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原発事故による移住者の内的変容(論文の紹介)

2016.03.27 03:09

日本人間性心理学会の雑誌『人間性心理学研究』第33巻第2号が届きました。
その中に,大学,大学院時代の同級生の論文が掲載されていましたので紹介します。
同級生だから紹介するというよりも,論文の視点や姿勢から学ぶことが多いなと思いました。


論文のテーマは『福島原発事故による関東圏からの国内原発移住者の内的変容の過程』(黒瀬まり子)です。
論題からもわかるように,福島第一原発の事故による影響で,避難をしなければならない状況になった方たちがその後,どのような心理的な体験をしたのかということを調査したものです。
静岡県にも多くの移住者の方たちがいらっしゃって,静岡県臨床心理士会では福島県からの委託を受けて,移住者の方たちへの心理的なケアを行っています。
もちろん,大切な活動です。その活動を中心的に担ってくれている静岡県臨床心理士会のメンバーには本当にいろいろなご苦労があると思っています。ただ,正直なところ,なんとなく,福島県や国が「こんな支援やってますよ」というアピールの部分も含まれた事業だな,とも感じます(完全に私見です。もちろん,本当に必要としてらっしゃる避難者の方がおられることも十分に理解しています)。つまり,必要としている方がいて,その方たちに対して心から支援しようとする支援者もいる。でも,そのシステム自体が,なんとなく上から与えられたものという印象がぬぐえないというのが実感です。

もちろん,原発事故から避難して移住するというのは,これまでに国内で起きた災害や事故による避難とは比べ物にならない,あるいは未知の体験である部分を含んでいるので,福島県も国も手探りでやっているのだとも思います。

そうした中で,実際に移住した方たちの体験に寄り添いながら調査を行っているこの研究は素晴らしいなと思いました。こうした研究は「研究」であってはできないものだと思います。「研究者が知りたいから」ではなく,当事者が「この人にだったら語りたいな」,「語ることが自分にとっても意味のある時間だな」と感じなければ,意味ある語りに触れることはできません。調査の方法のところでそのことの重要性に触れ,方法論を丁寧に紹介してくれています。
研究や制度作りというものがこうして進んでいくといいのにな,と思いました。

実際に移住者の方たちがどのような内的変容を経験したのかは,ぜひ,論文を読んでもらいたいと思いますが,黒瀬さんは「あいまいな喪失」という概念を用いて,彼らの体験をまとめています。震災ではたくさんの「あいまいな喪失」が体験されたと思いますので,その視点自体は新しいものだとは思いませんが,「あいまいな喪失」という言葉(専門用語)に内包される当事者の方たちの困難をより深く理解するための視点を与えてくれているように思いました。