外メディアでそのまま伝えられ、「日本は信用できない。何かを隠している」という不信をばらまいていることだ。
アジアタイムス(ASIATIMES)は日本の入国制限発動を伝える記事のなかで、康長官の
「日本の措置は、非友好的で、非科学的だ」(“These measures are unfriendly and unscientific,”)という言葉や、青瓦台NSC国家安保会議の前述の記者説明の内容、「韓国は世界一流の科学的で透明性ある検査システムを通じてコロナウイルスを完全にコントロールしているが、その一方で日本はその曖昧で受動的な防護措置のため国際社会からは信頼されていない」(“Japan is distrusted by the international community for its opaque and passive protection measures in light of the fact that Korea has strictly controlled and controlled Covid-19 through a world-class scientific and transparent system,”)というコメントをそのまま伝えている。
<ASIATIMES March 6 “Seoul furious as Tokyo quarantines Korean visitors”>
~韓国メディアの心ない日本バッシング~
政府の発言だけではない、メディアもことあるごとに日本にはギスギスした言葉を投げかける。
中央日報は7日、CNNを引用して「日本の公式統計は氷山の一角にすぎず、日本の検査指針に基づき検査量自体が非常に少ないから、新たな感染者数も少なくなるしかない」と伝え、CNNのインタビューに答えて「日本の新型コロナ感染者は公式統計の10倍ほど」だという北海道大学の西浦博教授の証言を伝えている。<中央日報3・7「CNN「日本のコロナ感染者は氷山の一角…実際は10倍」>
しかし、その西浦博教授は、北海道内での感染状況から推定したもので、日本全体には適用できないとし、この数字は自分の発言ではないと否定している。<厚労省、CNNと中央日報を“名指し“批判。検閲に繋がりかねないとの危惧も>
日本の製薬メーカーが開発・販売している新型インフルエンザ治療薬「アビガン」について、中央日報は、韓国政府がアビガンを治療薬として採用しないと決定したと伝える記事で、「試験管での研究で新型コロナウイルスに抑制効果がなかったほか、患者への臨床試験データもない」「動物実験で胎児への毒性と死亡が報告されるなど深刻な副作用がある薬物」というソウル大教授のコメントを紹介した。
<中央日報3・16「韓国政府、日本のアビガンを新型コロナ治療薬に使用しない方針…臨床的根拠が不十分」>
G7首脳とのテレビ会議で安倍首相は「各国が協力して治療薬の開発を加速すべきだ」と主張し、そのための日本の努力と貢献を誓ったのは16日夜。中国政府がアビガンを新型コロナウイルスの治療薬として正式に採用すると発表したのはその翌日だった。中国の科学技術省の張新民(ちょう・しんみん)主任は17日の記者会見で、複数の候補のうちアビガンついて臨床研究を終えたと公表し、「とても良い効果が出た」としたうえで、「臨床研究中に明確な副作用は出なかった」と述べた。
<ハフポスト3/18「新型コロナ治療に中国が使用へ。富士フイルム子会社が開発した抗インフルエンザ薬」>
これを受けてアビガンを製造している親会社の富士フイルムの株価は急騰し、ストップ高になったそうだが、前日の中央日報の真逆の報道は、日本の国を挙げての努力に水を差し、日本の製薬メーカーの活動を妨害するのが目的としてしか思えない記事だった。
~日本をなじることを国内向けに利用~
韓国政府や韓国メディアが日本に向けて悪意に満ちた言葉を投げかけ、われわれを不快な気分にさせるのはいつものことなどで、驚きもしないが、しかし、日本に関するそうしたタメにする発言や報道が、韓国国内向けの世論工作の一環でもあるという背景もある。
そうした韓国特有の政治状況について、神戸大学大学院の木村幹教授がニューズウィークへの寄稿「韓国はなぜ日本の入国制限に猛反発したのか」(NEWSWEEK3/11)で詳しく解説している。
(引用)「韓国政府による日本の措置(入国制限など)への強い反発の背景にもまた、彼ら固有の政治的事情がある。何故なら、同じ新型コロナウイルスへの流行に対して、全く異なる措置を取る日本による入国制限開始の表明は、韓国の一部では、大量「検査」と積極的「医療措置」を軸とする韓国の方針への正面からの疑義表明だと受け止められているからである。政権の命運を握る国会議員選挙を前にして、国民の負担と期待に応える責を負う韓国政府にとって、自らの新型コロナウイルス対策は「正しい」ものでならなければならないと考えられている。何故ならそれは国民が支持するものであり、また政府自らそれが「正しい」事を幾度も強調して来たものだからである。」(引用終わり)
4月15日に投票が行われる総選挙は、与野党どちらの勢力が勝つかによって、文在寅政権の今後を決定する重要な選挙である。投票まであと1か月と迫っても、新型コロナウイルスの影響で、街には選挙運動の雰囲気はまったくない。今の状況が続くかぎり投票日の時点で、新型コロナウイルスの感染拡大が収っているとは思えないので、文在寅政権は新型コロナウイルスの拡大防止と経済への影響を最小限に抑えることに全力を挙げ、その成果を強調するはずだ。その過程で、日本を引き合いに出し、日本は真実を隠しているとか、信頼できないと非難する一方で、自分たちの検査体制は世界最先端で、感染症対策の先導的モデルとして国際社会から賞賛されているなど、あらゆる機会を通じて自画自賛することは間違いない。自分たちの政策や選択の正しさを国民に訴え、支持を獲得しようとするのは、思う存分やっていただいて一向に構わないのだが、そのとき必要もないのに日本を引き合いに出し、非難の対象にするのは、非常に迷惑でもある。申し訳ないけど、検査態勢や医療体制については最初から考え方が違うのだから、どうか構わないで、放っておいて欲しい。
身内の国内新聞からも、「政府の対応を見ていると、『コロナ以後の外交』も考えるべきではないかと心配になる。最近の康京和(カン・ギョンファ)外交部長官をはじめとする政府高官らの発言を聞いていると、あたかもコロナへの対応を最後に外交をやめる人たちのようだ」と苦言が出されるほどだ。
<朝鮮日報3・13「【コラム】韓国外交に「コロナ以後」はないのか」>
日本に対しては、つねに喧嘩腰の韓国外交。この間に新型コロナウイルス対策だけでなく、東京オリンピックや福島第1原発の処理水問題を含めて、日本に投げかけられた数々の辛辣な言葉、それらの言葉に多くの日本人がどれほど傷つき、憤慨したことか、ネットの反応を見ればわかる。私たちは決して忘れることはないから、「コロナ以後の日韓外交」は、当然、それらの言葉をめぐる「確認」から始まらざるを得ない。新型コロナウイルスをめぐる外交戦はそれだけ深い傷を残したということかもしれない。