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「CABBEGE MOON」Adrienne Adams

2016.05.17 10:00

満月が卵の黄身のようだとか、三日月を弓に例えるなんていうお話は見かけますが、月をキャベツにしてしまうお話を聞いたことがありますでしょうか?

今日ご紹介する絵本はタイトルもずばり『CABBEGE MOON』。アメリカ出身の作家ジャン・ワールによって書かれました。どんなお話かと言うと…

空の月がキャベツだと知っているお姫さまアデルギーサと犬のジェニー。ふたりは、キャベツの月をとても気に入っており、いつも眺めていました。しかし、ある日ロレンゾ・スキンクという欲張りな男がそのキャベツの月を盗んでしまいます。それに気がつきアデルギーサ姫とジェニーはロレンゾを追いかけます。アデルギーサ姫は途中の木にひっかかり動けなくなってしまいますが、ジェニーはロレンゾの家までたどり着きます。窓からのぞくと、ロレンゾがキャベツの月をサラダにして食べようとしています。それを見たジェニーは…

月をキャベツにしてしまうジョン・ワールの独特なユーモアは、なぜかアデルギーサ姫がたけ馬を好きで、ドレスのままたけ馬に乗ってしまうという姿にも表れています。

しかし、白くも黄色くもないキャベツがなぜ月なのか、なぜ姫はたけ馬が好きなのかは特に触れられていません。彼は無声映画に興味を持ち、それに携わった経験を絵本づくりに生かしたそうですので、あまり言葉で説明せず、ストーリー自体はシンプルに、その分視覚的に印象的なモチーフを取り入れたのかもしれません。

そして、なんと言ってもこのお話を魅力的にしているのは、エイドリアン・アダムズの美しい絵ではないでしょうか。彼女の作品は日本では、当店でも一度ご紹介させていただいた『魔女たちのパーティ』などで知られているかと思いますが、残念ながら現在はすべて絶版になってしまっています。その魔女シリーズでも、夜の空をいっせいに飛ぶ魔女たちを描いたシーンなどから、強い物語性を感じることができます。だからこそ、文章の少ないこの絵本には彼女の絵が必要だったのかもしれません。けして忘れられないほど怖いシーンがあるというわけではないのに、ずっと記憶に残る不思議なあやしさが彼女の絵にはあるように思うのです。人物こそ、同じアメリカの作家バーバラ・クーニーをどこか思い出させるような、あどけなく、愛らしい印象を(悪者役のロレンゾでさえ)持ちますが、「黒」を効果的に使ったコントラストの美しい光と影の世界は、目のフィルターを介さず、ダイレクトに投影されたかのように心に強く鮮やかに印象を落とすのではないでしょうか。


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