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ide LAB.

子どもの頃,虫,殺したことありますか?

2017.01.25 07:11

大学院の講義では,院生と一緒にいろいろな疑問についてディスカッションしたり,文献を調べてみたりする比較的行き当たりばったり的な要素を含めた授業をしています。いろんなカップ焼きそばも食べてみています。
(あ,もちろん,講義もしますが,ある程度講義したらあとは受講生の発想を活かそうということです)

以前,「子どもの残虐性」についてディスカッションしたことがあったのですが,その時,私はそもそも人の攻撃性はどこから来たのか?ということで,京都大学総長で,霊長類学の権威である山際先生が書かれた本を読んでレポートを書きました。



(facebookには書いたのですが…)
本の内容はゴリラを始めとする類人猿の生態,行動を分析し,ヒトと比較することによってヒトの特徴を描こうとするもの。特に,なぜ,人は暴力をふるうのか,戦争をするのかということについて。ちょうど,先日,NHKスペシャルでツキノワグマの番組をやっていましたが,その中でオスが繁殖のために子殺しをするという話が出てましたが,同じように子殺しは類人猿にも見られるそうです。山際先生はそうした子孫を残すための欲求が実は私たち人間の中にも残っていて,児童虐待の中にはそうしたものも含まれると考える必要があると述べていました。

さて,今回は院生が発表してくれる番だったのですが,ある院生が選んでくれた論文がとても興味をひくものでした。

"The development of a screening questionnaire for childhood cruelty to animals"
Guymer, Elise C., Mellor, David, Luk, Ernest S. L. and Pearse, Vicky 2001, Journal of child psychology and psychiatry and allied disciplines, vol. 42, no. 8, pp. 1057-1063



動物を虐待する子どもの残虐性を測定する質問紙を作成するという論文なのですが,虫を殺したり,その行為を楽しんだりするといった残虐性が年齢と共にどのように変化するのかということも示されています。
それによると,大まかに,男女ともに6歳あたりで動物を傷つける残虐性が一気に高まり,加齢とともに徐々にその残虐性は減少していきます。ところが,10歳を過ぎる頃になると男女差が表れてきて,男の子の残虐性は再び上昇を始めます。一方で女子の残虐性は一気に減少し,その行動自体がほとんど観察されなくなります(性の多様性のことを勉強し始めるとこうした「男女」の比較の妥当性について考えたりもしますが…)。
年齢によるサンプルにばらつきがあるので,こうした推移や性差について統計的な検討は行われていませんが,こうした残虐性の推移は面白いなと思いました。

ディスカッションをする中で,6歳の頃に見られる残虐性と10歳以降に見られる残虐性は少し性質が違うよね,という話になりました。
発表してくれた院生は6歳頃に見られる残虐性を「素朴生物学」の獲得に関連があるのではないかと考察していました。
要は,生と死のとらえ方が経験的なものから,理解として変化していく過程で昆虫や動物を殺したり,いじめたりするのではないか?ということです。
子どもたちにとっては不思議なことを実験しているという感覚なのかもしれません。



それに対して,10歳以降に見られる残虐性はギャンググループとも関連をした,集団による影響があるのではないか?ということもディスカッションされました。
仲間関係の中で試しにやってみたことが面白おかしく,あるいは秘密として共有される。そこに虫を殺したりする行為が含まれ,決して1人ではしないことでもブレーキがかからず集団でならやってしまうというイメージです。

いずれにしても,このデータは一応,健常な子とされる子どもを対象にしたデータです。どういった子どもの”残虐性”が通常の発達の道筋から外れるサインとなるのか?ということについて知りたいなと思ったのですが,この研究ではAD/HDなどの臨床群のデータもとられていますが,そこまでは検討されていません。自分の子どもの頃の振り返りの意味も含めてしりたいと思いました。