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私が好きなシーン(追憶

2020.05.13 12:00

こんばんは、谷崎です。

今日は追憶での私が好きなシーンをお届けします。

自分の原稿をカキカキして煮詰まったときに気分を変えようと西条さんの原稿を覗きにいくことが多いのですが、読むと一話に一回は机をどんどん叩いて萌えております、はい。

大好きな作家さんの大好きな作品の大好きなキャラクターとともにうちの子を書かせてもらえるなんて・・・(はああああああ

コラボ企画は当初二万時程度の短編の予定だったのですが、書いていくうちにどんどこ深みにはまり、気づけば30万字を超え・・・(え

ここまできたんだ。もう思い残すことがないよう書こうと決めました。

最後半はまた新たな事実が浮上する予定(西条さんが頑張ってるんだぜ!

そして「ステージは谷崎さんのがんばりどころ」と西条さんから言われたからには頑張らねば(どきどきどき

わたしも西条さんも「やはり物語は人間が変化する瞬間を描かねばならぬ」という指標を持っておりますんで、そのあたりを軸に頑張りたいと思います。


➀先生の愛は純愛か情愛か?

 目尻も眉尻もすっかり下げた仲秋は、作務衣の上から胸を押さえ、照れくさそうに結衣子のすぐそばまで歩み寄った。
「あー……、レディ結衣子。すまないが……」
「なんです?」
 なにやら言いづらそうにする仲秋に首を傾げると、彼はおずおずと窺い見てきた。
「その……抱きしめてはいかんだろうか。あまりに嬉しいものでな」
 容赦なく縄で責めてくる者のずいぶんと可愛らしい申し出に、結衣子はぽかんと口を開けた。ややあってぷっと吹き出すと、仲秋も頬を揺らして笑っている。
 一瞬頭をよぎった稜の顔を追い払い、結衣子は目の前の胸に飛び込んだ。
 胸元から漂う蒸した匂い。未だ逞しい体躯。すぐに抱きしめてきた腕の力強さ。それらすべてが懐かしい。
 責め縄に耐えきった時などいつもこうして抱きしめてもらった記憶が、昨日のことのように巡りくる。
 だが、感傷に浸る間もなく腕はとかれ、仲秋は少年のようにはにかんだ。

読者さまがたにはバレておりますが、この二人は過去に関係がありました。が、とある理由から二人はそれぞれ道を違えています。一見すれば爛れた関係なのですが、その根底にあるものは純愛に限り無く近い情愛。それがよくあらわれている一文だと思いました。


➁緊縛スワップ

 勉強になる。そう思いながら瑛二は仲秋に質問をしている稜を横目に、まず遥香と結衣子の方へ動いた。結衣子の背後に遥香がついたところにカメラを向ける。
 と、遥香がすぐに口を曲げた。
「あー、瑛二さん早速邪魔しにきた」
「アホか。弟子が真面目に緊縛スワップやってるか見張ってやんだよ」
「きっ……きん、ばく、スワップ、って……」
 なんて言い草、とふくれっ面になった遥香と、前を向いたまま呆れた結衣子をまずは収める。説明を聞いている真剣な顔もよかったが、これはこれでかわいらしい。

追憶&乳蜜ではパワーワードが頻出しました。緊縛スワップもその一つ。

からかいながらも内心では遥香を思う瑛二の姿がたまりません(はあはあ


➂瑛二にはできなくて稜にできたこと

 瑠衣の正面で膝をついた稜が目礼し、瑠衣も軽く頭を下げた。
「こちらこそ、ええと……」
「稜でも倉本でも。呼びにくかったら旧姓の小峰でもいいです」
 どこまで本気かわからない調子で稜が言うと、瑠衣が目を丸くする。
「え、旧姓……?」
「うん。籍入れて半年経ったけどなかなか慣れない。世間一般の既婚女性は、こんなことを半ば強いられてるんだね」
 慣れないと言いながら稜はさらりと流すように言う。
 もしも瑛二なら、きっとその選択は考えつきもしなかった。柔らかに笑うようになった男は柔らかにその決断を下し、彼女のそばにいることを選んだ。

この後に瑛二語りが始まるのですが、その前振りとも言えるシーン。

きっと瑛二は稜が決断する瞬間をこうやって眺めていたんだろうな、と思わせる。

瑛二ができなかったこと、それは結衣子が求めるものを差し出す覚悟です。

女王サマは本当に業が深い。でも、どうしてそうなったのかは、彼女が瑛二と出会うまで孤独だったことが深く関係しています。

女王のレッスンや縄痕にくちづけをでは語られていませんが、瑛二は緊縛師として歩むことで自らの癖と向き合ったでしょう。そして稜に至っては、 向き合うまで思い悩んだのではないかと・・・。

彼らはそれぞれが抱える癖の業の深さを分かっている。だからこそ求め続けている結衣子に惹かれた。それが結衣子が言う「駄目な人」ではないかとわたしは思いました。


➃ルイ、動く

 瑠衣はしばしバツが悪そうに戸惑っていたが、意を決したように訴えた。
「だから一番、フラットな目を持っている人なんじゃないか、って……。マサキのことも、そのとおりだから」
 稜が「まあ、いっか」と、ふっと笑う。

仲秋邸で稜に縛られたルイが、彼に皆のことを聞くシーン。

女王のレッスンや縄痕にくちづけをでは、稜は常に冷静に対処していました。そして、追憶でも、彼はここまで表では目立った言動はしていないんです。

それでルイが渡海のことを聞いたところ「律儀で臆病なカッコつけ屋」と指摘。これで納得したルイは瑛二や遥香、結衣子のことを尋ねます。

ステージの下見のときに、ルイは結衣子から指摘を受けています。それにその後のあれやこれやで考えさせられ、この後とあるものを目にして意地に火がつくのですが、そこは乳蜜にも書いていません。いずれ蛇でしっかり書きますのでもうちょっとお待ちください。


➄結衣子、ポロリ

 仲秋がここで縄を教えるとき、仲秋の妻はいつもこの家から姿を消していた。
 夫が緊縛師でなかったら、こういうことも彼女がやっていただろう。心穏やかに、夫だけのために。あるいは仲秋も彼女にずっと愛情を注いでいれば、今のように心を痛めることもなかったかもしれない。
『私がこの通りだから、妻にはつらい思いをさせてしまった。それが心苦しくてね。しかし縄を握らないという選択は、私が心苦しいんだ』
 こわばった顔で結衣子を見る妻の視線の痛々しさに、ここに来ないほうがいいだろうか、と仲秋に相談したことがあった。だが仲秋はそう告げ、情けなさそうに頭を掻いていた。
 開けた茶筒から緑茶の甘く渋い香りがまろやかに薫る。急須にさらさらと茶葉を落とし入れながら、結衣子は独り言のように呟いた。
「少しだけ、責任を感じるわ」
 事情を知る相手なのをいいことに、ぽろりとこぼれたしみったれた話。これまで誰にも言わなかったせいか、渡海に共感めいたものを求めてしまったのかもしれない。
 急須に湯を入れて蒸らし始め、結衣子はぱっと気持ちを切り替えた。渡海を覗き込み、探るような笑みで尋ねる。

原稿を読んだとき「!!」ってなりました。が、結衣子はその後見事に切り返します。

ここで気づけよ、渡海!とわたしは思いました、まる。


➅ルイの縄酔いの理由

「……そう。じゃあ縄の受け方も変わったかしら。やり直したかった気持ちから、相棒になろうってなったのですものね」
「はい、多分。彼の縄を受け入れるようになったというか、ただ身を任せるだけでなく。……そういえばその頃です。縄に酔うようになったのは」
「あら、一線を引いたのに酔うようになったの」
「はい。果たしてあれが縄酔いだったのか分からないけれど、一線を引いたからこそ余計な感情が絡まず縄に酔えたんだと思います」 
 ~中略~
「あなた、今まで彼の縄に抱かれてなにを考えてた?」
「幸せだった頃の記憶のなかにいました。同時につらい出来事も思い出してしまうけど。過去を巡った先に、彼に対して抱き続けたままの未練に気づく。縄を解かれて現実に戻ると、つらかった」
「今も?」
 尋ねると瑠衣は静かに首を横に振った。
「今はないわ」
「それは婚約者のおかげ、ってとこ?」
「そうですね、彼が気づかせてくれました。マサキを拠り所にしてしまっていることを」

乳蜜の最後半でルイの縄酔いの理由らしきものが登場します。

渡海に復縁を望む気がないと知り、ルイは距離を置きました。と、同時に受け手として渡海の縄を感じたら縄に酔うように・・・。という流れなのですが、縛っている相手は・・・。

最後半をお待ちください♡


➆ルイが導き出したもの

「だったらこれから、あなたがすべきことはなに?」
 最後と思って結衣子は瑠衣に問う。すると彼女は決然と顔を上げ、堂々と言い放った。
「マサキと向き合うこと。そして彼を本当の意味で解放すること」
 その答えに結衣子は満足げに微笑み、静かに縄を留め終えた。
 それを察したように、瑠衣もわずかに声に笑みを滲ませる。
「分かったの、彼がどうしてわたしに専属の受け手を依頼してきたのか。多分、わたしを守るため」

ずっと渡海が抱えていたものの一端に触れたルイ。ようやくたどり着いた「やるべきこと」を彼女はどんなふうに行うのでしょうか・・・。


⑧結衣子の悪い癖

 嗜めるような瑠衣の声で語らいが止まり、結衣子は救われたと思うと同時にハッとする。仲秋もまた結衣子のことを煽っている。
 そう気づいた時には、もう遅かった。それも陰湿な嫌がらせじみた、手をこまねくような種の。  救いの前には絶望がつきものだ。それに仲秋は、結衣子の性格をつくづくよくわかっている。どうすれば結衣子の心の、弱いところをつけるのか。
 結衣子がそれに、抗えないことも。
 ――なんで彼女なの……。
 自分の中で赤く光る種火ような感情を止めることができぬまま、結衣子は深い息をついた。

ずっとあとに行われる男縄会で、結衣子の「悪い癖」が出てきます。

どうしてルイを最後の受け手に選んだのか。の部分にのみ光が当てられていますが、実は・・・。

仲秋先生はわたしが産んだキャラですが、育てたのは西条さん。よくぞここまで狸に仕上げてくださった(褒めてる


➈ルカマジック

「たしか結衣子さんは……、そうだ。で、瑠衣さんの時も……」
 結衣子と瑠衣の名まで飛び出してきた。結衣子がつい瑠衣を見ると、何事かと思ったのであろう彼女と目がかち合い、同時に遥香に視線を移す。
~中略~
  謙虚なふうに言っているがその実、とても鋭い言葉の刃だと結衣子は思った。
 違和感は、最も無視してはいけない危険信号だ。遥香の感じたそれは正しい。受け手と縛り手の信頼関係の重要性を、彼女は身を持って知っている。
 静まり返ったアトリエの中応援したくなるような気持ちが募って、結衣子は縛られた手をそっと握る。肩に触れている稜の手も、固くなっていた。
 臆する必要はどこにもない。縛り手と受け手は対等なのだ。
 そう思いながら固唾を呑んで見守っていると、遥香はどこかさみしげに、しかし意を決したように渡海を振り仰いだ。
「渡海さん、受け手と向き合ってない」

渡海が初めて8Knotへ行ったあと、瑛二が結衣子を叱りつけましたね・・・。

そのとき、稜と瑛二は「渡海が受け手に向き合っていない」ということを渡海には言わないという約束を結んでいます。それは自ら見つけてほしかったから。

でも、そこに遥香はいない・・・。遥香はその後渡海にとってのメンターとなります。


⑩先生の悪戯

 穏やかな面持ちで告げ、仲秋は結衣子の脚の傍らに横たわった縄を引く。足の指と床のあいだを、それが縫うようにくぐり抜けた。
 ささやかな摩擦熱が生じた瞬間、まだ冷めきっていない身体がびくんと震えた。
「おお、すまんな」
 悪びれもせず、仲秋があっけらかんと謝る。結衣子は慌てて全身を強張らせたが、本能的な求めに楯突くにはとうに遅かった。
 肌に食い込んだ縄の記憶がまだ新しい。力強い圧のかかった拘束感を、恋しいとさえ思ってしまう。  よこしまな身の覚えが嫌になってついうんざりとため息を吐いていると、仲秋が「そういえば」と我関せずな様子で切り返した。 

今回、企画の宣伝用の画像をプロのカメラマンである佐藤さま(@erisa_satoh)からお借りしたのですが、そのとき候補用にしていた写真からイメージを膨らませたであろう一文。この部分を読んだとき、その写真が浮かびました。

画像は残念ながらこちらでお見せすることはできません。すみません。


⑪複雑な、でもシンプルな

 瑛二の腕を後手に取りながら告げた仲秋の言葉が、結衣子の頭の中に引っかかって、蔦のように絡まった。
 本音と捉えることはできるが、彼にとっては口にできる程度のことなのだろう。どうせ仲秋は渡海も瑠衣も、きっちりと再教育を施しステージに立つ。結衣子はそれを会場側の人間として、拍手と称賛を浴びる彼らを観客とともに見守るしかできない。
 そのための緊縛も、撮影も、相談も。真剣な振りをして見ているだけで、彼とすることはできない。
 いくら願っても、いくら技を磨いても、結衣子は彼と同じ場所には、立てないのだ。
 羨ましかった。瑠衣のことも、渡海のことも。
 稽古をつけてもらえるのも、ステージ演出の相談も、あの豪華な衣装も。結衣子にはただただ羨ましかった。
 恋や愛などと違う種類の、だけどその感情に名を授けるとするならば、それは紛れもなく独占欲だ。
 自分を見て、認めてほしいという、とても浅はかな欲求だった。
 ミストレスという立場を捨てて、仲秋の受け手にはなろうと思えなかった。かと言って、弟子であると表立って名乗ろうともしない。
 そんな関係を望まなかったのは、ほかでもない結衣子自身である。不躾にも『お友達でいましょう』と告げた結衣子のわがままを、仲秋は笑って受け入れてくれたけれど。
 自分が望まなかったくせに、いざそれと名乗る者が現れると、途端に惜しくなる。
 ――こんなの、ただの焼きもちだわ……。
 似たような思いを、遠くない日々に味わっていたのを思い出す。
 瑛二のそばに突如現れた遥香に。彼とともに、仕事をまっとうできる彼女に。
 実に子どもじみた、取るに足らない感情だ。しかし割り切ろうとしても割り切れないこの独占欲の厄介さは、結衣子を度々苛んできた。それも、今も。
 ――私だったら、あんなふうにはならなかったのに。
 仲秋に認められているはずの渡海の不甲斐なさに腹が立った。仲秋の最後の受け手を務める瑠衣の意識の薄さが許せなかった。
 蓋を開ければ拙い八つ当たりだ。仕事を言い訳に私情を通した。本当は人のことなど、なにも言えない。

ずどんとストレートに語られる結衣子の思い。

それがどう変わるか、楽しみに待っていてください♡


⑫結衣子と仲秋の応酬

「あの衣装を見せた仕返しのつもりかね?」
「意趣返し、です。浴衣といい、衣装といい、過去を使われるのは、もう飽き、あ……っ!」
 返事のように胸を挟み込みにきた縄がぐっと肌に食い込んでくる。うちに沁み入ってくる熱さに、結衣子は思わず息を詰め、はっ、と短い息を吐いた。
 なのに目には、不思議と力がみなぎっていくのを感じた。
 高揚している。楽しいとも思った。瑛二とも稜とも渡海とも違う。打てば響くこの感覚は、恐らく誰にも理解されない。
 結衣子を覗き見てきた仲秋の困ったような獰猛な笑顔を、こんなにも嬉しく思うなど、誰にも理解されなくていい。
「後悔しても知らんぞ」
「まあ、先生ったら……」
~中略~
「君の所にマサキを連れて行った翌日、マサキに指示して瑠衣を同じように吊った」
 耳元でした仲秋の声に、結衣子は顎をわずかに上げた。
「その時瑠衣は意識を飛ばした。君の言った甘えの結果だな」
 いつもなら嘆息のひとつもできそうなものだが、この時ばかりはそうはいかなかった。
 短い呼吸が続いている。なんなら結衣子だって、いつ意識が飛んでもおかしくない。なのに仲秋は問題ないと踏んだのか、手にした吊り縄を留め始めてしまった。
「だが今は、耐えるようになった」
~中略~
 ステージに乗り込んだあの日に出会った、なにかを見つけてしまったような、少年じみた輝き。満ちているのに満たされていない、貪欲な者が持つ飢え。
「その目……、すきよ、せんせ……」
 ――やっと私を見てくれるのね。

女王様に火を付けるのは9。

ここは全部好き。結衣子が煽り、仲秋が煽り。応酬の先にこのセリフ・・・。

切羽詰まるようなシーンですが、とても切ないシーン・・・。

なんですが、これもほしかったけれど、本当に結衣子がほしいものは違うんですよ・・・。(悶絶


⑬さすえい!!

「ああ、違いない。私も彼女は可愛がってきた。よく笑いよく学びよく遊び」
「よく啼いて?」
 言葉尻を奪うように瑛二が差し込んだ声に、仲秋は「ほお」と眉を上げる。だが同時に顎も突き上がって、好戦的な空気を帯びた。
 妙な察しのよさが我ながら嫌になる。できれば当たってほしくなかった。
~中略~
 仲秋は依然として矢じりを尖らせたような眼差しを瑛二に向けながらも、警戒と平静を装っている。
 瑛二は頭から下ろした手で、仲秋の胸ぐらを掴んで力任せに引き寄せた。
「結衣子(あいつ)に近づくな」

原稿でこのシーンを見たとき、さすえい!と叫びました。瑛二マジかっこいい・・・。

瑛二が仲秋に詰め寄っている一方で、渡海は稜と台所で会話を交わしていました。

そのとき稜が蒔いた種が芽吹くまであともう少し。その瞬間を見ていただきたいと思います。


十三個並べてみました。

本当はもっとあったんで、絞りました。心が動かされる場面ばかりが続き、それを書き上げた西条さんの苦労がよく分かる。

キャラの心が変化する場面を書くとき、わたしはそのキャラになりきって書くのですが、書いていると涙が出たりもう大変。恐らく、西条さんも同じではないか・・・。

ここまで引っ張ってきてくれた西条さんに応えられるようなものを書きたいと思います。


励ましのコメントやこれまでの感想など、お待ちしております♡

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谷崎文音拝