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東京都図画工作研究会

【図工室探訪】東村山市立萩山小学校 大森 直子先生

2020.03.27 05:57

都内各ブロックの図工室を探訪し、「空間」に留まらず、「人」「取り組み」「考え方」など、多角的な視点から取材をし、発信していきます。今回は、北多摩ブロックより、東村山市立萩山小学校の大森直子先生の図工室です。

 

きれいではないけど、美しい図工室

 図工室を整備し準備しようとするとき、まず「片付けなければ」「これも捨てなきゃ、あれも捨てなきゃ」と、私たちは焦ってしまう。どこかで「きれいな図工室こそがよい図工室である」という暗黙の了解があるように思う。でも、それって本当だろうか。


 萩山小学校の図工室を見て、そう思った。整った図工室ではないけど、美しい図工室だと思った。何周回っても新しい発見があり、たくさんのインスピレーションに満ちている。子供たちの痕跡がいたるところに残り、先生の痕跡もあちこちに見え隠れする温かい空間だ。 

 壁をよく見ると、壁の模様に擬態している紙を発見した。

こういう痕跡も、そのまま残っている。

 壁に残されている子供たちの言葉。

必要だからあるのではなく、「なんとなくある」というものがあってもいい。

どんなに小さくても、それは子供の気配であり痕跡だから、大事なんだ。

 そんな子供の痕跡の中に、

この図工室の主、「ジャイコ」こと 大森直子先生が描かれていた!


 「ここも取材に来てもらう前に片付けようって思ってたのに、結局ダメだった! ほんとに片付けできないのよ!」と笑いながら大森先生は、黒板横の神棚のようなスペースから、埃を払いながら一つの作品を大切そうに降ろしてくれた。

「この作品をつくってくれた子が、私にジャイコって名付けてくれたんですよ」

 それは、もう20年前の話。それから先生は、ずっとこの作品を大事に飾っている。

 「これはね! いつだったかなあ・・・」「これも、あの時の・・・」

 一つ一つにエピソードがある。そんなたくさんの痕跡たちが、この場を取り囲み、どこにもない魅力的な場をつくっている。整っていないけど、美しい図工室をつくっているのだと思った。

 

Be Creative Be Original

 そんな図工室の壁に、「創造的であれ 独創的であれ」という言葉が掲げられていた。

 「人の敷いたレールの上を安心して歩くより、自分で決めて歩いていこうって、6年生の子供たちに、最後に話すんですよ」

 「でも最近、何をするのかわかっていることはできるけど、自分で決めて冒険できる子が減ってきている気がするんです」と大森先生。

 そんな大森先生が、授業で特に気をつけていること。それは、授業の導入を短くすることだ。

「昔、私の導入は、すごーく長かった」導入が長くなるのは、「いろいろ心配しちゃうから。」

 子供がこうなったら困るだろうな、ああなったら困るかなあと、転ばぬ先の杖的に先回りして支援すること。

 でも、それは子供に考えさせるチャンスを奪うことでもある。

 そう考える大森先生は、できるだけ導入を短くして、すぐ子供たちに活動を手渡すように心がけている。

 途中で同じことに困った子が3人現れたら、「ピンポンパンポーン!」と、全体にお知らせする。課題に出くわし、困り感をもった時だから、みんな話を聞こうとして、話が自然と入りやすくなるという。

 予測不能な時代が来ると、ようやく言われはじめた今。でも、子供を取り巻く環境はどうだろう。街は管理され尽くされ、家庭では大人の目が行き届き、子供が出くわすより前に、危ない石がいつもどけられているような現代。そんな子供時代を生きる子たち。

 子供を困らせない授業をつくることが、本当に子供たちのためになっているのかわからない。だから、子供たちが自分で考えるための、最低限の導入でいいのだという。

 

授業ばかりやってないで、外へ出よう

 「(この図工室は)ユニバーサルデザインでは全然ないですよね(笑)。でも、そうじゃないから生まれるものもあると思う。授業に集中しないで、窓の外の空がきれいだなあ、なんかあれ面白いなあっていろいろなインスピレーションから、つくりたいことが見つかることがあってもいいじゃない」というお話も、どこかで考えが繋がっているようにも感じた。

 大森先生自身も、授業をつくったり考えたりするときは、だいたい思わぬところからインスピレーションを得ているという。

 「最近、図工の先生たちは、週に24時間も授業をもつのが当たり前っていうけど」と大森先生。それでは、よい授業ができないじゃないかと疑問だという。

 「授業ばかりやっていないで、もっと外へ出て、いろいろな人に出会いましょう!」

 いろいろなところやいろいろな研究会へ出かけると、必ず誰かに出会える。そこでの出会いが、自分の世界を広げてくれる。

 そういう大森先生も、若い時に、都図研や多摩図研で出会った先輩たちに、たくさん面倒をみてもらい、育ててもらったのだという。「今度は、私がそういう先輩にならないと、と思っているうちにいつのまにか・・・」と笑いながら話す。

 本当に、学ぶことのたくさんある、素敵な図工室での時間だった。

 

取材担当:渡邉裕樹(昭島・つつじが丘小)