【東京五輪】延期のアメリカ予選メンバーから見る各国編成力
コロナウィルスの影響で延期が発表された東京オリンピック野球競技。まだ、出場国の枠は2つ残っているのですが、その内の1つの枠が『アメリカ大陸予選』です。この予選は本戦よりも先に開催延期が発表されたのですが、一部の予選参加国からは出場する選手リストが公開されていました。皆さんご存知の通り、東京オリンピックはWBCと違って、メジャー26人枠に入るような、いわゆるバリバリのメジャーリーガー”は参加できません。しかし、40人枠に入っているメジャーリーガーは参加可能で、それは今回延期となったアメリカ大陸予選にも適用されています。一方で、昨年日本が優勝した第2回プレミア12では、40人枠のメジャーリーガーは参加が認められていませんでした。つまり、アメリカ大陸予選に参加するチームはプレミア12以上の戦力を集めることが可能で、更にそこを勝ち抜いて東京にやってくるチームは、プレミア12よりも手強い相手になることが必至なのです。ただし、ここで注意が必要なのは、あくまで40人枠のメジャーリーガーを集めることが可能になっただけで、実際に選手が来てくれるのかは別の話だということです。召集は可能となっても代表チームの編成組織が選手を召集できなければ意味がありません。26人枠外とは言え、メジャー球団のお許しがなければ選手に来てもらうことが出来ない訳で、そういう意味では先ほど話にあがった『代表メンバーのリスト』というのは、代表チームフロントの編成力を表していると言っても過言ではないかと思います。そこで、今回は幻の東京オリンピックアメリカ大陸予選のメンバー表を見ながら、各国がプレミア12からどのように戦力を編成しようとしていたのか分析してみたいと思います。
様変わりのドミニカ共和国
まずは同予選の優勝候補の1つだったドミニカ共和国代表を見てみたいと思います。代表選手が、どの位のレベルの戦力かはスタッツだけみても難しいので、ここでは昨シーズンその選手がプレイした出場機会で見ていきたいと思います。具体的には、投手ならば投球回、野手ならば打席数を、メジャー、3A、2A、1A+、・・・と各クラスでどの位プレイしたかをグラフ化してみました。尚、メジャー傘下以外でプレイする選手もいるので、例えば、メキシカンリーグや独立リーグのアトランティックリーグは3A相当、カンナムリーグは1A+、といった感じで当サイトの判断で割り当てさせて頂きました。因みに、韓国KBOは3A相当にしました。これはKBOのリーグレベルが3Aということではなくて、同リーグの球団が獲得する外国人選手のレベルが3Aクラスや日本から流れてくる選手が多かったことからの判断です。同じリーグの中でも選手のレベルに結構な幅がありますから一概にはどのクラスだと言えないのですが、まぁあくまでざっくりとして目安だということでご容赦ください。
さらにメジャーでの通算プレイ年数も付け加えています。世界最高峰のレベルをどれだけ経験しているか、というのも1つの指標だと思います。話を戻して、以上の情報をドミニカ共和国代表メンバーについてまとめるとこんな感じです。
パッと見た感じ3Aや2Aクラスの選手が中心だということがわかります。更には、昨年少ないながらもメジャーでプレイした選手もいます。プレミア12では、1A+や2Aクラスの若手プロスペクトがほとんどでした。(参考:【Premier12】戦力分析~ドミニカ共和国編~)それと比べると、だいぶ経験のある選手が増えています。有名なところだと、アービン・サンタナ(SP/元LAエンジェルス)はプレミア12にも出場しましたが、何といってもホセ・バティスタ(OF/元トロント・ブルージェイズ)でしょう。メジャーで本塁打王2回、前回のWBCにも出場したビックネームです。オリンピック予選が延期になってしまったので、プレイを続けられるか未知数ですが、前回1A,2Aの若手中心だったチーム編成から考えると、対照的なチーム構成に見えます。
プレミア12でドミニカ共和国代表は、アメリカやメキシコに負けて1次ラウンドで敗退となりました。敗因としては大会最多の9被本塁打だろうと思います。元々、開催地のハリスコは標高が高く打ち取ったフライが本塁打になりやすい環境であることは、事前に予想されていました。それにしても、たった3試合だけで最多の9被本塁打というのは打たれ過ぎで、この辺のリスク管理というか、投手の技術やリスク管理に課題があったように思います。
そうみると、ドミニカ共和国代表はきちんとプレミア12のときと比べて確実に戦力はアップしているのだろうと思います。もっとも、プレミア12のときは同国のウィンターリーグの開催時期と重なりがあったので、実際の所は上手く選手の召集が出来なかったという見方なのだろうと思います。今回のメンバーにはウィンターリーグで活躍している選手もいますし、今回ドミニカ共和国代表のフロントは、結構満足のいく編成ができたのではないでしょうか。
野手の方は、元楽天のカルロス・ペゲーロ(OF/プエブラ・パロッツ(MEX))などのプレミア12組は同大会でも打ってましたが、それに加えてメジャーNo.1のプロスペクトと言われるワンダー・フランコ(SS/タンパベイレイズ(1A+))が加わりました。来年には、普通にメジャーリーガーとして活躍しているかもしれません。同じプロスペクト全体82位のジェラルド・ぺルドモ(SS/アリゾナ・ダイヤモンドバクス(招待選手))とのプロスペクトコンビの活躍が期待したいところですが、彼も来年は26人枠に入ってしまっているかもしれません。もし、無事開催されていれば、ドミニカ共和国代表はアメリカと優勝争いをしていたでしょう。
プレミア12から上積みのベネズエラ
次はベネズエラ代表を見ていきます。ベネズエラ代表は42名の予備ロースターという形ですが、ここからも色々と情報が見えてきます。
ドミニカ共和国代表と違い、プレミア12でも3A/2Aクラスやメキシカンリーグの選手を召集できていたベネズエラ代表。(参考:【Premier12】戦力分析~ベネズエラ編~)侍ジャパンの金子誠HCに「アメリカ、メキシコ、ベネズエラは勝てるイメージが出来なかった」と言わせるほど、戦力的には充実していたベネズエラでしたが、結果は日本と台湾に負けて1次ラウンド敗退となりました。格上の日本代表に対しては、途中8回表までリードしていた所、終盤フォアボールを連発し逆転負け。やや戦力の劣る台湾代表に対しては、張奕(SP/オリックスバッファローズ)の快投でお互いスコアレスの状態が続き、7回表に先制点を許し、9回にもダメ押しされて0-3で競り負けました。
ヘンダーソン・アルバレス(SP/元マイアミマーリンズ)やフェリックス・ドゥブロン(SP/元ボストン・レッドソックス)といったメジャー経験豊富なベテランが何とか無失点で凌ぐも、リリーフ陣が失点してしまう展開でした。(どちらも接戦でしたが。)プレミア12に出ていないメンバーで、今回予備ロースター入りしている選手を見ると、メジャー経験がある選手が中心なのが分かります。この辺からすると、ベネズエラ代表のフロントは前回の反省を踏まえて、チームを補強しようとしている意思が見えます。欲を言うと、もっと若手の本格派先発投手がいて、長いイニングを投げられればいいのですが。
野手の方も、アレクシー・アマリスタ(SS/元サンディエゴ・パドレス)やゴーキース・ヘルナンデス(OF/元サンフランシスコジャイアンツ)など、メジャー経験の豊富な選手がリストに入っています。こちらもプレミア12から変わらず中々手強い打線になりそうです。メキシカンリーグで活躍しているベネズエラ人選手が多いことが、ベネズエラ代表が安定して良い選手を集められている要因のように思います。
コロンビアは2A~1A+、他の国は?
次にコロンビア代表です。プレミア12には出場していませんが、同国のメンバーは全体的に2A~1A+が中心でした。
近年多くのメジャーリーガーを輩出するようになったコロンビア。しかし、マイナーリーガーの数で言うと、ドミニカ共和国の23分の1、ベネズエラの14分の1の数ということで、どうしても両国と比べると選手層の薄さが目立ちます。前回のWBCに出場したメンバーもかなり含まれていますが、MLBプロスペクトランキング全体44位のJeter Downs(SS/ボストン・レッドソックス傘下)のようにメジャーリーガー候補勢も含まれています。予選通過は難しかったと思いますが、結構こういう中堅国がアメリカやドミニカ共和国のような勝利が確実と思われる強豪国相手に土をつけることがありますから、侮れなかったりします。
他の国でもプエルトリコなどは野球の強豪国ですが、メンバーを見ると国内のアマチュアリーグ所属の選手が中心で、正直これではアメリカやドミニカ共和国、ベネズエラなど強豪国の敵にならなかったと思います。マイナーリーガーの数では両国より全然少ないものの、コロンビアよりは多いので、もうちょっと現役マイナーリーガーを召集できたのではないかと思ったのですが、ちょっと寂しい陣容ですね。また、WBC予選も控えていたニカラグア代表も、チェスラー・カスバート(3B/前サンディエゴ・パドレス)のような普通のメジャーリーガーもいますが、全体的には1Aや国内ウィンターリーグの選手が中心で予選通過は難しかったと思います。コロンビアと比べると更にマイナーリーガーの数は少ないため、ここら辺は致し方ないかなと思います。もっとも、パンアメリカン大会やキューバ代表との対抗戦などに選ばれているニカラグア代表メンバーが今回も多く入ってますから、お馴染みのメンバーと言っていいかと思います。また、U-23ワールドカップでMVPを獲得したJesus Lopez(C/トロント・ブルージェイズ2A)もメンバー入りしてますね。
このように比較すると、やはりドミニカ共和国、ベネズエラのメンバーは強力です。また、アメリカやカナダは代表メンバーのリストは見つかりませんでしたが、どちらもプレミア12に近いメンバーになっていたのではないかと思います。もし、アメリカ予選が予定通り開催されていたら、この4つの国のどこかが出場権を得ていたと思います。
バリバリのメジャーリーガーが出場しないことがよく取り上げられるオリンピックですが、かといってフルメンバーの侍ジャパンが普通に勝てるかというと、見ての通りとても簡単に勝てるような相手ではありません。そういった相手を破ったことで得られた金メダルがどれだけ価値があるのか。もし侍ジャパンが東京オリンピックで金メダルを獲得できたとしたら、メジャーリーガーがどうこう言わず、その功績を正しく評価して上げて欲しいものです。
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