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ライブレポート 「COUNTDOWN JAPAN 19/20 supported by Amazon Music」

2019.12.31 11:00

最初に
 2019年12月28日~31日にかけて、幕張メッセ国際展示場1~11ホールで開催された、「COUNTDOWN JAPAN 19/20 supported by Amazon Music」(以下、カウントダウン・ジャパン19/20 過去も含めて指す場合は、カウントダウン・ジャパン)。2003年からスタートし、2000年代のいわゆるゼロ年代、そして2010年代のテン年代を駆け抜け、次の時代も彩るであろう、国内最大級のカウントダウンイベントだ。 

フェス開始時のゼロ年代に若手だったバンドは、円熟味を増したライブを行い、当時のベテランバンドはレジェンドとして、その存在を見せつけている。そして、彼らの音楽を聴き育った世代が新たに音を奏でている。さまざまな世代やジャンルのアーティストが登場する、その規模は圧巻だ。あの広い幕張メッセの会場をぶち抜き、複数のステージで同時多発的にライブが行われるのだから。(ちなみに、公式サイトによると、メイン会場の1~8ホールは、54,000㎡である。)

 アーティストが多種多様であるのだから、もちろん観客層も幅広い。10代や20代の若者世代から、30代40代それ以上の世代もいる。友人、恋人、夫婦、家族はもちろんのこと、ひとりで来る(ぼっち参戦)も多い。今年の観客動員数は、延べ18万8000人。チケットは全日ソールドアウト。私が参加した、29日と30日は、ともに4万7000人が来場している。(人数は、公式発表)

 各日に参加した観客は、思い思いに音楽を楽しみ、時にフェス飯に舌鼓を打ち、フォトスペースで写真を撮るなどしている。音楽好きにとっては、極楽のような空間である。


ライブレポート

 12月29日、30日、カウントダウン・ジャパン19/20のいわゆる「中2日」。この2日間での参加アーティスト数は80組を超える。物理的に観られる数も限られてしまうのだが、いくつか観たアーティストのライブをピックアップしていきたいと思う。

SIX LOUNGE (12/29 COSMO STAGE)

 29日の正午にCOSMO STAGEに登場した彼らは、2012年に大分県で結成された3ピースロックバンドだ。ゴリっとした荒々しさや、気持ちも駆け上がるような疾走感あふれる曲など、ロックの気持ち良さやカッコ良さをギュッと濃縮したバンドだ。歓声により迎えられた彼らが音を出すと共に、観客は飛び、共に歌い熱狂していく。

 奏でる音がカッコいいというのは、もちろんバンドとしては重要なことだし、それにより観客のボルテージが上がっていくのは当然のことだ。しかし、SIX LONGEの魅力はそれだけではなく、歌詞やそれを歌うボーカルの声にも観客を惹きつけるものがある。「日本語ロックンロール・バンド」を掲げている彼らの詩からは、聴く人に自分が経験したことなどを思い起こさせる(それが嬉しいことでも、悔しいことでも)、叙情的な面も持ち合わせている。それは、歌詞だけではなく、ギターボーカルのヤマグチユウモリの声からも感じ取れる。力強さもあるが、どことなく切なさを感じさせる声質が、聴く人の感情に訴えかけるところがあった。だからこそ、観客は彼らのライブにくぎ付けになり、自分の感情を楽曲に投影させて楽しんでいるのだ。

 2017年には、アルバム『東雲』で第9回CDショップ大賞2017 九州ブロック賞を受賞している彼ら。2018年にはメジャーデビューし、ライブツアーも完売するなど、その名がより多くの人に知られてきている。ライブ終わった際に、近くで見ていた観客が「カッコよかった…」と呟いていたのが印象的だった。

flumpool (12/29 GALAXY STAGE)

 GALAXY STAGEは、カウントダウン・ジャパンで複数用意されているステージの中でも、2番目に大きなステージだ。ホール級の観客が収容できそうな規模の場所である。ライブが開始する前から、場内は後方まで人で溢れていた。

 メンバーが登場し、最初に演奏されたのは、「花になれ」。イントロと共に、歓声が沸き、会場は一気に幸せで楽しい雰囲気に包み込まれた。2008年の楽曲でも、若い観客も一緒に歌っている。世代に関係なく歌える曲を持っているのは、人気バンドと呼ばれる所以だ。

 個人的な話ではあるが、私はライブ中に曲の雰囲気に合わせて照明の色が変わっていくのを見るのが好きだ。今回は、柔らかい光が差すような、温かで優しい色の照明が多用されていた。見ていると、とても優しい気持ちになり、心が和らいだ。リラックスや癒しという類ではなく、前向きや明るい気持ちにさせてくれる、そんな雰囲気だった。

 ボーカル 山村隆太が、歌唱時機能性発声障害となり活動休止をせざるを得なかったこと、そしてバンド活動を再開したことなど、包み隠さずに話し、山村自身が声が出ない時に作ったという「HELP」を披露。

 “困難を乗り越える”というのは、文字として表現すれば、たった8文字になってしまう。また書けば書くほど、書き手の自己満足的な美談になってしまいがちになる。しかし、この日のライブでは、歌を歌うこと、そしてそれを観客と共有することは、素晴らしいことだと彼らがステージ上で体現しているようで、とても良かった。山村隆太の活き活きした表情と共に、歌詞のひとつひとつが、心にまで届いてくるようだった。人気曲だから盛り上がって楽しい、というのと別の次元にある、歌うことは楽しいとか、伝えたいことがあるから歌う、というような強い思いが優しく伝わってくるようだった。

 2020年には、アルバムもリリース予定。彼らの活動が楽しみになるようなライブだった。


THE BAWDIES(12/30 GALAXY STAGE)

 “カウントダウン・ジャパンに欠かせないアーティストは?”と聞かれれば、私は迷わず、彼らの名前を挙げる。2009年のデビューから2019年で10年、THE BAWDIESだ。

 ブルース、リズム・アンド・ブルース、ロックンロールなどの要素を入れて、観客を躍らせまくる彼らのステージは、“毎年これを観なくては!”というリピーターから、初めて観るライブに期待を膨らます人たちで溢れていた。始まる前から、「ビールを買わなきゃ」とか「ホットドッグも食べたくなるよね」というような楽しい会話があちこちから聞こえてくる。

 ステージ横の大型モニターにTHE BAWDIESの名前が表示され、いよいよライブがスタート。ROYひとりがピアノで弾き語りをする。どちらかと言えば、静と動であれば “動” のイメージがあるTHE BAWDIESのライブであるが、この日のスタートは、“静”。ブルージーな歌声で聴かせる「STARS」が広い会場に響き渡る。そして、メンバーも登場し、「LET’S GO BACK」や「IT’S TOO LATE」なども披露され、観客は歌い躍り、盛り上がる。そして、年末の人気番組“笑ってはいけないシリーズ”を思わせるような、ミニコントも挟みながら「HOT DOG」へ。観客を笑いと音楽の渦へと誘う。ライブ後に行う恒例の“1、2、3わっしょーい”の掛け声も決まり、ロックンロールパーティーは、大団円で幕を閉じた。

 2020年で、結成16年目に突入。「IT’S TOO LATE」や「HOT DOG」など、2010年発表の『THERE'S NO TURNING BACK』に収録され、愛され続けている楽曲はもちろん、新作アルバムからの「BLUES GOD」など15年の活動を彩る曲が次々に披露されていった。どの楽曲にもTHE BAWDIESの曲であるとすぐに分かるような、エッセンスがしっかりと詰まっている。そして彼らのキャラクターが合わさり、THE BAWDIESでないと出来ない、本当に楽しいパーティーが繰り広げられるのだ。2020年も、彼らの活躍が楽しみだ。



ビッケブランカ(12/30 COSMO STAGE)

 本人も参加しているサウンドチェックに観客が集まり、ライブ前から大いに楽しんでいる。サウンドチェックの最後には「Slave of Love」を披露し、観客を沸かせていた。

 ライブの1曲目は「ウララ」。曲が始まり、彼が歌いだすと、華やかで幸せな気持ちになる。心をぐっと前向きにしてくれるメロディ、ファルセットに心が高揚する。それは私だけではなく、観客がみんな感じていたことだろう。

 カウントダウン・ジャパンには複数のステージがあるが、COSMO STAGEと隣にあるMOON STAGEは、フェス飯を食べられる巨大な飲食エリア、名物ROCKオブジェなどがあるフォトエリアに隣接しているため、ライブを観ていない人の耳にも音楽が届く。また、別ステージに移動する通り道にも面しているので、移動中の人もライブの様子を耳で感じ取れる。つまり、この周辺の人に、“ここのライブ楽しそう!”と思われせれば、新しい観客を自身のライブに呼び込むチャンスがあるのだ。

 今回、このチャンスを最大に活かしたアーティストのひとりが、間違いなくビッケブランカだろう。「ウララ」が始まると、どんどん観客が流れ込んできた。そして、途中から入ってきた観客も、会場から去らずにずっとライブに見入っていたのが印象的だった。それはきっと、本人が全身でライブを楽しんでいる様子が、観客にも伝播し、同じ気持ちになっているからだと思う。「Ca Va?」に至っては、本人がもっとライブをしたいという気持ちから、2回披露(2回目は、サビ部分と一部だが)している姿に、観客も喜び、一緒に音に合わせて踊り歌っていた。

 ライブ前から待つファンはもちろんのこと、楽しい雰囲気を嗅ぎつけてやってきた観客も巻き込み、楽しい時間を作り上げる。フェスならではの光景を目にすることが出来た。世代性別問わず、多くの人を魅了するライブだった。



サカナクション(12/30 EARTH STAGE)

 アリーナ級の人数を収容できるEARTH STAGE。ここを会場に出来るアーティストは、限られている。その中でもサカナクションは、長年にわたり、ここでライブを行うバンドのひとつだ。

 彼らの前には、NUMBER GIRLがライブをし、終演後の会場には、歴史的な瞬間を観たと感無量になっている観客も多くいた。フェス会場の割に、直前にパフォーマンスを終えたアーティストの余韻が残る、少し不思議な雰囲気が漂っていたが、別の会場からサカナクション目当てでやって来る人たちが入り混じり、次に出演するアーティストへの期待感が会場を満たし、余韻は少しずつ消えていった。

 会場を見渡すと、幅広い世代がいた。メンバーと同じくらいの年代が観客の多くを占めるかと思いきや、10代や20代と思われる若い人たちもいた。

 ライブは、「新宝島」からスタートし、「夜の踊り子」「モス」「Aoi」を続けて披露。会場がダンスフロアと化して、誰もが音に合わせて体を動かし、一緒に歌う。彼らが奏でる音をひとつも無駄にせずに、体に沁み込ませて楽しみたい、そんな雰囲気さえ漂っていた。広い会場で、観客が手を叩けば、その音が反響して一つの楽器のようで耳心地も良い。自分が発した音もまたライブの要素になっているのを感じると嬉しくなる。そんな瞬間が何度も訪れた。

 「ユリイカ」や「years」などが演奏され、先ほどの高揚とは違う空気が会場に流れる。曲と共に映し出される映像の美しさを眺めながら、少し内省的にもなる。楽しく踊り、盛り上がる雰囲気も好きだが、やはりこういったシーンがあるのが、サカナクションの魅力だ。

 再び、フロアを思い切り揺らすようなナンバーを披露し、「アイデンティティ」から「ルーキー」に。クラブDJように曲と曲を繋げていくカッコ良さは、唯一無二だ。冷静にライブを観ていたはずが、気が付けば、両手を挙げ、一緒に歌い躍り、最終的には叫んでいた。アンコールに「忘れられないの」を披露し、笑顔でライブは終了。終演後にステージ上でメンバーが写真を撮り、山口一郎の “みんなも撮っちゃいなよ”という言葉で、観客もスマートフォンをステージに向け写真を撮る。観客の嬉しそうな表情が、このライブが楽しかったというのを物語っていた。

 多くの観客が歌い躍る、楽しいライブだった。ヒット曲を多く披露していたのも、もちろん楽しい理由だとは思う。しかし、それだけではなく、観客が手拍子をしやすいようにメンバーが誘ったり、照明を変えることで、観客に声を出すタイミングを知らせるなど、随所に楽しめる工夫がされていたのも、大きな理由だったと思う。

メンバーもクールな雰囲気をまといながらも、楽しそうにライブをしている。その姿がとても印象的だった。年末の幕張を揺らしまくる、最高の時間だった。


最後に
 私は、カウントダウン・ジャパンの第1回から参加している。皆勤賞とまではいかないが、年末のかなりの回数を幕張で過ごしている。

 その中で思うことが、年々参加する観客の世代も多様化していることだ。フェスに行くということが、若者のトレンドではなく、音楽好きの習慣として成り立って来ているのだと思っている。また、年代だけではなく、車いすなどのバリアフリーに関しても、配慮がされている。各ステージには、車いす用の観客席が出来ている。こういったことは、最近できたのではなく、随分と前から出来ているように思う。また、授乳スペースもあったのが印象的だった。

 ゼロ年代に始まったフェスは、規模だけではなく、バリアフリーなどに関しても広がりを見せているのだと感じている。2020年代は、おそらく多様化やバリアフリーに関する意識はより高まるだろう。
 音楽を楽しむ権利は、誰にでもある。今後の音楽シーンの動向やトレンドも非常に気になるし、フェスからもそれを見ることは出来るだろう。しかし、それだけはなく、観客に向けての多様性などについての取り組みについても期待しているし、国内最大級のフェスでの取り組みは、きっと他のライブなどにも波及すると感じている。
 新しい時代は、音を鳴らすアーティスト、そしてそれを楽しむ観客、どちらにも明るいものになって欲しいと切に願っている。



石井由紀子/ミュージックソムリエ