Ameba Ownd

アプリで簡単、無料ホームページ作成

ide LAB.

子どもと将来について考える取り組み

2016.05.15 12:42

このブログでも紹介してきましたが,児童養護施設で子どもたちと一緒に将来について考えるグループワークをしています。
早いもので今年度で4年目を迎えました。
昨年度は3か所の施設で,15人ほどの子どもたちと一緒に取り組んできました。
今年度はまだどうなるかわかりませんが,先日,1つの施設で今年度のグループがスタートしました。
その施設は最初の年からやっているので,4年目です。もう施設の中にキャリア・カウンセリング・プログラムがあるというのは子どもたちにとっても周知のことで,ある年齢になると自分もやるんだということが何となく理解されているようです。

毎年,子どもたちに希望をとって,参加したい子どもが参加してくれていますが,今年度は15人の子どもが希望してくれました。
ちょっとキャパをオーバーしています。でも,希望している子がいるんだからやってあげたいよね,というのが施設のスタッフさんとの話の中でも出てきたことでした。そこで,今年度は3グループに分けて進めることにしました。

先日,その2回目を迎えました。
今回は人生で大事にしたい価値観ということについてのワークをしました。
ちょっと難しいかなぁと思っていましたが,子どもたちは自分が人生で大事にしたい価値観を熱く語ってくれました。
やっぱりちょっとしたきっかけを準備してあげると,子どもたちは将来について考えてみたいっていう気持ちを持っているんだなと思いました。

前にも少し紹介をしましたが,施設で暮らす子どもは家庭で暮らす子どもに比べると肯定的な将来展望を描くことができません。また,そもそも将来の展望を持ちたいとも思っていません。一方で,肯定的な将来展望を描けるようになることは,レジリエンス(困難に直面しても何とか乗り越えていこうとする力)を高めることにつながるという研究が海外で示されています。
子どもたちが少し将来のことについて考え,中長期的な展望を描けるようになってくれると生きていく力も高められるかなと思っています。


さて,その行きかえりの電車の中で『幼児の教育の経済学』という本を読んでいました。



ノーベル経済学賞を取ったジェームズ・ヘックマンという人の本です。
概要としては,幼児期からの早期の教育は子どもたちが成人期(40歳くらい)を迎える頃の肯定的な社会適応につながるというような内容です。ヘックマンはペリー就学前プロジェクトとアベセンダリアンプロジェクトという幼少期から成人期までを追跡して行った,2つの長期縦断研究を引用しながら,この内容を主張しています。詳しくは本を読んでみてください。それほどボリュームがあるものではありません。
私が目を引かれたのはヘックマンの主張に対して,様々な人がコメントを寄せている本の後半部分でした。チャールズマレーという人は「幼少期の教育的介入に否定的な報告もある」という題でヘックマンの主張を批判しています。彼の主張はこうです。そもそも,ペリー就学前プロジェクトもアベセンダリアンプロジェクトも,幼少期の教育に効果があるという人によって計画され,実施され,評価されている。もし,中立的な立場の人が評価をしていたらどうだっただろう?というところから始まります。最終的に,マレーはペリー就学前プロジェクトもアベセンダリアンプロジェクトも,熱心な人たちによって行われたので,確かに効果はあったかもしれないと言っています。ただ,そうした取り組みが公的資金によって,全国的にとか,全県下でといったように一斉に行われるようになったら効果は失われるだろうとしています。

「やる気に満ちた人々による,小規模の実験的努力は成果を示す。だが,それを綿密な設計によって大規模に再現しようとすると,有望に思えた効果が弱くなり,そのうちにすっかり消失してしまうことが多い」

う~ん。これは確かにそうだなぁと思いました。
効果があると言われるプログラムが世の中にはたくさんあるのに,実際に大規模に,長期的に効果を残しているプログラムって実際にはそれほど多くないのかもしれない。
そうなると,なんだ?プログラム自体よりも,やはりそれを提供した人たちの熱意や人間性やそこに生じた関係性が有効だということになるのかな?

この視点はキャリアカウンセリングプログラムを進めていくうえでも持っておかなければならないなと思いました。
肝に銘じておこう。