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個性を介して街と繋がる住まいの在り方

2017.09.09 15:15

株式会社GEN INOUE

井上 玄


仕事をリタイヤし、第二の人生を楽しむ60代ご夫婦の住宅を設計する中で、家族や近所、街とのかかわり方や関係性を再考し、住まいと街との新しい可能性を模索した。

敷地は住宅地と生産緑地地区のエッジに位置し、敷地の宅盤は人通りの少ない前面道路から階段で約4m上がった高さにあるため、プライバシーや防犯性が確保された周辺環境であった。この宅盤には、本計画の住宅の他に、建主の娘家族が暮らす住宅が隣接し、二人のお孫さんは自宅と建主の住まいを頻繁に行き来していた。そこで、私たちはこの娘家族と共存する暮らしに着目し、設計の対象をこの住宅に住むご夫婦だけでなくお隣まで拡張し、新たな家族の繋がりと広がりを模索した。

先ず、ご夫婦の必要最低限の生活機能を一階に集約し、部屋同士のプライバシーを引戸の開閉で調整するワンルーム形式とした。お花やガラス細工といった建て主の趣味を行なう諸室は二階に計画した。一階と内部でつながっている奥様の趣味部屋だけでなく、外部からもアクセスできる独立した「離れ」として、ご主人の“ガラス工房”やお隣の孫の“遊び小屋”を点在させた。

周辺環境としては、一階レベルは北西を崖に囲われ、南側も法面(斜面)であったため庭やテラスが確保できない外部であったため、庭やテラスの役割を果たす外部空間を環境の良い二階レベルに持ち上げた。この二階の外部空間に、ご夫婦の玄関や内部空間を通ることなく外部階段で自由にアクセスできる動線を確保し、二つの家族のプログラムを分散配置することで互いの交流を促すだけでなく、様々なスケールと性格を持った路地空間を同時に設えた。この外部空間は、二つの家族が集い楽しむだけでなく、住まい手が近所の方や街と繋がる接点であり、起爆剤になるのではないかと期待している。

このように、住まい手の個性が凝縮した空間をお隣や近所、街との接点として位置づけることは、利己的になり過ぎた住宅の殻に風穴をあけ、住宅と街とのインタラクティブな関係性を見出すきっかけになるのではないか?