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中村鏡とクック25cm望遠鏡

反射鏡とハイゲンス接眼レンズ

2020.05.02 08:09

 前回に引き続き、天文研究会・天文同好会大阪南支部(伊達英太郎氏主催)の会報「THE MILKY WAY(1)」(1932年[昭和7]4月20日発行)に掲載された、中村要氏の「反射鏡とハイゲン接眼レンズ」をご紹介します。

 オルソスコピック接眼レンズが高価なため、ハイゲンスやミッテンズエーハイゲン、ラムスデン等の旧式なレンズ構成の接眼レンズが主流だった時代の、反射鏡製作者の苦悩がよく分かる文章だと思います。

 これも、中村要氏の最晩年の貴重な文章です。

「反射鏡とハイゲンス接眼レンズ」   

                        花山天文台 中村 要

 自作の凹面鏡は、1931年(昭和6)11月はじめに、すでに215号までに達した。絶えず反射鏡がほしいという希望を聞くが、最近最も希望者が多いのが口径10cm程度のもので、15cmのものは一年に1個か2個ぐらいで稀である。また、できるだけ安く、大きなよく見えるものを希望されるのであるが、その際に凹面鏡以外に接眼レンズを選択する必要がある。

 筆者が凹面鏡を製作し、焦点距離を選ぶに、やはりそれを使う人の事を考えておかねばならぬ。接眼レンズは高価な色消しのものを求める人は稀で、大部分はミッテンズエー型のハイゲンス式で間に合わす場合が多い。その際に起こる支障について、鏡を製作するものの立場から希望を述べたい。

 普通のハイゲンス式で起こる負の球面収差(端の焦点の方が短い)は意外に大きなもので、25mmのものでF5の鏡には2.5mmに達し、この数値はF数の平方に逆比例し、接眼レンズの焦点距離に比例する。もしF10の鏡に12.5mmのアイピースなれば、中央の焦点に比しその焦点が0.3mm短くなる。口径10cmF10の凹面鏡が球面鏡の場合、現れる収差はやはり0.3mmであるから、ハイゲンス式を使って見た放物線鏡の像は、収差のないオルソスコピックの如きもので球面鏡の像を見たのと同じ、即ち何のために厳然なる放物線鏡を求めたか訳の分からぬ事になる。

 ミッテンズエー型では収差はわずか減っているが、大して差のあるあるものではない。以上の欠点をのがれるには、F数を大きくするのが最も良いのであって、現に過去数十年間、英国に於いてウイス、カルバー等の作った鏡の焦点距離は、16cmまでならF11は普通で、14位のも稀でない。この方法でハイゲンス式の球面収差をのがれたのである。以上の数字から、接眼レンズの焦点距離が短い程、即ち倍率の高いほど収差は減り像はよくなるが、0になるのではないから、二重星を見ても遊星を見ても像は決して第一流のものではない。

 製作するものから見ればF8程度のものが作りやすく、F10になればあまり容易ではない。あまり長いものは視野も極めて平坦になるし像は良いが、一方筒の長くなることは取り扱いの点からも、筒内部の気流から見ても面白くない事である。まずF10が無難である。

 極端なる事を申せば、ハイゲンス式を使うなれば、放物線鏡よりもやや過修正された双曲線鏡の方が像がよろしいのであって、自分は明らかに故意に双曲線鏡を作らないが、修正量が正しい放物線を示すいっぱいの放物線鏡を主として目標とし、負修正鏡は避けている。これは、アイピースをハイゲンス式とする場合の事を考慮しているのである。素人諸氏の鏡も時々自分は見るが、常にあまりに負修正を保ち過ぎている人がある。

 ラムスデン式では、球面収差はハイゲンス式の約1/4であるから色は減るが、月を除いて低倍率にはラムスデン式の方が良い。ハイゲンス式は、色収差は赤は見える事はあるが一般に少ない。視野が曲がって、月面の如きは球のように立体的に見えることがある。

 以上の問題は自分でもはっきり解決を持たないことなので、製作の根本方針で常に迷っているが、鏡の能率を調べ報告される時に、まずアイピースが何かと指示して結果を申されたい。アイピースの欠点を鏡の欠点として考えられることは、互いに不幸である。

 筆者は、鏡を使用するに際し、高価ではあるがなるべく色消し接眼鏡を使用せられるように希望しておく。あらゆる努力をして理想的な放物線鏡を作ったとして、それが一部分無駄になることが少なくない。像の欠点は鏡のみに存在すると考えている人が、素人にも、また鏡製作者に相当熟練した人に少なくないものである。