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神々のおいしい故郷。Vol.1

2020.03.31 03:40

神々のおいしい故郷。

鹿児島県内の田園を旅すると、ふしぎな石像に出会う。
どこかユーモラスなその石像は、「田の神さぁ」と呼ばれている
村々の田んぼの豊作や、人々のすこやかな日々を
ずっと見守ってきた神様だ。
その「田の神さぁ」のルーツはなんと
日本の神々の時代までさかのぼるという。
田んぼから見える神々の足跡。
人々が大切にしてきた祈りと暮らし−。
これまで気づかなかったふるさとの風景に出会った。


たくさんの田の神さぁ


みずみずしい緑の苗が田んぼに植えられ、

その苗が雨の恵みにぐんぐんと育ち、

たくましく生長した稲から穂が出る。

だんだんと黄金に色づいた稲穂はこうべを垂れ、

やがて収穫。

そして、ふっくらと炊き上がった新米をおいしいなぁ、

幸せだなぁと味わう−。

そんなふうに繰り返される鹿児島の食の風景を見守る存在、

それが「田の神さぁ」だ。

石でつくられたその神様は、

村々の田んぼを見渡せる小高い場所や

畦道にそっと据えられている。


田の神さぁは、

18世紀初めの江戸時代、

島津の殿様が薩摩を治めていたころ、

南九州の村々の人たちによってつくられた。


現存を確認されているだけでも

その数千八百とも二千ともいうから凄い。

全国各地に「田の神信仰」はあるけれど、

これだけたくさんの石像が見られるのは、

鹿児島だけらしい。


田んぼ作りの始まる早春、

山の神が山から下りて田の神になり、

収穫の終わった秋、

山に帰り山の神になると考えられている。


面白いのは、その姿形。

地域によって特徴があるものの、

神官、僧侶、農民、地蔵、武士、

なかには夫婦の姿をしたものもある。

この変幻自在、自由奔放なところも

親しまれてきた一因だろう。


土地の人々と田の神さぁのつきあい方も、

実にいろいろだ。

ある地区では田の神さぁを

みんなで担ぎ込んで花見をさせたり、

また、ある地区では結婚式の席に据えたりという風習もあるらしい。

さらには田の神盗みの風習「おっとい(盗むという方言)」もあったという。

豊作の続く田んぼの田の神さぁを、

こっそり盗んでも3年後に返せばよい、というのだ。

よくないことをしても咎めないのだという。

さすが、おおらかな南国の地におわす神様である。


静かにたたずむ田の神さぁを見ていると、

自然と人との関係が浮かび上がってくるようだ。

天や地が荒れ狂うことなく、

お米の豊作をもたらしてくれるようにと、

人々はずっと祈ってきたのだ。

田園風景のドライブ中に、

ひょっこり田の神さぁに出会った時の

わくわく感といったら。

ちょっとした旅の楽しみだ。