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auフィナンシャルホールディングス 執行役員 最高デジタル責任者 藤井達人
IBMにてメガバンクの基幹系開発、インターネットバンキング黎明期のプロジェクト立上げ、金融機関向けコンサルティング業務に従事。その後、マイクロソフトを経て、三菱UFJフィナンシャル・グループのイノベーション事業に参画し、フィンテック導入のオープンイノベーションを担当。「Fintech Challenge 2015」「MUFG Digitalアクセラレータ」「銀行APIハッカソン」等の設立を主導。また、APIやブロックチェーン等の新規事業等の立上げも手がける。現在はKDDI/auにて、フィンテックを活用したデジタル金融サービスの創造に取り組んでいる。
コロナ危機に克つフィンテックとは、海外金融機関の顧客対応を解説 2020/04/06
新型コロナウィルスが世界各国での経済活動に甚大な影響を与えるなか、金融機関、フィンテック企業はどのように振る舞っているのでしょうか。
また、この未曾有の危機後の世界にはどのようなサービスが求められるようになるのか、考えてみたいと思います。
<目次>
①コロナ対策、まずは目先の危機をデジタル化で乗り切る
②欧米に学ぶ金融機関のコロナ対策
③チャレンジャーバンクのコロナ対応
④フィンテックはコロナショックを超える
コロナ対策、まずは目先の危機をデジタルで乗り切る
今なお進行中であるこの未曾有の危機は、いつ終息するのか、そもそも果たして終息することが可能なのかどうかですら予測できません。
“アフターコロナ”を考える余裕はなく、まずは目先の危機を乗り切ることで精一杯の企業がほとんどではないでしょうか。
多くの金融機関やフィンテック企業がこの危機に対応し始めています。
欧米の銀行は過去数年、コスト削減のために支店ネットワークの縮小を続けてきましたが、外出自粛や禁止などが広がる中で、顧客のモバイル利用率をさらに引き上げようとしています。
オンラインチャットはその手段の1つです。
対面での会話が避けられるようになり、支店も閉鎖されるため、顧客が銀行とオンラインでコミュニケーションが取れるようにしなければなりません。
先進的なユーザー体験(UX)で知られる北米のアムクワ銀行(Umpqua Bank)は、同行が提供する “Umpqua Go-To”の利用が、3月に入って30%以上も上昇したことを明らかにしました。同行の顧客はこのアプリを使って支店に行く必要がなくなり、通常の銀行取引だけでなく、融資などの相談ができるようになります。
加えて、このアプリは本物のバンカーが対応するため、専門家を交えた3者による相談など、この局面で顧客が必要としている支援をフルに提供することが可能です。
こうしたツールは、有事の時にも顧客エンゲージメントを高めることができる強力なものであるといえるでしょう。
欧米に学ぶ金融機関のコロナ対策
北米のアカデミーバンク(Academy Bank)はビデオチャットが可能なスマートATMと、ドライブスルーでビデオチャットができるAcademy Expressを展開済みです。
同行では顧客に対し、コロナウィルスに関連するWebの情報提供ページにて、こうしたチャネルの利用を推奨しています。
これらの機器はすぐに設置できるものではないため、同行のアドバンテージは大きいと言えるでしょう。
顧客が店頭での接触を極力さけようとするために、非接触決済の普及が加速することも考えられます。
オランダの銀行は、非接触型取引のPIN番号を入力不要な設定に変更し、決済金額の上限も100ユーロに倍増させました。
ペイパル(PayPal)やスクエア(Square)のようなフィンテック事業者は、モバイル決済の需要が増える事を予測し、雇用を増やす方向にさえ動いています。
欧州のモバイルペイメント事業者であるサムアップ(SumUp)は、モバイル決済とオンライン請求書に関する利用手数料を4月末まで無料にする施策を実施しています。
決済をEメールやメッセンジャーのリンクで実施し、また請求書をオンライン化することで紙を減らしてウィルス感染リスクを下げつつ業務を効率化しようという試みです。
同社は、中小企業オーナー向けに貸付機能を持つカードも提供しています。
チャレンジャーバンクのコロナ対応
チャレンジャーバンク(銀行ライセンスを持つモバイル専業銀行)の対応も見てみましょう。
この経済危機では、中小企業や個人事業主が最も損害を被りやすいと考えられますが、こうした層を主ターゲットとするチャレンジャーバンクであるノースワン(NorthOne)は、中小企業が無償、もしくは割引を受けられるさまざまなツールや特典に関する情報を取りまとめて同行のWebサイトで紹介しています。
たとえば、「フェイスブックは数週間以内に助成金の受付を始める」「クイックブックスは3カ月半額もしくは30日間無償プランを提供」「 メインベスト(Mainvest)は2,000ドルまでゼロ金利で融資を提供」など、7つのカテゴリーで合計67種類の情報を掲載(2020年3月29日時点)しています。NorthOne自身も3カ月手数料無料のプランを提供中です。こうした情報は点在しており入手しにくいため、まとめてあるだけでも価値があります。
そのほか、多くのチャレンジャーバンクも、この危機に増加するであろう融資やオンライン請求書発行のニーズに応えるべく、新サービスのローンチを早めようとしているようです。
銀行は、有事だからこそ個人や企業にとって重要な存在でもあるため、サービスが劣後すると他行に顧客を取られてしまう可能性があります。
チャレンジャーバンクの間でも生き残りを賭けた競争が激しくなっているのです。
一方、本来の金融サービスとは異なる周辺系のサービスで注目を集めているものがあります。
資産運用会社であるフィデリティ(Fidelity)は、“Fidsafe”という情報預かりサービスを提供していますが、これは、顧客が自分の重要な情報、例えば不動産関連書類、保険証書、ネットバンキングのアクセス情報、遺告状などの情報をアップロードし、家族と共有することができるというものです。
シニア層の顧客およびその家族は、ウィルスに感染した場合を想定して、こうした情報をまとめて安全に保管しておき、万が一の備えておけるサービスの利用を希望し始めているようです。
今後、こうしたサービスを提供する金融機関は増えていくものと考えられます。
フィンテックはコロナショックを超える
しかし、将来の予想が難しいこの危機においては、チャレンジャーバンクを含むフィンテック企業の先行きを不安視する声も上がり始めています。
旺盛な投資マネーをバックに資金調達を成功させ、多くのチャレンジャーバンクが生まれてきました。ほとんどのチャレンジャーバンクは収益化の途上であり、大手銀行と比較して高金利の口座と手数料無料をフックとして顧客数を急速に伸ばしてきましたが、不況に突入して運用金利が下がるとそうした施策を維持することが非常に難しくなることは想像に難くありません。
人々の経済活動が滞れば、購買活動が衰え、デビットカードの手数料収入も下がります。
オンライン融資を提供するソーファイ(Sofi)やキャベッジ(Kabbage)などのフィンテック企業も、急激なデフォルト率の変化に対して体力が持つかどうか、不明です。
しかし、筆者はこの困難な状況にも、フィンテック企業は対応して生き残るだけでなく世界を支える存在になると確信しています。
金融コンサルティングを提供するデヴェーレグループ(deVere Group)の調査によると、ヨーロッパではフィンテックアプリの利用が大幅に増加し72%に達しているとのことです。
世界的な不況の影響が押し寄せる中で、アプリ利用の急速な増加はフィンテック企業にとって明るいニュースです。
新型コロナウィルスの危機は、デジタルトランスフォーメーションを促進し、高度なオンライン社会になることを示すことになるのかもしれません。