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Botanical Muse

美貌はつづくよどこまでも

2020.07.13 08:07

女性たちが集まり、お食事会が開かれた。デザイナー、フローリストといったいかにも都会の夜を彩るフリーランスの方々が座る。私の目の前には、特別ゲストの大層な美形の男性が。白いTシャツに紺のサマーベストを重ねて、そして紺のパンツをはいている。このコーディネイトはヘタするとダサくなるところであるが、脚がものすごく長く、顔が小さい体型、流行の形にカットしたふわふわヘアーにぴったりだ。


聞いたら、美容整形外科の医師でまだ三十代の若さだ。おまけに独身という。ふつう美容整形医というと、エグい人が多い。日焼けした胸元からチェーンがのぞき、ぶっといリングをしていて、女優さんと浮名を流し見た目もオラオラ系という人を何人も見てきた。とにかくお金がどっさりあるから遊び方が派手なのである。しかし、この方は女の子にしたいような可愛らしい顔立ち、肌はさえざえと白く透きとおるようだ。今最高にモテる、“可愛い系男子”の代表みたいな方である。おまけに知性に溢れ、志が高い。


実はこの先生、なかなかの年上キラーでもあった。人なつっこく、他人の愛情を欲しがるようなところが不思議と人の心を惹きつけて、他の美しい男性たちも傍らにいると色褪せてしまう。

甘い響きのある物言い。宝石をちりばめたような輝く大きな瞳で女性たちを見つめる。ニコッとイタズラっぽく微笑む。こういう言動も女性の心をキューンとさせる。見映えのいい男性にこんなことをされて、たいていの女性は心も洗われきっと気分もよくなるはずだ。とにかく一緒にいるとリラックスできるやさしさに溢れていた。

「〇〇先生っていいコね。ハンサムだし、とっても可愛いわ」とすっかり皆のお気に入りになったのである。


「さぞかしモテるんでしょうね」さっそく調査に入る私。

「いいえ、そんなことはありません。女性にまるっきり縁がなくて」と謙遜するところも好感度大。

「どんな女性が好みなの」かなりねちっこく追求していく私。

「やっぱり心のキレイな人でしょうか」

「そうかあ、仕事柄美人はいっぱい見てるから、外見はあまり関係ないってことなのね」

「そういうことです」

などという会話があって、ワインが注がれる。


こういう男の人って、いったいどういう女性とつき合うのだろうか。

先生はめちゃくちゃカッコいいが、女性はめちゃくちゃ泣かされそうである。私は昔、こういう人とつき合って、さんざん苦労したと言いたいところであるが、そんなのもちろん嘘。相手にしてくれるわけもないので、最初から近づいたこともない。ただ遠まきに見ていただけである。


男女関係においてエキスパートといえる友人は「いい男ほど押しに弱い」という名言を言っている。確かにこういう繊細なハンサムって、ハキハキした女性に弱いものだ。だけどへんな女の人につかまらないでねと、私は老婆心をもったものだ。


そして話題はやはり美容整形のことに移った。

「ねえ、顔をいじってると、専門家にはわかるもの?」

「いいえ、ほどんどわかりません」立場上、そう答える先生。

「でも、わかるときはわかります」

おでこを丸くしたり、鼻を高くするとき、バランスを取るために、顎を前に出す。それで日本人にしては不自然な顎になるそうだ。

先生は言う「生まれつきあれを持っている人は、やっぱりスゴい」

私たちは、なるほどと同時にうなずき合ったのである。


そしてやがて先生のカウンセリングがはじまった。

「恵美子さんって、黒目が大きくてとても魅力的ですね。それよりも素敵なのは唇です。ぽってりしていて可愛いですよ」先生はまばたきひとつせず言う。

先生が真面目で正直な人だということがすぐにわかった。それで私は尋ねてみる。

「目も魅力的で、唇も可愛い。それなのに私って、どうして美人って言われないんでしょうか」

一瞬沈黙があった。あれ、へんな空気。傍にいた皆もおし黙ってしまった。

ややあって、先生は口を開いた「それは…、自信がないからでしょう」

そうか、そうだったのね。長年の疑問がやっと解けたわ。私だってひるむことなく、図々しく振るまえばよかったんだわ。


「なんてつまらないこと言ったの」と、友人はその日のことを思い出して言った。

「だけど先生も気の毒よね。口が滑ってお世辞を連発したら、鋭いツッコミを入れられたんだから」

自分の奥行きのなさをかなり反省したのは、つい最近のこと。


美しい人とは何かと問われたら、私は骨格と答えよう。私はかねがね、美人はプロフィールが違うと思っていた。後頭部が張り出していると、前の部分もキレイなカーブを描く。額が前に出て目元が引っ込み、その反動のように鼻が前に出る。そしてまた勢いで顎も出る。美人と言われる人は、確かにこの曲線が素晴らしい。そしてこの曲線があれば、多少目が小さかろうかと、唇が薄かろうと、おさまりのいい整った顔になっているのだ。


キレイになりたい。生まれてこのかた、私はこの欲望を無視したことがない。

「最近ファンデーションかえたの。こんなに肌がピカピカに!」

なんていう話を聞くのはとても楽しく、タメになる。

私は私のカラダを使って実験をしてしまうことがある。美容医療は自分のカラダで試す、その最たるものであろう。手術以外のことは何でも試そうと思う私だ。とりあえずハイフしちゃおうかな。


神さまってものすごいエコヒイキをする。この世の中にたまにすんごい美人をつくるけど、こういう人たちがいないと世の中は楽しくない。頑張ろうという目標もできないし、憧れ、という気持ちも存在しない。

その替わり神さまは、美女に生まれつかなかった女性には、少々の好奇心と、美容に頑張れるような気力ならびに体力をくださるときもある。美に関する努力は、なぜか空しくならないようになっているから、女性はずうっと努力することになる。




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