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eggtreeplanet

10.危険すぎる 2 / 2

2020.05.05 03:00



「コンビニか?」


 女はにこりとして、買ってきたものをテーブルに並べた。スケッチブックは売ってなかったからノート。と、そんなものを出したもんで、やっぱりクレイジーだぜとにわかに興奮した。しかし腰に手を回すかどうか迷う。女の様子をもう少し見よう。


「カードゲームは好きか?」


「熟知してるわ」


 女はそう言って、コーラを手渡した。


「コーラが好きなんだな。いつも飲んでる」


「そうね」


  ふふっと楽しげに女は笑った。


「過去と未来をつなぐポータルの話をしてくれ」


「そうだったわね」


「どれくらいポータルを作ったんだ?」


「この世界にある全ての商店とコンビニに。それ以外にも沢山」


 いかれた回答に天井を見上げ、見上げたまま手探りでマルボロをつまみ上げ、口に挟んで火をつけた。


「シャワーはいいのか?」


 特に返事はない。


「何の研究だ?」


「高次二元ジェンダー」


「博士か?」


「ええ」


 天井を見飽きて、女に目をやった。女は熱心に俺を見ている。


「その、なんちゃらジェンダーのための調査でコンビニで買い物してたのか」


「いいえ、調査対象は人よ」


「じゃあ、俺も調査対象か?」


「ええ、もちろん。この世界の全ての人が調査対象」


 会話のテンポが合ってきたぜと、笑いが漏れた。女はまだ熱心に俺を見ている。


「俺をポータルの向こうにさらうか?」


「まさか、そんなこと許されないわ」


 どことなく突き放されたようにも思えたが、話を続けた。


「世界の人口を知ってるか?」


「もちろん」


「その全てを、博士が?」


「ええ、そうよ」


「それは無理だろ」


 いいえ、女は首を振った。すると窓から月明かりが差し、それを合図にか、女はソファから立ち上がった。そしてベッドに腰を移した。


「時間にはスペースの連続が必要だった。連続性はドラマと相性がいい。そのドラマを時間と呼んだ。あなた方の世界では。けれど、私たちの世界ではつなぎ合わせる必要がなくなった。内包されているから。スペースはスペースのまま、時間は簡単に概念を変えた。ならば私は無数の私という束に過ぎない。束ねなければ調査は可能よ」


 女が言い終えると、ベッドが浮かんだ。いや違う、何だこれは? 部屋が浮いている?! いや、待て待て待て、待ってくれよ、おい! 部屋が、部屋が、宇宙だぜ! 俺はソファに、女はベッドに腰掛けて宇宙旅行さっ! って、おいおいおいおーい、すっとぼけてる場合かよ! クレイジー過ぎるだろ!


「見て」


 女は指さした。指さした先は宇宙色に沈んでよく見えなかったが、目が慣れてくるとそこに無数の穴があるのが分かった。その穴は正確な六角形、蜂房のような様相をしている。異様なそれにまじまじしていると、女がベッドの上にゆらり立ち上がった。俺はしこたま焦って女に手を伸ばした。


「そっちは危ない、こっちに来い! さらわれちまうぞ!」


 伸ばした手は広がり続ける宇宙に阻まれた。冷たい汗がとめどなく流れ、窓から入る風は未だべたっと暑いのに体の芯まで凍った。今立ち上がるのはあまりにも危険だ。そんな危機感をよそに、女は両手を広げベッドから飛んだ。俺はまたも焦って、今度こそソファからダイブしようと指先を揃えた。すると、世界から外れてしまうわ、と女が制した。俺を制した女は、ゆっくり小さくなっていった。小さくなるその姿を見送って蜂房の途方もない大きさを知った。無数の穴。あの穴全てに女はいて、人口をあてがう。だとしたら、調査を一気に終わらせることもできるってか。って、正気の沙汰じゃねえ。


 宇宙とともに女が消えると、さっき上がったばかりと思った月が落ち、日が昇ってカラスが鳴いた。今日も暑い一日が始まる。けど風はなくもねえ。テーブルには女が買ってきた、マルボロとトランプとチョコレート、それにノートがリモコンと並んでいる。飲みかけのコーラを口にしてノートを開くとペンがなかった。


「でさぁ」