Ameba Ownd

アプリで簡単、無料ホームページ作成

ff(フォルティッシモ)

ST002:あいどるそんぐ

2019.04.02 13:00

転入生の日向 綾は、転入先であるフラワーズ・ヒル高校でのアイドル部設立を目指す。

そして早速、隣の席の美山 こころに声を掛けてみるが…?



 突然の勧誘に、こころはそれを理解するのに時間を要した。


「どういうこと?」

「こころちゃんに、ドルフェスに参加してほしいなーって」

「なんで私が」

「だって、こころちゃん可愛いんだもん!」


 一目惚れしちゃった、と言いながら、綾はこころに期待の眼差しを向ける。


「…やだよ、そんな面倒臭そうなの」


 綾の期待を、こころは一刀両断した。途端に、綾は残念そうに視線を落とす。


「……から」

「え?」

「私、諦めないからっ!」


 綾はこころを真っ直ぐに見つめてそう言うと、荷物を持って教室を飛び出していった。


「変な子…」


 こころはそう呟いて、自分もようやく帰路につくことにした。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「こころちゃん、おっはよーう!」


 翌朝、学校へ向かう途中で、こころは誰かに声を掛けられた。誰に声を掛けられたのかは、振り向かなくても分かる。綾だ。


「ねえ、考え直してくれた?」

「何を…?」

「何をって、ドールズのことに決まってるじゃん!」

「だからそれは、昨日やらないって言ったでしょ」


 こころが答えると、綾は頬を膨らませて見せた。


「女の子なら、他にもいるんだし。…ほら、あの子とか」


 こころはそう言いながら、少し前を歩いている少女を指す。たまたま近くにいたというだけで、特に理由もなく指したのだが、どうやら綾のお眼鏡にかなったらしい。


「あの子、こころちゃんの知り合い?」

「ううん。通学の時間帯が同じだから、それでたまに見かけるくらい」

「なるほど」


 綾はそう言うと、何やら考え込むような仕草をした。勧誘の方法でも思案しているのだろう。


「よーし、行ってくる!」


 しばらく考えた後に、綾はそれだけ言い残して、前を歩く少女の元へと駆けていった。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 背後から誰かが近づいてきていることに気づかなかったのは、音楽を聴いていたせいだろう。

 少女は、不意に肩を掴まれて素っ頓狂な声を上げた。それから、慌ててヘッドホンを外す。


「ねえ! 音楽好きなの?」


 綾は少女に、目を輝かせながらそう尋ねた。


「…好きですけど」

「アイドルに興味あったりしない?」

「へ…?」


 矢継ぎ早に投げかけられる質問に、少女は戸惑いを隠せない様子だった。

 そんな少女を見て、綾はようやく自分がまだ名乗ってすらいなかったことに気づく。


「いきなりごめんね。私、2年B組の日向 綾! ドールズになってくれる人を探してるの!」

「あ…えっと、1年C組の寺岡 唯です。…ドールズって、ドルフェスのですか?」

「そうそう! ドルフェスに参加してみたいなー、なんて思わない?」

「そんなの、考えたことないです」

「じゃあ、ちょっと考えてみてくれない? 返事はいつでもいいから!」

「はあ…」


 一方的に話を進められ、唯は溜め息にも似た返事をした。それからヘッドホンをして、音楽プレーヤーに入っているアイドルソングを再生してみる。

 それを聴きながら、唯は自分より適任だと思う一人の少女のことを思い浮かべていた。