人事・HRの担当者が押さえておくべき、“上司力”の基本!「心理的安全性を高める力」と「論破ではなく対話のスタンス」が最重要ポイント
こんにちは、前川由希子です。10年にわたり、人材育成・組織活性のサポートをしてきました。中でも上司力に関するお悩み解決を多く担当し、数年前にはその経験をまとめた書籍、『女性の話を聴かない上司は仕事をだめにする』を出版しています。
私が長年むきあってきた「上司力」。今回は人事・HRの担当者に押さえていただきたい上司力の基本、「心理的安全性を高める力」と「論破ではなく対話のスタンス」についてお話します。
■人事・HR担当なら考えたい!変わりゆく職場で重要性が増す「相互理解」のこと
全体最適を図りながら、研修や制度づくりを行う人事・HRの仕事。日々変わりゆく組織において、強化、補充すべき要素は何かアンテナをはりながら、研修や制度をアップデートしていきましょう。
今、強化すべき要素の1つに「相互理解」があります。その背景には、一緒に働く相手が変化していることが挙げられますね。
女性管理職や外国人スタッフの増加、シニア世代や学生インターンの活躍、企業には属さずプロジェクトベースで協業するフリーランスの登場など、職場は今まで以上に多様化しています。
また、以前に比べてスタッフの入れ替わりがさかんになりました。総務省の調査によると、転職者数は年々伸び続け、2019年には過去最多の351万人に到達。終身雇用の概念は弱まり、転職が一般的な選択となった昨今、隣に座る同僚は必ずしも同じ新人研修を受け、似た環境で社会人経験を積んできたわけではないのです。
そんな状況において、お互いの強みや弱みをしらないまま、それぞれが好きに動いていては、組織として最大の力を発揮することは難しいですよね。各スタッフは何を考えていて、どんな能力をもっているのか、その上で自分はどんな立ち位置にいけばいいのか……、「相互理解」を通して、ひも解いていく必要があります。
相互理解の重要性がますます高くなった職場において、押さえるべき上司力の基本、それは「心理的安全性を高める力」と「論破ではなく対話のスタンス」だと感じています。
■コミュニケーションの量を増やす土台である、心理的安全性を高める力
職場での相互理解を進めるにあたり、質の高いコミュニケーションは不可欠です。しかし、いきなり質を追求するのは難しいので、まずはコミュニケーションの量を増やすことを意識したいものです。
このとき、上司にもっていてほしいのが「心理的安全性を高める力」。「この人たちには何を話しても大丈夫。非難されることはない」と安心して話せるコミュニケーションの土台を、上司が率先してつくれると理想です。
ここで鍵となるのが、上司の雑談力です。「週末ゆっくりできた?」「そのシャツ素敵ですね」など、些細な会話をフックに、お互いのひととなりを知っていく機会をチームに与えてほしいのです。相手に関する情報が増え、何者なのかが見えてくると、警戒心が和らぎ、人と人の距離は縮まりますよね。
企業によっては、定期的なチームランチへの補助、固定席ではなく自由な席に座るフリーアドレスの実施、休憩スペースの充実化などを通し、会話量を増やす仕組みづくりをしているところもあります。
また、心理的安全性を高めるためには、1 on 1の導入もおすすめです。忙しい日々の中、上司が部下1人ひとりの様子を把握することは難しいので、定期的に時間を確保し、仕事の進捗具合や抱える課題、ときにはプライベートのことまで、マンツーマンで話す時間をとるのです。
このとき、ポイントとなるのは、部下に「この人は、自分の話を受けとめてくれるな」という印象を与えることです。部下の話を聞くときには、「うなずき」、「あいづち」、「オウム返し」の3つのリアクションで、傾聴のサインを送ります。また、表情は柔らかく、威圧感をださないように、腕や足は組まずに体をほどいて、つま先を相手にむけて座るとよいです。
■意識したいのは、論破ではなく、会話のラリーが続く対話
もう1つ、上司力の基本として管理職の方に意識してほしいのが、「論破ではなく、対話のスタンス」です。一方的に言いくるめ、会話を断絶させていては、コミュニケーションの量が増えていくことはありません。会話のラリーを続け、対話を重ねることを心がけてほしいのです。
たとえば、社内会議の場。意見を言った部下に対し、上司が「経験上、◯◯と◯◯という2つの理由から無理だ。ふざけたことを言わず、もっと現実味のある意見を言ってくれ」と論破してしまえば、部下はこれ以上、発言をしようという気にはなりません。
一方、「なるほど、いいアングルで考えてくれてありがとう。でも、◯◯と◯◯が課題だと思うけど、それについてはどう思う?」という返しであれば、どうでしょうか。まずは意見を受けとめ、発言してくれたことに感謝してから、気になる点を聞いていくのです。部下には思わぬ考えがあり、対話を重ねた先、斬新な案が生まれるかもしれません。
言葉のラリーが続けば、会話の量が増え、おのずとコミュニケーションの質もあがってきます。上司がリードしてコミュニケーションの質を引き上げている職場では、相互理解も進みやすいものです。
ぜひ、中間管理職の採用をする際やリーダーむけの研修をつくる際には、上司力の基礎である2つのポイント、「心理的安全性を高める力」と「論破ではなく対話のスタンス」を心に留めてみてください。