【論文の紹介】里親家庭におけるキャリアカウンセリング
里親家庭から巣立つ若者へのキャリアカウンセリングについての研究論文を読みました。
これまでなかなかなかった論文なので興味深かったです。
Stevenson, B. J.(2017)Developing a career counseling intervention program for foster youth, Journal of employment counseling, 52(2), p75-86.
⇒http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/joec.12055/abstract
実証研究というより,貧困家庭や人種的なマイノリティの家庭から自律する若者へのキャリアカウンセリングを里親家庭から巣立つ若者にも適用しようという理論的な検証をした論文です。
世界的に見ても,里親家庭や施設から巣立つ若者のキャリア形成に目を向けた研究はほとんどありません。そんな中で,個人的にはとても興味深く読めた論文でした。
この論文の舞台であるアメリカでも,論文の中で引用されているオーストラリアでも,里親家庭や施設の若者は将来展望が描けなかったり,就労に関する意欲が乏しかったりするようです。これは日本で私がやってきた研究の成果でも同様です。
著者は,里親家庭の若者のキャリア形成の特徴と貧困家庭,人種的マイノリティの若者のキャリア形成の特徴を照らし合わせながら,里親家庭から巣立つ若者へのキャリアカウンセリングの内容について提案をしています。
その要点は以下のような内容です。
(1)キャリアに目を向けること
キャリアというものに目を向けること自体が,キャリア形成を進めるうえで重要な要素となるとされています。しかし,里親家庭で暮らす若者は職業選択の幅が狭いという認識を持っているために,キャリア形成に関する正しい知識と情報を提供することが必要であるとしています。
(2)キャリアを探索する
自分のキャリアを探索しようとすることはキャリア形成において重要な要素です。青年期には自己理解を深めると共に,自分に向いている職業などについて考えたりし始めます。そうした時,家族関係がキャリアを探索することに影響を与えていることが先行研究によって示されています。親子の良好なアタッチメントや幼少期に養育者と子どもが一緒に活動したりすることとキャリアプランニング行動には正の相関があるという先行研究に基づくと,里親家庭の子どもはキャリアプランニングの経験が少ないと考えられるために,キャリア探索を進めるような介入が必要だとしています。
(3)職業的な志や期待を育む
里親家庭の子どもは一般家庭の子どもよりも職業的な志や期待が低いことが示されています。同様に,有色人種の貧困家庭の子どもも職業的な期待が低いようです。職業的な志や期待は勉強や仕事における成功を予測する要因になるにも関らず,里親家庭の子どもの職業的な志や期待が低いことから,職業的な志や期待について話し合ったりすることが必要であるとしています・
(4)職業的な興味を育む
職業を選択する時,その人の職業に対する興味を考慮する必要があり,興味と一致した職業に就くことは仕事への満足度や心理的な幸福につながるとされています。しかし,里親家庭の子どもの職業的興味は限定的なものなので,キャリアカウンセリングでは,職業的な興味を育むことが目標の1つに据えられます。
(5)アルバイトの経験
アルバイトの経験は,キャリア発達において重要な役割を果たすとしています。アルバイトをすることは職業的なスキルや対人関係のスキルを身に付けるだけではなく,自己価値を高めることにもつながるため,お金を貯めるという目的以外でも,アルバイトを経験するということは重要であるとしています。
理論的な検証が目的の論文で,実践についての効果検証はこれからのようです。効果を測定することはなかなか難しいと思いますが,楽しみだなと思います。
個人的に連絡を取ってみようかな…
「おとなになるってすてたもんじゃないな」「将来のことについて考えてみるって面白いな」と思えるような自立支援に取り組みはじめて5年ほど経ちました。社会的養護の若者の支援をしている取り組みの中にも「おとなになるってすてたもんじゃないな」「将来のことについて考えてみるって面白いな」という取り組みをやりましたよ,というような報告が見られるようになってきました。良いことだなと思うと同時に,きちんと理論的な支えを示していかなければいけないなと思いました。今年の目標の1つです。