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「おひさまの贈りもの」垣内磯子 詩 スズキコージ 絵

2020.04.22 08:05

娘の話は

生きの良い夢や

はつらつとした希望で泡立っていて

まったく

注ぎたてのサイダーのようだ


垣内磯子「青春」(部分抜粋)



なんだか最近詩ばかり読んでいる気がします。


新刊の、詩を紹介する本や(「のどがかわいた」大阿久佳乃)、詩人/児童文学作家のエッセイ(「惑星」片山令子)など読んでいたからかも知れません。

この二冊は素晴らしい本なので、詳しい紹介はまた今度させて頂きたいのですが(すでに耳の早い方からはご注文を頂いております。先に読んでから当店の紹介を読んで頂くのも良いかも知れませんよ…)、今日はこちら。


「おひさまの贈りもの」

垣内磯子さんの詩と、スズキコージさんの絵による詩画集ですね。

入荷した時にパラパラとめくったら、うわあ、良いなあ、と感じる詩がたくさんあって、こう言う本を新刊で長く売りたいなあ、なんて思ったのでした。

でももう絶版のようです。

それでもうちは古本屋なので、なるべく在庫しておくように努めますが、いつも手に入る、と言う状態は難しいですね。


今のような季節に、窓を開けて、優しく入ってくる暖かで爽やかな風。垣内さんの詩はそんな詩です。

詩の本を紹介する時には、色々と言うよりも、その詩を少し読んで貰うのが一番良い気がするのですが、その前に少しだけ書かせてください。


スズキコージさんが絵を描いている詩画集なので、子どもも読めるような、素朴な詩が多いのかなと思うかも知れませんが、この詩集に入っている詩が一番心に近く響くのは、少なくとも30代以上の方なんじゃないかな、と思います。

子どもに向けられたような素朴な詩が無いという訳ではないのですが、母親や、妻である人間の視点の詩も多く、すっと心に入っていきやすいのは、ある一定以上の、もう色々な悲しさ、寂しさを知った後の年齢の方なのではないでしょうか。


一部分ですけれど、例えば「ドングリ拾い」という詩。

公園で、幼稚園の子供らに持っていってあげるために、ドングリを拾っている老人に、あなたも一緒にどうですか、と声をかけられるところから始まります。


<前略>

私はまだまだ現役の主婦で

夫や子供の涙やためいき

笑い声やないしょばなし

両手ですくいあげなくてはならないものが

たくさんあって

ドングリ七キロ

拾っているゆとりがない

ーまたいつか

と私は返事をする

ーきっといつか

<後略>


子どものこと、夫のこと、死んだ母親のこと、春や花のこと。

やさしい言葉で語られる、短い詩。

詩の言葉とともに生きるのは、なんと楽しいのだろう、そう思わせてくれるような、詩画集なんです。


それでは最後に、収められている詩をひとつ。


南の島では


南の島では

雨が降っても

そのままぬれて歩くんですって

南の島では

雨にぬれたら

ぬれたまんま

日が射してきたら

乾かすだけのこと

だから君も

雨、雨、って騒ぐなよ

と言われたけれど

都会の中ではそうもいかない

年を重ねれば

化粧のひとつもしているので

雨でメッキがはがれちゃまずい

髪も濡れたら

目もあてられない

ぬれないように

ぬれないように

気を配って

よそゆきに生きる

ああ それでもせめて

都会でも

泣きたいときはびしょぬれに泣こう

悲しいときはそのままぬれて

いつか必ず日が射すから

射したら涙を乾かしにゆこう

とても自然に生きてみよう

せめて都会でも

すこしは南の島のまねをして



ほんとうに、ああ、良いなあ、と思える詩がこの本の中には、沢山あるんです。

自分が一番好きなのは「夏」と言う短い詩だったのですが、それはぜひ、この本を手に取って、読んでみてください。

ぜひオンラインストアの方でも御覧ください。


当店のスズキコージさんの絵本はこちらです。