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透けたくない。

2020.05.11 09:55

今日、業界の尊敬するパイセンから入電し「透け防止加工ってやったことある?」って聞かれたので、尊敬するパイセン相手にイキっても何も良いことはないので素直に「知りません」と伝えたら、「俺も知らんから聞いてんねんけどな」という、そりゃそうだなってやりとりをした後、数回言葉のキャッチボールをさせていただき、パイセンはパイセンで調べてみるとのことだったので、「逆に教えてください」と電話を終えた。


うむ、確かに、透け防止加工って聞いたことあるような、無いような。

パイセンの調査を待つ間に、自身の『透け』に関する知識の整理をしようと、脳味噌の棚卸しをした。


その昔、前職時代、同僚がオパール加工(ポリエステル綿などポリエステルのような酸に強い繊維と酸に弱い繊維を混紡や交撚、交編してある生地を硫酸で溶かしてポリエステルだけ残して柄を作ったりする加工)してあるTシャツを素肌に直接着ていて、チク◯が丸見えで、同性ながらに目のやり場に困ったことを思い出した。昔から、メンズTシャツの企画には『透けたらアカンやつ』があって、メンズファッション誌の女子に嫌われる服装の中でも『透けてる』のはNGであると強く言われてきている。人の目を気にしすぎで自意識過剰かとも思えるこの『透けたらアカンやつ』は、メンズのTシャツのスタンダードをヘヴィオンスにし、チク透けへの嫌悪感を、目付の重い、野暮ったい商品のバリューに昇華させた。ここから僕の透けに対する知識欲は駆り立てられたのである。


しかし、生地が厚ければ透けないのだろうか?

いや、疑問の着眼点が違う、なぜ生地が厚ければ透けないのだろうか。否、厚くても透ける物は透けるのだ。逆に薄くても透けない物だってある。もちろん、厚さである程度回避できる部分はあるが、これは透けの根本解消にはならない。

ほらね。度目を詰める=生地の厚みを増すから透けないという安直な商品訴求の結果がこれでは片腹痛い。14課には全く恨みは無い。いつもお世話になっております。いや、言うほどお世話にはなってなかったけど、これから何があるかわからない。脱線。


話を戻す。透けは光の動きと人間の目に密接な関係がある。

色の見え方とも非常に関連性が高いので、この記事の無料部分だけでも読んでみて欲しい。


人の目に見えている色というのは、太陽及びその他光源から発せられた光の波が、対象物にぶつかり、光源の中から反射した波長を目が捉えた時に色と判断する。

簡単に言うと七色の光の波が放たれ、赤い波長だけ跳ね返ってきて、それ以外は目に届かない時、赤く見えるのだ。つまり、光が跳ね返らなければ、物があっても目には見えないということになる。


光というのは直進性がある。

ざらざらした物はマットな光沢で、ツルツルした物が光るのは、光がまっすぐ跳ね返って目に届いているからだ。ざらざらした物というのは、表面が細かい凹凸になっていて、これが光を乱反射している。肌色のエアリズムをワイシャツのしたに着るとワイシャツの下に何も着ていないように見えるのにチク透けしないのは、エアリズムの生地が厚いからでは無い。ワイシャツの下にエアリズムより肉厚であろうランニングシャツを着ていてもチク透けしている人は、いる。

エアリズムの生地はむしろ、穴だらけのメッシュ素材で、密度だけ言ったら最弱の部類だ。だから、厚みがあれば当然光を通さないという理屈はあるのだが、厚ければ透けないという証明には少し弱い。

反射光が目に届かなければ良いのだから、反射光の進み方を散らすことで、透けを防ぐのだ。もちろん繊維自体の透明性も関連してくるので、化学繊維でいうところのフルダルと呼ばれている原糸は原料に酸化チタンを混ぜて透明性をなくしている。そこに加えて星形や十字形などの異形断面にすることで光の進み方を散らし、透け防止素材とうたっている。


こうして男たちの夏場の悩みの種、『チク透け問題』は「生地厚があれば透けねぇ」というパワープレイに科学のメスが入ってスマートに着地したのであった。


ちなみに冒頭のパイセンからはまだ『透け防止加工』なる物の存在とカラクリの返答は無いが、僕調べ上、既存の生地に付与して効果をはっきする透け防止加工は、物理的に何かを張り合わせたりするなど以外に存在していない。もし例えば、既存の生地を何かの液につけるだけで透け防止になるという加工があれば、ぜひそのカラクリも含めて知りたいし、すごい発明だと思う。