Mexico City ヒラルディ邸。光と色の静かなる協奏曲
私がルイス・バラガンという建築家の存在を知ったのは、2000年代に放映されていた、吉永小百合出演のシャープ・アクオスのCMでだった。
結構そういう人は多いのではないだろうか。
建築に疎かった私も、その鮮烈な色使いとモダンな建物に、強い衝撃を受けた遠い記憶がある。慌ててルイス・バラガンについて調べ、そして、メキシコにその建物があると知り、ああ、地球の反対側にあるのか、一生行くことはないだろうなぁと、深いため息をついた記憶もある。
それがどうだろう、それから十数年後に、私は地球の裏側で楽しく生活している。人生とはわからないものである。
そんなことはさておき、今回紹介するのは、そのCMにも登場したバラガン最期の建築、ヒラルディ邸である。
ヒラルディ邸は、“ルイス・バラガン邸と仕事場”にもほど近い、メキシコシティ中心地の閑静な住宅街にある。
バラガン邸とは違い、外観は鮮やかなピンク。ひと目でバラガン建築とわかる。
1976年竣工。当時、既に建築家として引退していたバラガンがだったが、広告代理店を経営していたパンチョ・ヒラルディ(Pancho Gilardi)とマルティン・ルケ(Martín Luque)の依頼で設計。バラガンの最期の作品となった。
今現在、ここにはルケ・ファミリーが住んでいて、ルケの妻や息子が建物内を案内してくれる。スペイン語と英語のツアーがあり、私たちは英語のツアーに参加。なかなかのイケメンの息子(写真上)が流暢な英語で説明してくれた。
彼によると、先述したヒラルディと彼のお父さんに依頼されたバラガンは、当初、引退していることもあり、このプロジェクトを断ったそう。当時、バラガン70代、ヒラルディ&ルケ20代。しかし、この家の中心にそびえる”ハカランダ”という紫の花の木にインスピレーションを感じて、この木を囲む家を作ろうと、引き受けたという。また、バラガンの自邸からここまで近かったことも大きな要因だったそう。
この家のスペシャルなところは、すでに事務所を閉じていたため、純粋にバラガン1人が関わった建築だということ。そしてとてもパーソナルな空間だということ。この家はヒラルディ邸とよばれてはいるけれど、ヒラルディ・ファミリーのために建てられたわけではなく、ヒラルディとルケのための、パーティールームのようなものだったらしい。
バラガンがこの家を手掛けるきっかけになったという、例のハカランダというのがこの木(写真上)。
春になるとメキシコのいたるところで、このラベンダー色の花が咲いているのを目にすることができる。3月後半から4月にだけ咲く、日本でいうと桜のような存在。そう思うと、この木を見て家を建てたいと思ったバラガンの気持ちがわかる気がする。
私たちがここを訪れたのが3月末だったので、幸いにもヒラルディ邸に咲くハカランダを目にすることができた。
ハカランダと同じラベンダーに塗られた壁。
中庭で遊ぶ息子。
ハカランダ色とホワイト。シンプルなコントラストが、実に美しい。
爽やかなカラーリングで終わらないのが、バラガン。中庭の別の一角は、ビビッドなピンクの世界。おお、これぞ、バラガンピンク。思わず息を飲む。真っ直ぐ伸びるサボテンもカッコいい。
この中庭がヒラルディ邸の1つのハイライトだとすると、もう1つのハイライトが、ここだろう。↓
階段ホールから廊下、そしてその向こうのダイニングを臨む。もう、この景色だけで、モダンアート。美術館じゃなくて、普通の家だからね、これ。
廊下に入ると、そこは黄色の世界。黄色の壁で囲まれているわけではなく、黄色く染まった窓を通過する黄色い光に包まれているのである。ここをバラガンは”alter(祭壇)”と呼んだらしい。
写真上:ツアーに急遽参加したこの家に住むワンコと戯れる息子。
黄色い廊下の外はこうなっている。
そして、廊下の先には、この、プールのあるダイニングルームが待っている。そう、ダイニングなのである!
アクオスのCMにも登場した、あまりにも有名な室内プール。青、赤、白というプリミティブな色、窓から差しこむ光、反射する水。時間によって、入る光の位置が変わり、プールの表情も変わっていく。バラガンは毎日朝から夜までここで作業し、その光の動きと水の反射までを考えて、この家を作り上げたという。
忘れてはいけないが、ここはダイニングルームである。撮影し忘れたが、プールの横には大きなダイニングテーブルとチェアがあった。本当に不思議な、バラガンにしか考えられないような空間だ。
ふと見ると、ここの住人(犬)が、プールの水をおいしそうに飲んでいた。
ヒラルディ邸は、大きなオープンスペースで構成された家ではなく、1つ1つが割りと小さな空間で仕切られている。そこも他のバラガン建築と違うのかもしれない。
ここ(写真上)は、メキシコのアルテサニアが飾られた、リビングスペースの一角。モダンなデザインの一方で、こういったところに、メキシコを愛したバラガンらしさを感じる。
ちなみに、家具はバラガンがデザインしたか選んだビンテージ、数多くのオブジェもバラガンが持ってきたものだという。
書斎。シンプルな部屋を唯一無二の空間にする、イエローの光がここにも。
黄色は、バラガンにとって精神性を表す色という。そういえば、彼の自邸にも黄色がアクセントになった祭壇があった。
ヒラルディ邸の依頼を受ける際、バラガンは、”私の頭の中にまだ残っている、すべてのアイデアをここでやらせてほしい”、と言ったらしい。バラガンがやりたかったことをすべて詰め込んだヒラルディ邸。最高傑作と言われるのは、そのためだろう。
私の写真だけでは伝わらないことがいっぱいある。シティに来る予定があるなら、ぜひ訪れて、直に見て、感じてほしい。
Casa Gilardi
ヒラルディ邸
direccion:Calle Gral. Antonio León 82,
San Miguel Chapultepec I Secc,
11850 Ciudad de México, CDMX
開館時間 月〜金:10 am -1 pm ,3 pm - 4 pm
土:10 am -1 pm 日:休
要予約。
メールもしくは電話で予約。公式HPのreservacion のページを参照。
https://casagilardi.mx/politicas-para-los-visitantes/
私はなぜか、HPを見ずに、Facebook のメッセンジャーを通じて予約。このへんの日にちに見学したい、といった内容のメッセージを送ったら、申し込みに必要な項目について連絡をもらえた。
https://m.facebook.com/CasaGilardi/