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【傷害予防シリーズ9】ジャンパー膝

2020.02.29 09:02

傷害予防シリーズ第9段はジャンパー膝です!ジャンプが多いスポーツで好発するためこのように呼ばれていますが、陸上競技では種目を問わずに発生する可能性があります.

コロナウイルスの影響で練習が制限されている方もいるかと思いますが、このような時間があるときに,怪我に対する知識も学んでいただければとおもいます.


●病態

ジャンパー膝とは膝蓋腱炎(しつがいけんえん)の別名であり、ひざの腱に炎症が起こることを言います.ランニング、ジャンプやダッシュをすることの多いスポーツ選手によく見られる障害です.

膝蓋腱は、お皿(膝蓋骨)とすねの骨(脛骨)をつないでいる腱です.ひざを曲げ伸ばしできるのは太もも前面の筋肉(大腿四頭筋)が伸びたり縮んだりして、膝蓋腱がすねを引き上げたり下げたりしているためです.また、膝蓋腱は着地の際などに衝撃を吸収する役目も果たしています.このためジャンプとターン、ダッシュとストップなどひざの急激な曲げ伸ばしが過度に繰り返されると、膝蓋腱に負担が集中して小さな断裂や炎症が起こってこの障害になります.

以下の様な症状がある時は、ジャンパー膝を疑います.

ひざのお皿の下を押すと痛みがある.

うつ伏せでゆっくりひざを曲げると痛む.

ジャンプ、歩行や階段の昇り降りの時に痛む.

放っておくと日常生活やスポーツにも支障をきたすようになります.症状の程度は軽症〜最重症まであり、軽症や中等症のうちから治療や予防を続けることが重要です.



●発生機序

ジャンパー膝になってしまう原因としては、選手自身の問題と練習や環境の問題があります.陸上競技では走幅跳び、走高跳び、棒高跳びなどのジャンプを繰り返す跳躍種目や、ダッシュを繰り返す動作などで発生しやすいと言われています(森本 2010).


【選手自身の問題】

1.体の柔軟性不足

大腿四頭筋(太ももの筋肉)が硬いと、ひざを曲げた時に過度に膝蓋腱が伸ばされてしまいます.

ハムストリングス(太ももの裏)、腓腹筋(ふくらはぎの筋肉)が硬いと後方重心となりひざに負荷がかかってしまいます.


2.筋力不足、筋力のアンバランス

→ジャンプやランニングでの着地の時には、大腿四頭筋とハムストリングス(太もも裏の筋肉)や足首(ふくらはぎとすね)の筋肉が協調して働くことで衝撃を吸収してくれます.その際に大腿四頭筋やふくらはぎの筋力が弱かったり筋力のバランスが不均衡な状態だと、着地時の衝撃吸収が上手くできず膝蓋腱に過剰な負荷がかかってしまいます(Jonnson 2005).その他にも体幹・股関節の筋力も姿勢を保つことに影響を与えます.


3.アライメント不良(ひざが内向き、後方重心) など

→着地の時に過度にひざが内向きつま先が外向き(Knee-in toe-out)になっていたり、ねこ背姿勢などで後方重心になりやすい方は、着地動作で膝蓋腱周囲に過剰な緊張が生じて炎症を起こしやすくなります(Richards 1996).


【練習・環境要因】

1.オーバートレーニング

 →選手の体力・技術に合わない練習は、痛みの原因となります(Ferretti 1986).


2.不適切な靴、硬すぎたり柔らかすぎる練習場 など

 →膝蓋腱にはランニング時に約670kg、ジャンプ時には約1200kgの負荷がかかるとされており、靴のクッション性や床面の硬さにも注意が必要と言えます.



●治療法

 ジャンパーひざを治す方法は保存療法が第一選択です.

 痛みを感じたら、しばらくの間はジャンプやランニング等のひざへの負担が多くて痛む運動を休みます.そして大腿四頭筋やハムストリングス、臀部やふくらはぎのストレッチを続け、膝蓋腱への負担を減らします.また、ひざのお皿(膝蓋骨)を動かしお皿の下にある脂肪体を柔らかくしておくことも痛みの緩和となります.大腿四頭筋のストレッチ、お皿の動かし方は図をご参照ください.

安静やストレッチなどで痛みが軽減したあとには、痛みが出ない程度で大腿四頭筋、ふくらはぎの筋力トレーニングを行います.


方法は、

1.大腿四頭筋/ハムストリングスのトレーニング

 ① 25°の傾斜台で片足立ちになります.

 ② ゆっくりとひざを90°まで曲げていきます.

 ③ 反対の足を後ろに着地させて、曲げていた方のひざを伸ばします.これを繰り返します.

 ※痛みが和らいでから行いましょう.緩やかな坂道などで行うのも良いでしょう.


2.ふくらはぎのトレーニング

 ①→② ボックスの端に両足で立ち、つま先立ちをします.

 ②→③→④ つま先立ちのまま片足になり、ゆっくりとかかとを落とします.

 ④→① 両足で爪先立ちまで戻り、これを繰り返します.

 ※ボックスがない時は、階段などを利用すると良いでしょう.膝を曲げて行うとヒラメ筋が鍛えられます.


練習前の十分なウォーミングアップと太もものストレッチは一連の動作として行い、上記トレーニングに加え体幹筋力トレーニングなど20〜30分間かけて行うことで、治療および予防となります(綾田 2007).

痛みが治まってからも、十分な準備運動と運動後のアイシング(10〜15分)を続けて再発を予防します.軽症のうちからしっかりと治療し、重症化させないことがポイントです。

整形外科など医療機関を受診した際は、消炎鎮痛剤の飲み薬や湿布、超音波・低周波などの物理療法も有効とされています.練習をする時はサポーターやテーピング、インソールを使用することも痛みを軽減させる効果があると言われています(宗田 2003).

 痛みの程度が重度で保存療法に効果がない場合、また最重症の場合は手術が必要な場合があります.


●予防法

 ジャンパー膝を予防するには、

 ①大腿四頭筋、ハムストリングス、ふくらはぎを柔らかくし、筋力をつける

 ②ジャンプ・着地をするときの姿勢に気をつける

 ③練習の量・質を見直す 

 以上の様な事に注意しておくことで防ぐことができます(森本 2010).


 太ももの柔らかさをご自身でチェックしてみましょう.うつ伏せでひざを曲げ、かかとがお尻につけば柔らかさは十分、かかとが着かずお尻が浮いてしまうのであれば太ももが硬いということになり十分なストレッチが必要です.


 また、ひざ周囲の筋肉だけではなく、隣接する股関節、足関節のストレッチ、姿勢を安定させる体幹のトレーニングをしっかり行っておくことも重要です.ストレッチ方法、体幹筋力強化方法については【障害予防シリーズ3 疲労骨折】や【傷害予防シリーズ6 オスグッドシュラッター病】をご参照ください.


 ②の姿勢については友人やチームの仲間同士で動画、写真を撮影することで自分の姿勢を認識し、予防だけでなくパフォーマンスを向上させる手立てとなるでしょう.また③の運動量・質も合わせてコーチや顧問の先生に相談してみるのも良いと思います.


以上,ジャンパー膝に関してまとめさせていただきました.わかりやすく記載するため一部専門用語を避けたり,先行研究の一部のデータのみを紹介しています.

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