建築物の長寿命とスクラップ アンド ビルドからの脱却
北島 俊嗣
設計事務所は日々 次なる建築を考え、新たな建築利用を実現されるためのお役に務めています。日本の建築事情は、古くなる前に壊して建て替えることが常識になっているかのごとく「スクラップ アンド ビルド(壊しては造るの繰り返し)」と皮肉られて久しい状態にあります。
社会が成熟に向かっていると言われている昨今、建築も「スクラップ アンド ビルド」の消費の方式から脱却して、建築物の寿命を如何に永くして、時代を超越して愛され活用される建築にしていくことが求められていると考えています。
1.建築物の最期=建て替えられる事情
建築物の寿命を永くしようと考えるとき、どのように建築が最期を迎えているかを捉え、最期を迎える理由にならないように建築物を維持管理していくことが重要と思います。建築物が最期を迎えるとき=建て替えられる理由や事情は様々ありますので、知り得る限りを上げてみます。
- 建築構造骨組みの老朽化
構造骨組みの鉄部や木部が、錆びたり腐ったりして建て替えを余儀無くされることがあります。 - 外装や内装の老朽や汚濁によって視覚的に嫌悪になる
材料の表面が腐食したり剥げ落ちてしまうことによって当初の見た目から変化して、汚らしく見えてしまい建築物自体の価値が格段に損なわれることがあります。 - 屋根や外壁の老朽や故障によって利用が困難になる
屋根や外壁からの漏水がひどく、部屋として使えない状態だったり、構造骨組みを傷めてしまったりしまうことがあります。 - 生活文化の進化や変化によって建築物の用途や使い方が合わなくなる
使用する方々や住まう方々の当初の使い方が変わってしまい、継続利用が困難になってしまう場合です。広さや高さが合わなくて、行う動作や生活が不便になってしまう場合です。 - 技術革新によって設備機器(空調や水廻り設備、通信設備)の更新が出来なくなる
設備機器は技術が進歩すると性能は同じ場合 機器は小さくなるのが一般的ですが、部屋の機能を向上させるために、新たな機器が増えて機器が部屋に入らなくなったり、更新ができなくなったりして、不便になってしまう場合です。 - 所有者の変更
所有者が変わり、建築物の使い方が変わり、新たな使い方に建築物が合わない場合です。
以上が建て替えられる理由として上げられます。
2.老朽の原因の第一は・・・水
上記のような 建築物が建て替えられる理由や事情を捉えると、(1)~(3)の建築の老朽・汚濁・故障などの、根本的な共通の原因のひとつは「水」です。万物の命に無くてはならないもののひとつが「水」なのに、その寿命を短くするのも「水」なのです。つまり「水」をうまく処理すれば、建築物の寿命は長くなると思ってください。
3.建物の寿命を延ばす工夫
建築物の老朽の原因は「水」であると申しましたが、その対策は明解で、
・雨水の侵入を防ぐ(骨組みに水が触れないようにする)
・建築物を乾燥させる、空気の入れ替えが常にできるようにする
と言えます。
この2点を原則にして建築物を維持管理すれば、訳の分からない理由で建築物の改修工事を迫る方々が提唱する内容が本当かどうかが分かります。もしその判断がつかない場合は、設計事務所という建築物財産の価値を保持・高める判断が出来る者に相談してください。
4.建築技術への理解促進のススメと新しい建築とのかかわり方
スクラップ アンド ビルド の消費の方式から脱却して、建築物財産を少しでも永く維持・活用していくためには、建て替え当初において 上記(4)や(5)を起こさない、時代の変化による使い方や設備機器の更新に対応できる建築を考えていくことは重要な課題であり、私達 設計事務所を中心に課せられた大きな課題です。
また、既存の建物の維持管理には、建築専門者を名乗って不要な改修工事を勧めて建築所有者様の財産を搾取しようとすることを排除し、真に建築物の寿命を永くする修繕や改修のみを施さなければなりません。そのためには、建築物を所有される方々には建築物を維持管理する技術への理解を深めていただくと同時に、建築物財産の維持を自らの利益とは関係ない客観的な判断が出来る者を相談者に添えることをお勧めします。
永く愛される建築を創り、育み利用し続け、(例えば、横浜市開港記念会館や赤レンガ倉庫のように)時代の価値を超越した建築を未来に残して行くことが今求められている新しい建築とのかかわり方のひとつと考えます。