【番外編】こんな夜には。。。
雨がパラつき、少し肌寒かった夜のこと。
その時、私がいた場所は、行きつけの福岡のとあるバー。
住宅街の中にあるこのバーは、知る人ぞ知る隠れ家的でお洒落なお店。
ママの独特な感性、ピアノの音色がとても美しく響く空間、こだわりのお酒や選曲等々、何かが気になり通ってしまうお店。
久しぶりにこのお店を訪問し、閉店まで1時間を切った21時過ぎ。
最後に、工藤 隆氏のピアノが聴きたくなった私。
ママにリクエストし、そのソロ・アルバムが流れ始めた直後のこと。
入ってきたのは大学生と思しき若いカップル。
彼らが座ったテーブル席は、スピーカーに相対峙していた私の目の前。
少し幼い顔つきの彼らにどことなく漂う緊張感。
メニューを見て、お酒についてママに質問する男。
ママとの会話に少し緊張感が解けたのか、初めて二人が見せた笑顔。
注文したお酒が運ばれ、美味しいね!と明るく語り始めた二人。
彼らから視線を外してカウンターの方を向き、ママと会話し始める私。
静かな空間に響きわたるピアノの冴えた音色、その緊張感を伴う独特な音使いやリズム。
しばらくして気がつくと、めっきり口数が少なくなっている二人。
もし気持ち良く酔えるジャズを期待して来たのなら、悪いことをしたかなぁ、等と思っていたら、男が立ち上がり、コートを羽織って、ママに一言。
ありがとうございました。私だけ先に立ちますので。
小型のスーツ・ケースと共に静かに立ち去っていく男。
立ち上がることもなく無言で座っている女。
その後も残されたテーブルで表情もなく、一人、居残り続ける女。。。残ったお酒を飲んだりしているものの、心はここにない様子。
連れの福岡最後の夜だったんです。
彼、ずっとこのお店に来たがっていたので。。。今日、来れて良かったです。
これはしばらくして彼女が立ち去る際、ぽつんとママに言った言葉。
詳細は不明なものの、どうやら就職のため男が東京に旅立つ記念すべき日であり、彼らにとってとても貴重でかけがえのない時間だった模様。
そんなことを考えていると、思わず蘇ってきた数十年前のある場面。長い間、思い出すこともなかったその鮮明な記憶のほろ苦くも、甘酸っぱいこと。。。そして、ちょうど閉店時間。
彼らとその思い出を演出したこのお店とママに、今後、幸多からんことを!
【追記】新型コロナ・ウィルス騒動で大変なこの時期だからこそ、書きたかったこのお話。ぎりぎりとは言え、エイプリル・フールの日に記したのがミソではあります。。。さてさて、どこまでが事実でしょうか?ご想像にお任せいたします。笑