ST001:桜色の出会い
春——舞い散る桜の中、日向 綾は新しい出会いに心を躍らせていた。
「これがカヤリス地区かあ」
綾は、そんな独り言を呟く。彼女たちの住むリムズシティは大きく分けて六つの地区から成り立っていた。そのうちの一つにホルックという地区があり、綾はそこからフラワーズ・ヒル高校のある、このカヤリス地区へと引っ越してきたのである。
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「初めまして! ホルック地区から来ました、日向 綾です!」
担任からの紹介を受けた綾は元気に挨拶をして、それから深めに頭を下げた。高い位置で二つに束ねた鮮やかな水色の髪と、桃色の瞳が印象的な少女である。
そんな彼女のことを、美山 こころはぼんやりと眺めていた。
「よろしくね!」
綾はそう言いながら、たまたま空いていたこころの隣の席に座った。よろしくね、とこころも小声で返す。
ホームルームの時間が終わり、こころは帰宅の準備を始めた。その様子をじっと見つめる綾の視線を感じ、なに、とこころは声を掛ける。
「あの、ちょっと聞きたいことがあって!」
「…何?」
「この学校に、アイドル部とかってあったりするの?」
「アイドル部? 無いよ、そんなの」
「ええー! じゃあ、ドルフェスにも参加してないの?!」
「どるふぇす…?」
聞き慣れない単語に、こころは首を傾げる。その反応を見て、綾は目を丸くした。
「ドルフェスを知らないなんて…」
「だから、何よ? その “ドルフェス” って」
「一言で言うと、アイドルの祭典! 一年に一度、アイドルのトップを決める大会なの!」
キラキラと目を輝かせながら、綾はドルフェスの説明を始めた。
「ドルフェスっていうのは、ドールズフェスタの略なんだけどね。それが由来で、ドルフェスに参加するアイドルたちは、ドールズって呼ばれてるの」
「ああ、ドールズ地区の」
「そう! ドルフェスには地区予選と本選があって、本選はドールズ地区で行われるんだよ」
「へえ…思ってたより盛大なのね」
綾は、リムズシティ最大のイベント、という言葉を飲み込み、こころに笑顔を返す。
「それでさ、こころちゃん」
「なっ、なに…」
唐突に名前を呼ばれ、こころは思わず吃ってしまう。
「こころちゃん、ドールズになってみない?」
「…はぁ?」