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日光の建築を見る小旅行

2018.10.09 15:15

鈴木アトリエ

鈴木信弘


日光と言えば、小学校の修学旅行や遠足で行ったことがある方も多いと思います。私も先日久しぶりに日光に寄ることができました。

世界遺産になった「日光東照宮」は、もはや外国人観光客、小学生の修学旅行で劇混み。東京の竹下通りを歩いているのと変わらない光景にうんざり。

神社参道空間のアプローチのシークエンスを楽しもうとも、奥の院へ続く道を進むにつれての意識の高揚や心の平穏を体験するのはもはや難しい状況。

もう直ぐ紅葉のシーズンを迎える東照宮周辺で、ぜひ見ていただきたい建築とその楽しみ方をご案内します。


日光田母沢御用邸

日光出身の銀行家・小林年保の別邸に増築、改築を繰り返して、天皇のご静養地として造営された建築です。昭和22年(1947)に廃止されるまでの間、大正天皇をはじめ、三代にわたる天皇・皇太子がご利用になりました。現存する明治・大正期の御用邸の中では最大規模のものです。

このようなキチンとした正当な造営の建築を体験できること自体がとても貴重なもので、この空間に身を置くと、物事をゆったりと考えることができそう! ですし、風情ある庭園も格別で、荘厳な趣きは中を歩くだけで、身分が高くなった気にさせてくれます。

でもここでぜひ見ていただきたいのは「屋根」と「中庭」です。

この建築群は一度に出来たものではなく、増築・改築を繰り返していますが、全く不自然さのない統一感があるのは、日本家屋の「屋根」形式がどのような平面形状の変更を行っても、綺麗に接続・修復できる構造をもっているからなのです。こんな形態整合のシステムは、他にはなく日本建築の素晴らしい特徴なのです。

大きな建築になると採光と通風を確保するために「中庭」が多数設けられることになります。どれも素敵な庭木と綺麗な苔庭ですが、庭師の出入りや枯葉のゴミ出しなどはどうやっているか。 部屋の中を通って中庭へ出入りするはずないですよね? 実は「中庭」は地上より高い位置にあり、周囲から盛り上げてあるのです。床下へ降りる扉は外部と行き来ができるようになっているんて、サービスの動線が目立たないように考えられている。そんな工夫を見るのはどうでしょう?


金谷ホテル歴史館

東照宮の西参道入口付近から中禅寺湖方面へ向かう坂を上がると, 金谷ホテル記念館、通称=侍屋敷 があります。明治以降 日本の開国によって増えてきた外国人が 蒸し暑い夏の東京を避けて避暑地としたのが日光。日光を訪れる外国人が安心して泊まれる宿として評判を高めていた、金谷家の家屋は江戸時代には武家屋敷であったことから、Samurai House (侍屋敷) と呼ばれていたそうです。

この建築は武士が刀を抜いて振り回せないように天井がとても低いのですが、その低さをまずは体験して見ていただきたいです。日本家屋の部屋の大きさと天井高さのバランスは、床座である生活ではこのくらいがちょうど良いと思うのです。

もうひとつは2階の縁側につけられたガラスの建具が連続しているのですが、引き違いでもなく、溝は1本、どうやって開けるのか? 全てを開け放すか、閉じるか。この選択が潔い。季節が良ければずっと開け放しているなんて、なんて素敵な中間領域でしょう。


旧英国大使館別荘

明治維新に大きな影響を与えたアーネスト・サトウが、故郷・英国の風景を思い起こさせる中禅寺湖畔の南岸に建てた別荘。これが後に英国大使館別荘となったこの建築です。改修?修繕でだいぶ手を加えられていますので、当時のデザインままではないでしょうが、修繕の担当者の計らいで、ずいぶんとお洒落な建築になりました。長方形の大きな箱の中に、入れ子状の部屋が2つ並んでいる構成、外壁の黒と室内の白のコントラストも綺麗です。

建築が風景を楽しむための装置であり、余計な装飾も操作もいらないことに気づかされます。中禅寺湖畔の「絵に描いたような風景」を満喫できる半外部のテラスに佇むと、大使館別荘として使われていた時代の雰囲気を堪能することができるので、オススメです。