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声劇台本置き場

『かの狐の消えた理由』(?1人 男1人)

2020.05.07 13:42

【説明】

  その昔、狐の山神様がおりました。

一切の穢れを寄せずただ静かに生きてきた山神様の元に大罪を犯し、それによる穢れから人鬼(ひとおに)に堕ちた少年が訪れます。

この物語はその2人のひと時の逢瀬。


山神様が何故、人鬼となった少年を喰らうに至ったか。何故、長年守り続けた山から姿を消したか。誰も知らぬ物語でございます。


(台本をご利用の場合は利用規約をお読みください。SEやト書等の指示がありますが、無視して頂いて結構です。)

(『』でのセリフは会話とは別の登場人物の想いの言葉になります。会話とは演じ分け願います。)


【登場人物】

・狐

  山神として長年山を守り続けた狐。気高く、神としての誇りを持ち、穢れを寄せ付けてこなかったが、生贄として捧げられる人間や周辺の村の荒んだ様子には表面には出さないが心を痛めていた。


・少年

  狐の棲う山の麓にある村の少年。親はおらず、肉親は妹ただ1人。乞食同然の彼らに周囲は冷たく乱暴に当たっていたが、ある日飢饉が続いたからと神仏への贄に妹が選ばれた。その時村人達により妹が殺害される姿を目の当たりにした事によって人鬼へと堕ちる事となる。


【場面】

  狐が長年山神として守り続けた森の中。時は夜。




狐 01『奇妙な出逢いが、その昔あった』


(SE 01  夜の森の中、草木の擦れる音や虫の音がする)


(SE 02 走る足音。しかし転けてしまう)


少年02「はぁっ…はぁ…(息を切らし)」

狐 03「おい…お前、そうだお前だ…何故(ナニユエ)我が神域に居るのだ」

少年 04「え?…しんいき…?それじゃあ…あなたは、山神様…?」


狐 05『どこぞの村か家の口減らしか…ねぐらの前にそれはいた。儂の声に対して恐れはなく、呆(ほう)けた様子で首を傾げていた』


狐 06「追われてる…訳では無いな。他に何人(なんぴと)もおらぬようだ…迷ったか?…いや、違うな…ああ、さては捨てられたのだろう?供物にされたか」

少年 07「…分からない……」

狐 08「ふん…何も覚えてはいない、か」

少年 09「何も…覚えて…!!…いや、ううん…おぼえてる…忘れない」

狐 10「ほお、言ってごらん…そ奴らを儂が食ってきてやろう。お前を捨てたような奴らだ…」

少年 11「ちがう、ちがうの」

狐 12「何がじゃ」

少年 13「…じぶんで来た」

狐 14「…は?…己の意思で、来たとな」


(SE 03 強い風が吹き)


狐 15『雲が動き、それの姿を月光は照らしだした。

奴隷か忌み子か…何にせよ、その姿からどのような扱いを受けて来たのかは一目瞭然だった。長く伸びた傷んだ黒髪。ろくに食わして貰えなかったのだろう、小枝のようにか細い手足。痛々しい多くの傷と痣。生きてるのかさえ疑わしく思える青白い肌……そして、小僧のそんな全てが、真っ赤な赤い血に塗(まみ)れていた』


少年 16「(泣くのを堪えながら)止められなくて…ここしかないって…そう思ったの…だから、来ました」


狐 17『そうか、それ故にその目は、柘榴の赤』


少年 18「ねえ、お願いします…食らって」


狐 19『震える柘榴の色が殺せと言ってきた。』


(BGM 01)


狐 20「…お前…堕ちたのか…怒りと穢れで人鬼(ひとおに)へと…悪いが、よそを当たれ。儂は下賎(げせん)のものは口にせん」

少年 21「お願いします…!」

狐 22「去れ。…そうだ、あの月の下の山が見えるか…鬼のねぐらがある。彼処(あそこ)ならお前の様な人鬼も受け入れてくれよう」

少年 23「お願いします…」

狐 24「早うゆけ。さもなくば…お前、この神域でその穢れ…死ぬぞ」

少年 25「どうか…お願いします…!」

狐 26「…なにゆえじゃ」


少年 27「…人のままで死にたい!…鬼にはなりたくない…だから、お願いします!お願いします!」


狐 28「(風を嗅ぎ)…麓の村か」

少年 29「(涙声)…妹を…みんな…だから」

狐 30「…妹の為とな。たった1人が為に村人をやったのかい。…そうしてお前は……人鬼になるか」

少年 31「痛いのは僕だけでいいの…」

狐 32「良い事を教えよう。よく聞け、小僧。人鬼はな、死ねはせんのだ。

額から角が生え、目が赤くなり…そのうち牙が生え、そうして自我を失い…空腹と怒りだけが残る。

関わりない者達もその手にいつかは掛けよう。そうして、滅びるのだ」

少年 33「!…僕は…ぼくは…!!」

狐 34「よいではないか、死なんのだぞ?お前とて死にたくはなかろう」


 (BGM C.O)

少年 35「僕は…僕は、妹を食べたくない…!」

(少年、耐えきれなくなったかのように泣き始め)


狐  36『泣きじゃくる小僧の言葉に、なるほど、そう思った。

麓の村から風に乗って届いてくる血の匂い。きっとこやつは、そこへ駆け戻るだろう。そうして食らうのだ……守りたかったはずの妹の亡骸を』


狐 37「人のままで…そうか、そうか…小僧、いいだろう。お前を食ってやる…人のままで死なせてやろう。しかしだ…いいな、悔いはこれで晴らせ、今生の苦しみも全てにおいてだ…誓えるか」

少年 38「…はい…っ」


(BGM 02)


狐 39『人鬼とは、簡単になりうるものではない。しかし、この子供は人鬼となった。こんな童(わらべ)が怒りに身を任せ、人を殺し、血を浴び…そうして、ついに己の額に生えつつある異形の証に気づいたのだ』


少年 40「…待っててね、今…僕も行くよ…。山神様…ねえ、あなたは本当に山神様なんだよね?それでも…こんな僕を食らってくれるんだよね…」

狐 41「…今更…なんでも良かろう、わしはお前を食らう者。それでいい。」

少年 42「…あのね…本当に…ありがとうございます…」


狐 43『そして混濁する記憶の中、すがる想いでここへ来たのだろう。己の意思で、来たと言った。…儂にはそれがどうしようもなく、悲しかった』


狐 44「そう縋られると聞くしかなかろうが。

まったく…人が…いや、狐がよいというのか

それにしても、嗚呼…なんと不味い…不味い事か

神の使いが食うに値せぬわ……


しかし……よく、生き抜いたな」


狐 45『願わくば、子供達が人として生き、人として天命を全うする世が来ることを…

それだけを想い、わしは月へと真っ直ぐ駆けていった』



声劇台本 「かの狐の消えた理由」でした。

ありがとうございました!