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ff(フォルティッシモ)

ST005:カミングアウト

2019.07.07 13:00

ついに動き出したアイドル部だったが、綾が提示した準備期間は「1か月」。厳しい条件だとは思いつつも、強い意志を持って同意した麻央に倣い、唯もそれに従うことにする。



「ねえ、麻央」


 ファミレスでの “作戦会議” を終えて綾と別れた後、唯は麻央に話しかけた。


「1か月なんて、やっぱり無茶じゃない?」

「うん、私もそう思うよ」

「え? じゃあ、どうして」

「でもね、頑張ってみたいと思ったの。…アイドルは、私の夢だったし」

「…そっか」

「それにね。唯と一緒なら、頑張れるんじゃないかなって」


 そう言って、麻央は唯に微笑みかけた。その顔を見て、唯は自分の心の中にあったささくれが消えていくのを感じた。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「はぁ〜あ…」


 翌朝、綾はため息をつきながら浮かない顔で登校してきた。こころはそれを見て、思わず声を掛けてしまう。


「どうしたの?」

「1か月後にライブしようと思ってるんだけどさあ」

「ライブ?」

「うん。ほら、唯ちゃんと麻央ちゃんと、三人で」


 ああ、とこころは合点する。そういえば昨日、後輩が綾を訪ねてきていた。


「1か月でできるの?」

「そこなんだよねー、問題は! 自分で言い出したことだから、やるしかないんだけど」


 そう言って、綾は力なく笑う。そんな彼女を見て少し心配になっている自分がいることに、こころは気づいた。

 自分が何かの役に立てれば——そこまで考えて、いやいや、とこころはその考えを掻き消す。面倒事には巻き込まれたくない。


「がんばってね」


 こころの言葉に、ありがとう、と綾は返した。それから、突然ぱっと表情を輝かせてこころを見る。


「こころちゃん!!」

「な…っ、何?」

「やっぱりさ、こころちゃんも手伝ってよ!」

「はあ?」

「ステージには立たなくていいからさ! ねっ?」

「そういう問題じゃないの」

「けちー」


 こころの返事に、綾はぷくぅっと頬を膨らませる。


「私はバイトもあるし、忙しいの」

「ふぅん、何のバイト?」

「それは……」


 言い淀むこころを、綾は不思議そうな顔で見つめる。


「ねえ、何のバイト?」

「…メイド喫茶」


 こころは聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で答えたが、綾はそれを聞き逃さなかった。それから満面の笑みを浮かべ、言い放つ。


「何それ、最高じゃん!!!」