冷えと過敏性腸症候群(IBS)
冷たいものを食べる(飲む)とお腹を壊す!?
「冷たいものを食べ(飲み)すぎるとお腹を壊すから気をつけなさい。」
このような注意をどこかで受けたもしくは聞かれたことがある方は少なくないと思います。
しかし、医学的な根拠はどの程度あるのでしょうか?
「冷え症と腸の運動」では温刺激によって腸の運動が活発になるという報告が体性-内臓反射などの影響による可能性が報告されていると記しました。
ということは、温めると腸が活発になるのは便秘型の過敏性腸症候群(IBS)の方には有効かもしれませんが、下痢型の方にとっては逆効果の可能性があります。
とはいえ、外来でお聞きすると過敏性腸症候群(IBS)の方は冷えを避けると同時に体(とくに腹部)を温めることに積極的に取り組まれている方も少なくありません。
例えば、冬だけでなく夏場も冷たいものは飲まない、食べない、ホッカイロを当てる、腹巻をするなどの行動が見られます。
同時に、冷たいものを摂取したり、お腹を冷やした場合は「やっぱり」調子が悪いという認識をされている方も少なくありません。
冷たいもので内臓が冷える?
私たちの体温は通常36-37度に保たれ、体内は少し高めの37-38度程度です。
つまり、胃の中は37-38度ぐらいはあることになります。
37-38度といえば真夏の温度といってもおかしくありません。
食べ物が食道を通過するには数秒ですが、胃には長いときは数時間留まるとされています。
38度の場所に冷たいものを置いておいたらどうなるのでしょう?
上の写真のように溶けてしまうのではないでしょうか?
上記は生体の体温などから考慮した推測に過ぎません。
このあたりの検証関しては、実際に冷たいものを摂取してサーモグラフィーで体温などの変化を確認する、もしくは内々に温度計を入れてみるなどの実験が必要になると思われます。
残念ながら、お腹を冷やすことで腸の動きが活発になるのか、それとも抑制されるのかについての報告は確認できませんでした。
ただし、暖かいものを胃に入れる効果については非常に限定的ですが報告を見つけることができました。
低体温症(35度以下)の時の治療としては温めることが優先となりますが、電気毛布などのように外部から温める方法と温めた補液(40度程度)を点滴として血管内に入れる方法、胃や直腸といった体の空洞にお湯を入れる方法などがあります。
もちろん低体温の程度にもよりますが、電気毛布や点滴には一定の効果が報告されている一方で、胃内や直腸にお湯を入れて内臓から温める方法の効果については不明とされていました[1]。
もちろん、最初に述べたようにそもそも低体温症をおこしているので正常な状態の人がお湯を飲んだ効果とは異なる可能性はあると考えられます。
しかし、暖かいものをとって内臓を温めることで全身の体温を上げるという効果については、いささか懐疑的という印象を受けました。
つまり、「冷える=お腹を壊す」という一般論の根拠は現時点では見つけられていません。
冷えに関する認知行動療法からの見解
認知行動療法においてはこれらの行動は「寒冷刺激」を「回避する」ための回避行動として考え、背景には「冷え」に対する過敏や不安をさらに強化する可能性があると考えられています。
ただし、回避行動は不安に対する人間の本能的な行為でもあり、行動そのものを否定したり非難する必要はありません。
また、片っ端から回避行動を辞める必要もありません。
自分の生活にとってその回避行動が与える影響を考慮し、例えば冷えが怖くて冷凍コーナーにも行けないので困るということであれば、冷えが「あなたの体にとって」どの程度の影響力を持つのかを再度検証するお手伝いをさせていただきます。
実際、「冷え」に対する曝露(ばくろ)療法を行い、冷えへの過度な不安が改善することで色々なものに挑戦できるようになったという方も居ます。
「冷え」への不安は過敏性腸症候群(IBS)の症状の一端に過ぎませんが、もしこれらの症状が当てはまるという方は一度事務局までお問い合わせいただければ幸いです。
引用文献
[1]Ahmed Faraz Aslam et al.; Hypothermia: Evaluation, Electrocardiographic Manifestations, and Management: The American Journal of Medicine (2006) 119, 297-301
素材
写真 写真AC クリエイター:カッパリーナさん
写真 写真AC クリエイター:acworksさん