私たちの街の映画館 小倉昭和館を「シネマパスポート」で応援!
【取材・文=鶴田弥生 撮影=鶴田弥生・藤岡臣】
「誰かの明かりであり続けてほしい」「かけがえのない場」「映画人の伴奏者でいて」「映画ファンの財産だ」「これからもずっとあり続けてほしい場所」--。
1939年(昭和14年)に芝居小屋兼映画館として創業した「小倉昭和館」。2019年に80周年を迎え制作された記念誌を見ると、個人や企業、映画監督や映画俳優、作家や評論家たちから多くのメッセージが寄せられている。その中に冒頭の言葉もある。そして、1960年頃には北九州(5市合併前)には113館の映画館があったが、今ではシネマ・コンプレックス以外の単館系既存一般上映館は「小倉昭和館」だけだということも紹介されている。この事実を知るときっと多くの人が“守りたい”と漠然とでも思うはず。だけどそれ以上に思いを寄せる人たちもいる。
「小倉昭和館」も、新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言を受け休館している。全館休館となる前日の4月10日。そこには、仕方がない事とはいえ切なさのような思いと再スタートへの願いを抱いた人たちの姿があった。長時間複数の映画をみたり、募金ボックスの設置場所を聞いたりした人もいた。館主の樋口智巳さんに聞くと、やはり「募金受付やクラウドファンディングをするご意見は多数いただいた」とのこと。そういった提案に感謝しながらも、樋口館主はその道は選ばなかった。
初代館主の「まちの人の喜ぶ顔が見たい」という一途な思いを三代目として継承し、「小倉昭和館」を経営者として守ってきた。だからこそ、みえる人の姿があり、感じる街の変化がある。新型コロナウイルスの影響は自分だけを苦しめているのではない。隣接する「旦過市場」の状況にも胸を痛める。映画館に訪れる人の顔も浮かぶ。「皆さんが困っている時に、昭和館が寄付のお願いやクラウドファンディングの立ち上げはできない」と樋口館主の覚悟の声を聞いた時は胸が熱くなった。
休館から再スタートを望むファンたちも複雑な気持ちを抱いているのではないだろうか。「小倉昭和館」を愛する人はみんな知っている。受付カウンターに立ち、2本立ての上映の合間には自らが昔ながらに売り子として声をかけながら客席を回る女性館主の思いや尽力を。そして、現在の映画館業界が置かれている環境を。その上ここにきて新型コロナウイルスだ。私自身も「再開して」という言葉を樋口館主に容易に伝えて良いものか正直迷っていた。だから樋口館主に届いている声よりも、もっともっと多くの願いが「小倉昭和館」に注がれていると想像する。
樋口館主も動いた。本来バツグンの企画アイデアで私達をいつも驚かせてくれる人だ。
緊急事態宣言解除後、「小倉昭和館」営業再開日から6か月間、映画を何度でも観ることができる『昭和館シネマパスポート』の発行だ。上映とあわせ監督や俳優が登壇する「シネマカフェ」も毎回好評だが、期間中はパスポート会員の予約を優先的に受付ける。4/22から申し込み開始。料金は税込13,000円(カード発行代・郵送代含む)。6か月見放題でこの値段!
営業再開時に「映画館のスクリーンで映画を観る楽しさ・豊かさを再確認してほしい」そして「料金は昭和館再スタートの大きな力として活用させていただきたい」と樋口館主。
一度長期に休んで復活するのは難しい。この新型コロナウイルスの影響で、本当に歴史に幕を下ろす小規模映画館は全国に出てくるだろう。今や自室でいくらでも映像作品をみることはできる。そういったサイトやチャンネルの契約者も増えているだろう。緊急事態宣言解除を待てば手放しで明るい未来が待っているわけではない。でも、この人は・・・、と話を聞きながら思ったのだ。昭和館が自分の居場所だという人がこの街に1人でもいれば映画館の扉をどうにか開けようと必死の日々を送る、そんな人だ。
樋口館主が「皆さんに映画館を忘れないでほしい」と言った時、一瞬で、映画館の椅子の感触、上演を知らせるブザーが響き明かりが消えていく感覚が思い出された。ここのところ、当たり前の時間やものがどれだけ特別なものか思い知らされる。