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墨亭 -BOKUTEI-

墨の戯言8~「古典・新作落語事典【補遺】」その5:2020.04.30.

2020.04.30 02:11

拙著『古典・新作 落語事典』の【補遺】その5は、艶笑噺の『ちり塚お松』です。

最近では、この演題で演じる人はほとんどいませんが、先年、鬼籍に入った初代三笑亭夢丸師匠が『出世夜鷹』という題で演じていました。「ルックルックこんにちは」の夢丸師匠です。後年、「夢丸新江戸噺」を演じていた夢丸師匠です。釣り番組によく出演していた夢丸師匠です(しつこいか……)。

志ん生、圓生が憧れた名人・橘家圓喬の速記も残っている一席です。

尚、今回も検索ワードのカスタマイズは、よろしくお願いいたしますw。


《ち》

ちり塚お松(ちりづかおまつ)

【種別】 滑稽、武家、廓

【別題】 出世夜鷹(しゅっせよたか)、初音のお松(はつねのおまつ)、小夜衣(さよごろも)

【あらすじ】 路傍で客を引いている夜鷹のお松という女が、吉原は万字楼の滝川という花魁が、客にねだって30両という大層立派な額を浅草寺に納めたという話を耳にした。自分も同じことをしようと、やはり贔屓の客にねだって、安い板切れを用意させ、滝川の額の下に納めることにした。するとそれが話題になるが、その見栄えは格段に違うものの、滝川の詠んだ「ますかがみ清き流れのよすがにも 雲井の空に宿る月影」という歌が、身の程知らずの歌あるとされ、お松の「田毎ある中にもつらき辻君の 顔さらしなの運の月影」という歌は自分の置かれた境遇をうまく詠んでいると評判になった。すると万字楼の主人は店ののれんに傷がつくからと、お松に頼んで二面の額を下ろさせた。お松は暇があれば歌を詠み、客から「夜鷹がそんなことをしたって仕方がない」と言われた時に、「塵塚の塵に混わる松虫の 声は冷しきものと知らずや」と詠んだことから、掃溜のお松と呼ばれるようになった。ある日、細川良悦という御殿医が見回りにやってきた時に、「小夜衣今宵は誰と契るらん 幾夜定めぬつまを重ねて」という歌が書いてある紙を見つけ、殿様が珍しいものを集めているということで、それをもらっていった。良悦は最初、鷹が詠んだ歌と言って殿様に見せると、その歌に感心した殿様は鷹に会いたいと言うので、お松を連れて行くと、殿様に気に入られ、奉公をしながら歌を詠み続けたという。

【解説】 四代目橘家圓喬による『初音のお松』という速記が残っている。六代目三遊亭圓生が『傾城瀬川(雪の瀬川)』の中でちり塚お松について触れており、近年では初代三笑亭夢丸が『出世夜鷹』の題で演じた。圓喬の速記には続きがあり、珍しい物を集めるのが趣味である殿様が、ある日収集物の虫干しをしていると、そこへ良悦が現れる。道具のあれこれについて話している内に、初音の鼓があり、その鼓を打つと珍しいことが起こる……と、『初音の鼓(継信)』と同じ展開になる。尚、ちり塚お松は江戸中期に三田の三角という岡場所にいた実在した女性で、歌川豊国による『古今名婦伝』にも「掃溜於松」として姿を残している。


※検索ワード※

場所・舞台→浅草寺、長屋、万字楼、屋敷、吉原

職業・人物(普通名詞)→花魁御殿医、殿様、夜鷹、若い衆

職業・人物(固有名詞)→お松、滝川、細川良悦

動植物→鷹

行事・行動・習慣→勘違い、出世、評判、奉公、真似

事物・事象・その他→歌、額