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富士の高嶺から見渡せば

「ポストコロナ」時代の中国との向き合い方

2020.04.11 06:15

「武漢肺炎」をめぐる人類史的考察⑧

「ポストコロナ」という言葉が人々の口にのぼり始めている。つまり「新型コロナウイルス」という事態を経験した「以前」と「以後」では、世界の様相はまったく異なり、人々の生活や行動パターンも変わらざるをえず、経済を含め社会や国際関係の構造は、まさに人類文明史レベルで抜本的に変化するという意味だ。

人々の日常の暮らし、生活形態や行動パターンは、すでに挨拶のレベルから変容している。握手やハグなどもってのほか、せいぜい互いの腕や拳で軽くふれあう程度の挨拶か、あるいは日本式の互いに距離をとりお辞儀をしあう関係が今後は文明的ということになるかもしれない。人々は、膝をつき合わせ、つばが飛びかう距離でのまさに「口角泡を飛ばして」の議論や、相手の耳元へ口を寄せての恋のささやき、あるいは互い肩を組み、飲んで歌い、騒ぐ「高歌放吟」の類いの人間関係は諦めなければならないかもしれない。

会議でも教室でも、たがいに手を伸ばしても届かない距離に座席をとり、大きな声で熱を入れたしゃべり方は、皆に嫌われ、口から飛沫が飛ばないようになるべく小声で押さえた話し方が歓迎されるかもしれない。韓国の地下鉄では「社会的距離(ソーシャルディスタンス)の確保」の呼びかけとともに「車内では大声でしゃべるな」という案内表示がでるほどだ。

韓国の新興宗教教団での集団感染やイランの宗教都市を中心にした感染拡大を見ても分かるように、礼拝の形式や信仰のあり方を見つめ直す機会になるかもしれない。

しかし、こうした人間関係や行動変容の問題は、新型コロナウイルスに有効なワクチンが誕生し治療法が確立すれば自然に解決する問題で、人々も安心して以前の状態に戻る可能性もないわけではない。

~責任回避に乗り出した中国~

問題は、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で、世界各国を等しく巻きこんだ事態に対して各国が見せた対応であり、市場を開放し、モノや人の交流を阻害する障壁を取り除くことに専心してきたグローバル経済を一気に覆すような入国制限や国境封鎖、都市封鎖などの措置である。こうした事態は、人類の平和共存と発展に向けた自由貿易主義の世界経済に対する全否定であり、人類の進歩として疑わなかった共通認識への挑戦でもあった。

そうした「ポストコロナ」の新しい国際関係と世界経済において、もっとも変化が大きいのは、中国に対する各国の向き合い方ではないだろうか。今回のウイルスが最初に発生したのは明らかに中国であり、その中国の発生初期の対応が間違っていなければ、いま世界で起きている事態はだいぶ様子が違っていた可能性が高いからだ。

ところが、その肝心の中国は、中国国内での感染拡大のピークがすでに過ぎたと言い始めたころから、感染拡大の原因と責任は中国にあるという世界各国からの批判に昂然と反論するようになった。

たとえば、中国外務省の華春瑩(ホァチュンイン)報道局長は、3月31日の定例記者会見で、中国の責任を回避し、むしろ中国の犠牲によってウイルスが世界に蔓延するまで、世界各国が対策を準備するための時間的な余裕を与えたとする、驚くような論理展開で中国を擁護する発言を行った。

華春瑩氏はまず、武漢で最初に感染が確認された前後の経緯について、次のように説明した。(以下、括弧内は筆者の補足説明である)

武漢で最初に3人の感染の疑い例が見つかったのは12月27日。湖北省および武漢市の衛生当局が関係する疾病管理センターや各病院に対し疫学調査を行うように指示したのは29日。そして武漢市医療委員会が原因不明の肺炎について緊急通知を発出したのが翌30日だという。(実はこの30日という日は、武漢市中心医院の眼科医師・李文亮氏がSNSのグループチャットで医師仲間に「華南海鮮市場で7人のSARS感染者が確認された」「コロナウイルスの感染が確認された」と発信した日だった。つまりこの時点でSARSと同じコロナウイルスが原因と疑われていた。)

国家衛生健康委員会NHCは31日、武漢に調査チームを派遣。1月3日からはWHOと米国を含む世界各国に情報提供を開始したとしている。(しかし、この1月3日は、コロナウイルスの感染が広がっていることを告発した李文亮医師が、「インターネット上で虚偽の内容を掲載した」として武漢市公安局から呼び出され訓戒処分を下された日である。WHOや世界各国には情報提供しながら、地元では箝口令を敷いていたということになる。)

~「中国の犠牲で他国に準備時間を与えた」という詭弁~

さらに中国疾病管理予防センターが新型コロナウイルスのゲノム配列のデータをインターネット上に公開したのは1月11日。そして23日からは武漢の都市封鎖(ロックダウン)に踏み切った。華春瑩氏は、この間の経緯をここまで説明した上で、以下のように発言した。

(以下引用)「WHOは、中国政府がとった果断で、有効的で、時宜にかなった措置で、数十万人に及ぶ人を感染から遠ざけたと評価し、多くの国が中国の経験と方法は有益な先行事例を提供してくれたと認めている。中国政府のオープンで透明かつ責任ある態度は国際社会から高く賞賛されている」

「WHOや多くの国の指導者、専門家、国際的メディアが言うのは、この間、中国は一つの模範を示し、中国がとった大きな努力と犠牲は、関係する国には準備を強化するために十分な貴重な時間を与えたということだ。そのことは、関係の政府が知っているし、その国民も身をもって分かっていると思う。」

ここでいう「関係の国」(中国語原文「有关国家」)とは、アメリカを指していることは、これに続く次の言葉でも明らかだ。

「米国について言えば、中国は1月3日から米国に対し定期的に関連情報を正式に通知し共有してきた。(中略)彼らは罪も恥も感じないのか?彼らは中国に対して今世紀最大の罪を負いかぶせようとし、中国をスケープゴートにしようとしている。しかしそれはまったく不可能だ。残念だが、そうはならない。」

華春瑩氏は、さらにこんなことも言っている。「パンデミックはある意味、マジック・ミラー(面照妖镜)と同じで、個人のモラルや本分を等身大のままに映し出す。ウイルスはイデオロギーも、国境も人種も関係ない。全ての国の運命は共にあり、他人を貶めたり、罪をなすりつけたりしても失われた時間は取り戻せない。ウイルスに打ち勝つ唯一の道は団結と協力しかない」(引用終わり)

しかし、この論理は、いままさに急激なスピードで感染が拡大し、日ごとに死者が急増しているアメリカやヨーロッパ諸国を納得させ沈黙させることにはならないだろう。却って、事態がここに至ってもいっさいの反省も謝罪もしない中国に対しては改めて「異様な国」、「異質の国家」という印象を深く刻みつけることだけしかない。

~中国の隠蔽、真相公表の遅れは明らかだ~

かつてこのブログ<「武漢肺炎」をめぐる人類史的考察①「新型ウイルス製造輸出大国」の汚名を負った中国>でも書いたが、

李文亮医師が12月30日に、ヒトからヒトへの感染、院内感染が起きていることを告発していたにも関わらず、武漢市の衛生当局がヒト-ヒト感染の可能性も排除できないとようやく発表したのは、半月後の1月14日だった。しかし当日、武漢市衛生健康委員会がネットに公表した「新型コロナウイルス感染による肺炎の病疫に関するQ&A」でさえ「現在の調査結果から見て、明確なヒトからヒトへの感染の証拠はなく、ヒトーヒト感染の可能性も排除できないが、そのリスクは低い(现有的调查结果表明,尚未发现明确的人传人证据,不能排除有限人传人的可能,但持续人传人的风险较低)」<武漢市衛生健康委員会1月14日付け「新型冠状冠状病毒感染的肺炎疫情知识问答」>)とし、この時点でもまだヒトー-ヒト感染への危機感はまったくといっていいほどなく、むしろ対策を間違った方向に誘導していた。

そうしたなか、中国衛生健康委員会の専門家チームが1月19日に武漢に入り、武漢協和病院で院内感染が起きていることを確認した。専門家チームの一人でSARSに時にも先頭に立って活躍した免疫学の権威・鐘南山という学者が、その日のうちに北京に帰って李克強に報告。1月17・18日ミャンマーを訪問したあと雲南省に滞在していた習近平と連絡をとり、1月20日に出したのが武漢で発生した新型肺炎に関する「重要指示」だった。世界はこれによって初めて中国で起きている事態を確認することができたのだ。

つまり、習近平自身は、1月20日までは、新型コロナウイルスに対する警戒も緊張感もなく、事前の予定通りの日程で、ミャンマーや雲南省を訪問していた。しかし、その後2月7日になって、新型コロナウイルスに感染した李文亮医師が死亡すると、中国のネット市民は改めて「言論弾圧」に対する怒りが広がり、これに対して一党支配体制が危ないと感じた習近平は、2月15日になって「自分はすでに1月7日の中央政治局常務委員会で警告を発した」と突如釈明し、嘘の上塗りをすることになった。当時の中央政治局常務委員会開催に関する発表文には、新型コロナウイルスに関する記述は当然のことながら何もない。

これも以前のブログに書いたことだが、武漢市の周先旺市長は1月27日、中国国営中央テレビCCTVのインタビューに「地方政府は情報を得ても、権限が与えられなければ発表することはできない」と答え、情報公開が遅れたのは中央政府の許可がなかったためだと暴露していた。すなわち、習近平がいかに取り繕うとも、中国が真実の公表を遅らせたのは明らかなのである。

~武漢都市封鎖と「空白の8時間」~

ところで中国外務省の華春瑩報道局長の言い分で、気に掛かるのは、WHOに対しては、発生確認の当初から詳細な情報を送り、事態を共有してきたとし、中国の対処の方法についてWHOのお墨付きと高い評価を得ていたと公言していることだ。

この間、WHOが正確な情勢分析と各国に対して的確な指導をしてきたかというと、決してそんなことはなく、むしろ批判の方が多い。たとえば各国が執った入国制限措置を不必要だと断じたこと、ウイルス検査の徹底を指示したが、検査で誤った診断が下される可能性や検査のために人々が病院に押しかけ医療崩壊が繋がる可能性については言及しなかったこと、そしてパンデミックという状況認識ができず、緊急事態宣言を出すのが遅れたことなど、とにかく感染症拡大の危険をいち早く知らせ警告するというWHO本来の役割を果たしてこなかったのは明らかだった。

そのWHOのテドロス事務局長は1月22日に緊急会議を召集し、この場で緊急事態宣言を出すものと注目された。しかしWHOは結局、この日の会議では緊急事態宣言を出すことはなく、出したのは一週間後の30日だった。テドロス事務局長は宣言を出す際、同時に「WHOは新型肺炎の発生を制御する中国の能力に自信を持っている。中国への渡航や交易を制限する理由は見当たらない」と述べ、中国に配慮する姿勢を忘れなかった。

しかし、中国問題グローバル研究所所長の遠藤誉氏によると、実は22日に開かれたWHOの緊急会議に際して、習近平はまもなく武漢を閉鎖するので、緊急事態宣言を出すのは中止してほしいとテドロス事務局長に依頼したという。WHOの緊急会議が開催されたのは22日午後8時(中国時間)、武漢を封鎖すると予告されたのは23日午前2時で、会議が開かれている時間になんとか間に合わせるようにと、午前2時という封鎖時間が設定されたのだという。都市封鎖という実績をつくり、緊急事態宣言を何とか回避させるためのWHOへの言い訳づくりでもあった。しかし、封鎖が実際に実行されたのは23日午前10時で、予告された午前2時から実際に実行されるまで「空白の8時間」があった。この「空白の8時間」の間に封鎖に恐怖を感じた武漢市民の多くが市外へ脱出した。そしてこの瞬間こそ、武漢からウイルスが中国全土のみならず全世界に広がる原因となったのである。緊急事態宣言を出さないで欲しいという習近平の保身からでた「空白の8時間」だった。

<youtube [新型コロナの真犯人は習近平 遠藤誉さんに聞く]>

~WHOと中国の奇妙な関係~

その後も、中国とWHOテドロス事務局長との密接な関係は随所に見られると同時に、WHOの台湾に対する冷淡な態度も目立った。テドロス事務局長は、4月8日、新型コロナウイルスの感染拡大が進んだこの3ヶ月間、「自分に対する人種差別的な攻撃が盛んに行われ、それは主に台湾からの来ている」と発言し、台湾当局がその根拠を質してWHO事務局長に抗議する事態に発展するなど、テドロス氏個人と中国との特殊な関係にスポットが当てられるような事態になっている。確かに、今やWHOは、中国が台湾を国際社会から排除するための政治手段として使っているとしか思えない存在となっている。テドロス事務局長への批判が強まると、中国国際放送CGTNはWHOとテドロス事務局長を擁護するキャンペーンを盛んに繰り広げている。

こうしたWHOと中国の姿に対して、トランプ大統領は4月8日、WHOはあまりにも「中国寄り(china centric)」だと非難し、WHOの運営資金の4分の1を握る米国からの出資を見直す考えにも言及している。

日本が「過去14日間に中国湖北省への渡航歴がある場合は入国禁止」としたのは2月1日からだった。しかし、この時点ではすでに武漢や湖北省から中国全土にウイルスは拡散していたほか、春節・旧正月休みを利用して大勢の中国人観光客が日本に来ていたため、湖北省に限った入国制限措置は無意味だった。日本が中国全土からの渡航者の入国禁止措置を踏み切れなかったのは、WHOの「中国との間の渡航制限には効果はない」という勧告に従ったことと、何より習近平の国賓訪問というスケジュールが「桜の咲くころ」の3月4月に控えていたためだった。2月15日、ミュンヘンでの日中外相会談、28・29日の楊潔篪政治局員の訪日でも、習近平国賓訪問の予定に変更がないことを日中双方が確認したとしていた。そして、習近平国賓訪問の延期が発表されたのは3月5日で、この日を境に日本は中国と韓国などからの渡航者に対して、14日間の自宅待機など、厳しい入国制限措置に踏み出すことになる。国賓訪問を控えた習近平への忖度が、新型コロナウイルスへの対応で、のちに高い代償を払うことになったのは、その後の経過を見れば明らかだ。

~いまだにくすぶる人工ウイルス流出説~

ところで、新型コロナウイルスの感染拡大が最初に始まった中国の責任を回避するかのような中国外務省の華春瑩報道局長の発言を紹介したが、そうした強気の発言がある一方で、中国では今回のコロナウイルスが、武漢にあるウイルス研究所で人工的に作られたもので、それが研究所から流出したという疑いが今も流布している。中国ウォッチャーの石平氏によると多くの状況証拠からも、新型コロナウイルスが武漢ウイルス研究所から漏れた疑いが強いのだという。<DHC虎ノ門ニュース2020/2/17> 

武漢にある中国人民解放軍海軍工程大学が1月2日付けで出した通知文書「原因不明の肺炎の防除と外来者の入校を厳禁する措置に関する通知」は、この時点では未知のウイルスであったにも関わらず、中国軍や大学当事者はその危険性を十分に認識していたことを証明している。<中国人民解放軍海軍工程大学に関する内部文書を扱うニュースサイト

さらにニュースサイト「財新」が2月16日付けの記事で、「科学技術部が15日に出した通知「新型コロナウイルス(新冠病毒)など高レベルのウイルス(病毒)微生物実験室のバイオセーフティ(生物安全)管理の強化に関する指導」について報じている。つまり、逆に言えば、実験室におけるウイルス管理の方法が不徹底で問題があったことを認めていることになる。

『財新』2月16日「バイオセーフティを確保せよ!ウイルス実験室の管理強化通知」

実は、中国のネット上では、中国科学院武漢ウイルス研究所の「黄燕珍」という研究員が11月にウイルスの感染したのが最初の感染例だという「噂」が流れ、彼女の名前はネット民の間で有名になっているという。北京のタブロイド紙「新京報」は噂を否定するために武漢ウイルス研究所の責任者に取材したが、「そんな名前の研究員は知らない」と答えたという。「いない」ではなく、「知らない」という答えだった。ネット民は直ちに過去の資料を調べ、彼女の名前が研究所の名簿にあったことを確認したが、彼女の顔写真だけが削除され、現在は所在不明・生死不明の状態なのだという。 

中国政府は、世界に対してしっかりと説明責任を果たすべきことはあまりに多く、人類の歴史に対して真相を明らかにすべき事柄はまだまだいっぱいありそうだ。