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ide LAB.

自尊感情は虐待を受けた子どものレジリエンスを高めるのか?

2016.09.05 06:29

横浜で開催されている日本心理臨床学会に来ています。



7月の日本福祉心理学会を皮切りに4つ続いた学会での発表もやっとこれで締めくくりです。
心理臨床学会は規模も大きくたくさんの人が参加します。それだけ発表も多くて刺激的です。

今回はポスター発表をしました。
テーマは『児童養護施設児童のレジリエンス促進要因としての自尊感情 ‐多母集団同時分析による家庭で暮らす子どもとの比較検討‐』でした。要するに,施設で暮らす子どものレジリエンスを高める時に自尊感情はどのような役割を果たすのか?という研究です。
これまでの研究成果から,施設で暮らす子どもはレジリエンスが低く,困難に直面した時にその困難を何とか乗り切ろうとする傾向が低いことが明らかになりました。また,自尊感情も低く,自分を肯定的に捉えることができにくいということが示されています。

そんな中で子どもたちが社会に自立していく際にはレジリエンスを高め,直面するであろう困難を何とか乗り越えていく力を身に着けてもらうことが必要になります。
海外の研究ではレジリエンスを高めるためにはどのようなことが効果的なのかということ(保護要因,促進要因)についての研究が行われてきましたが,日本では全くと言っていいほど行われていません。海外の研究の中に自尊感情を高めることが,特に施設の子どものレジリエンスの中でも自分の力で何とかしよう(自己志向性)を高めるという研究があります。そこで,今回の研究では日本の施設で暮らす子どものレジリエンスに自尊感情がどのような影響を与えるかについて検討しました。

結果は家庭で暮らす子どもも,施設で暮らす子どもも自尊感情が高まるとレジリエンスが高まり,困難を乗り越える力が高まることが示されました。しかし,その影響の強さには違いがあり,施設児童では自尊感情が高まると自己志向性がより高まるという結果が出ました。海外の研究の知見を確認する結果になりました。

施設で暮らす子どものケアをするとき,自尊感情を高めることを1つの目標にすえるとレジリエンスが高まりやすい。つまり,施設の子どもの自立を考えた時,自尊感情を高めることが有効な道筋になる得るという結果です。

では,どうやったら自尊感情を高めることができるのか?
そのことについてはこれからの実践的研究が必要になってきますが,今のところ,自尊感情を高めることが確認されているのはService Learningや生い立ちの整理,キャリア・カウンセリング,精神的健康に関する心理教育などです。一方で,TF‐CBTはトラウマの除去には効果があるが,自尊感情を高めるということについての効果はまだ示されていません。

CBTは効果的な支援の方法だと思いますが,「より良く生きる」ということに焦点を当てると必ずしも十分とは言えない介入の方法なのかもしれません。問題を消去する支援と「より良く生きる」支援の双方を提供することが施設で暮らす子どもの自立には必要かもしれないということを示唆する研究でした。

知り合いも含めてたくさんの方に発表を見に来てもらいました。他の方の発表も拝見して,勉強になることもありました。これから一緒に研究する機会が持てたらいいなぁと思う研究をされている方にも会うことができました。


過去に私がやった研究を読んでくださっていて話しかけてくださったり,「お会いしたかった」と言ってくださる方も多くいらっしゃいました。
はや40歳。大学院生の頃は先生や先輩たちの発表を見てドキドキワクワクしていたのを思い出します。その時の私のように,私の発表を見に来て下さる方がいらっしゃると思うとうれしいなと感じました。
何よりも施設や社会的養護に関する研究がたくさん発表されるようになったのに時間の流れを感じます。

これからまたレジリエンスに関する新しい,大規模な研究を始めます。
子どもたちのためになる研究になるということはもちろんですが,またこうした場でいろんなご意見をうかがえるといいなと思います。

足を運んでくださった皆様,ありがとうございました。