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融通

2020.03.04 20:55

過重な負担は役職の宿命と寸暇惜しまぬH団長を慰労すべく会合帰りの一杯に誘わば、贔屓の店でどうかと相手。宴たけなわに伏せられた伝票を片手に「ここは私が...」と席を立てれば些か株は上がりそうなもんだけれど、下は甘やかさぬに限る。

「不足分あらば頼む」と大金一万円を渡さば、しばし後に勘定済ませし相手から「足りぬ」と。だから不足分は...「全然」足りぬと。何をバカな、確かに季節モノの「ブリ」は私が頼んだけれどもそれ以外の然したるツマミは頼んでおらず、居酒屋のサシで二万四千円ってのは。そんな呑んべえ同士の話題とあらばろくなもんぢゃないのだけれども酩酊の産物か「珍しく」投合した事案がこちら。ちなみに今ほど騒々しくなる前の話にて誤解なく。

寡占状態の業界に風穴あける時代の革命児とならん、などと威勢良くも参入果たさば寄らば大樹の陰。料金は下がらぬどころか言われるがままの契約に生ぜし追加料金。やがては動作著しく鈍く、相手方の陰謀というか意図的な通信速度の低下と知った。そりゃ無視したアンタが悪いナ。他の参入認めるは健全な競争による利用者の便益が見込めるからであって、庇を貸したつもりが...。

そう、これまで全て直営を堅持してきた普通ごみ収集運搬の一部を民間に開放するとか。直営とあらば脅かすものなく、高い人件費に民間委託は当然との風潮に本市とて手をこまねいていた訳でもなく。やはり第一義はごみの減量化、目下、全国の政令市中、最も少ない排出量を誇る本市。排出抑制の啓発は言わずもがな、分別品目の拡大とて効果を見極めた上で資源物の回収は民間に委ねて。

ならば普通ごみはどうか。不補充を貫くにいづれ不足する人員、そこを埋めるに民の活用を排除せぬにせよ委託先に求められる回収車の保有。安からぬ初期投資を伴う以上は半ば内定通知というか証文手形でも発行されねば手は上げぬ。そうなると参入は一部に限られるばかりか、本来であれば「健全」な競争を促すはずの入札とて...。

そう、予算書に記されし人件費は「真水」なれど、委託時の人件費などはあくまでも契約上の数字であってサヤ抜いた後の当人への実際の支払い分が見えぬ。直営と然して変わらぬ委託費に不愛想な清掃員とあらば劣悪な条件に働き手が搾取されておらぬかと心配してみたり。高齢者世帯の需要に対応すべく事前の届出制による「ふれあい収集」を高く評価しとるのだけれども委託後には「契約外にて別途料金を...」などと足元を見透かされてはかなわぬ。無理が利く、いや、融通が利くのが直営の強み。

忘れた頃どころか毎年のように頻発する自然災害。不測の事態に露呈する脆弱性。その代表例がこの分野にて明暗が分かれる各地。記憶に新しい昨年とて本市の応援に駆け付けて下さったのは直営を維持する横浜市。一方で、房総半島など他県に応援を仰がざるを得ない背景にはあの政令市の事情があるとか。まもなく九年、東日本大震災において甚大な被害を被った仙台市の復興が早かった要因の一つは直営の清掃部門が小さからず。そんな教訓を踏まえてか今も直営のまま。

行革の都合のみでは思わぬしっぺ返しがあらぬとも限らず。民の活用は結構なれど、それが生活に欠かせぬ必需品とあらばより慎重に。

(令和2年3月5日/2556回)