港町
その呼称は忌まわしき過去を連想させる。変更になびく会場に単身乗り込みその決定を覆す。不毛な対立からは何も生まれないと。三十年間も監獄に閉じ込められながらも何故に許せるのかとは白人の主将。強靭な信念で黒人と白人の融和を目指した南アフリカのネルソン・マンデラ大統領を演じるはモーガン・フリーマン。ラグビーを通じた国の復興、「スプリングボクス」の奇跡を描いた「インビクタス/負けざる者たち」(クリント・イーストウッド監督)。筆舌に尽くしがたい壮絶な過去に決別を告げるべく国の将来を託されし選手たちは強かった。
何も迫害受けるは黒人に限らず。ましてや敵国とあらば尚更のこと、「逆境に励ましてくれたのはいつもベートヴェンのシンフォニーだった」と御著書にあった。縁あって名門ジョンズ・ホプキンズ大学に知己を得て、単身渡米、受け手おらぬ黒人街の開業医として診療に従事する同氏に舞い込んだ依頼。祖国との交流に一役買わぬかと告げられた当時を振り返る。地元チームのワールドシリーズ制覇に本市の川崎球場での親善試合が予定されたとか。巻頭を飾るは後に外務事務次官となられる元在米全権大使の祝辞。両市の懸け橋となりし御仁の波乱万丈の人生を描いた自叙伝「在米ドクター60年」(中澤弘著)は議長書庫にて貸出中。
米国東海岸に位置し、今も尚、歴史的な建造物が残るボルチモア市は国歌「星条旗」の舞台。古くから港町として栄えた同市から内陸に鉄道が敷設され、鉄鋼を中心とする重工業で栄えたものの、時代の趨勢には逆らえず、人口減少に凋落の一途辿るも近年はジョンズ・ホプキンズ大学にメリーランド大学と先駆的な研究機関を中核に様々な取組が進むほか、再開発により変貌遂げたウォーターフロントには有名ホテルの進出が相次ぐ。首都ワシントンDCとフィラデルフィアの中間という本市に類似した地の利も手伝ってか成長著しくも悩みの種は...治安。
ここだけの話、というか既に広く知れ渡っているのだけれども治安の悪さは全米屈指な上に汚職も絶えぬとか。現職の市長とて前任の辞職に伴い、任期途中に議長から市長への転身。ゆえに市長としての信任受けておらず、来年の市長選にその座を狙う対立候補は少なからず。その一人が現職の議長だとか。おいおい、両名が出席する歓迎の晩餐会で私はどう演じればいいのか。台本なくも乏しい英語力を駆使して周辺の取材を終えた。下馬評含む情勢分析と展開予想は...内緒。
姉妹都市などと申しても市井の人に浸透しとらん、一部の自己満足に過ぎんのではないかとの懐疑的な見方は巷に少なくなく。されど、向こうの歓迎ぶり見れば認識も改めさせられるもんで。その発端となりしは第二次世界大戦の苦い教訓を踏まえてアイゼンハワー大統領により提唱された草の根交流。「人と人との交流(People-to-People)」を通した平和の実現。そんな崇高な理念に全米各地で姉妹都市が模索された結果、本市も...。それで多少は興味を抱いていただいたかどうか。足りない方はJR川崎駅すぐのルフロン前の赤いモニュメントを御覧あれ。同じものが向こうの中心地にもあって。
(令和元年10月25日/2531回)