宇宙の“箱”を開ける 第1回
このシリーズでは、全8回にわたり僕の研究テーマである、ブラックホールについてお話ししようと思います。
ブラックホールは、宇宙に存在する非常に小さくて重い天体です。典型的には、太陽の30倍以上の質量を持つ恒星が寿命を終えた最終的にブラックホールになると考えられています。
ブラックホールを日本語にそのまま直すと、「黒い穴」ということになります。この由来は、ブラックホールが光ですら脱出することのできない領域を持つことにあります。ブラックホールは非常に強い重力を持つため、大抵の物質は周囲を回るか、もしくは中心の“天体”に吸い込まれていきます。一般相対性理論によれば、光も例外ではなく、重力場の影響を受けます。ただし、光は秒速30万キロメートルという非常に速い速さで宇宙空間を伝わっています。そのため、多くの光はブラックホールに落ちることなく周りをぐるぐると回ってその内ブラックホールから離れていきます。
(ちなみに、このブラックホールの周りを回っている光を地球上で観測するとブラックホールの“影”が観測されます。この“影”のおかげでブラックホールは黒いというイメージが視覚的にも分かりやすくなりましたが、正確にいうとこの“影”は今回説明している“黒い”部分とは別物です。詳しくは過去記事「ブラックホールを覗いてみたら」も読んでみてください。)
しかし、自然界最速の速さを持つ光もブラックホールに近づきすぎるとその強い重力場のためにブラックホールから抜け出すことができず、中心に向かって落ちていくしかなくなってしまいます。ブラックホールはこのように「光ですら抜け出すことのできない領域」を持ち、その境目を「事象の地平面(イベントホライゾン)」と呼んでいます。この領域からは光が飛んでこないので、ブラックホールという“天体”は”黒い穴”なのです。
このように、ブラックホールは「光が飛んでこない領域」を持ちます。しかし、これは大変なことです。何が大変なのかというと、「私たちはブラックホールの“中”がどうなっているのかを知ることができない」ということです。
私たちがものを見る時には光を使います。例えば暗い部屋のどこかにあるスマホを探したければ、まずは部屋の電気をつけるますね。そうすると、部屋の電灯から発せられた光がスマホにあたって私たちの目に届くことで私たちはスマホを見つけることができます。つまり、見たいものに光を当てて、反射させることによってものを見ることができるのです。ただ、もう一つの方法があります。それは誰かに電話をかけて貰えば画面が明るくなるので、その光を頼りにスマホを見つけることもできます。この場合は、見たいものであるスマホ自身が発光しているので、その光で見るということになります。このように私たちがものを見るためには光が必要不可欠です。これは宇宙を観測する時も例外ではありません。私たちが宇宙の現象を観測する時には光をキャッチしているのです。(重力波と呼ばれる、時空の歪みが波のようにして伝わる現象で持って観測することもできます。ただ、宇宙の観測の大部分を占めているのは光(電磁波)の観測です。)
しかし、ここで問題が生じます。ブラックホールは「光が出てこない領域を持つ」ということです。これは事象の地平面の内側がどうなっているのか全く知ることができない、ということになります。では、どうやってブラックホールの中身を知ればいいのか、宇宙に存在している究極のブラックボックスを開けるにはどうすればいいのか。
一つの鍵は、数式を使うことです。理論物理ではこう言った、見えないものを見るために数学という道具を借りて物理的に考察していきます。