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疫病・関連コメント

2020.05.15 07:15

https://courrier.jp/news/archives/87912/?ate_cookie=1589098954

https://www.jmedj.co.jp/premium/corona/  【「新型コロナウイルス」関連コメント〜【識者の眼】より〜】  抜粋

ファビピラビル(アビガン®)を使いたいけど、使えないのは何故?─早期投与の評価を

中山哲夫 (日本臨床ウイルス学会幹事会有志代表)

掲載日時:2020年5月12日

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が止まりません。ファビピラビル(アビガンⓇ)をはじめとした抗ウイルス薬の臨床試験が行われていますが、臨床現場では簡単に使用できません。4月28日に「COVID-19に対する薬物治療の考え方 第2版」が日本感染症学会から示されました1)。その中で、抗ウイルス薬の対象と開始のタイミングとして5項目の参考基準が挙げられています。抗ウイルス薬の投与を検討する時期としては以下のように要約されます。

*60歳以上の患者さん、または基礎疾患を有する患者さんでは継続的な酸素投与が必要となった段階

*60歳未満で基礎疾患もない患者さんでは酸素投与下でも呼吸不全が悪化傾向にある段階

5月7日に承認されたレムデシビル(ベクルリーⓇ)以外には現在、COVID-19に適応を有する薬剤はなく適応外使用となることから、投与に際しては各医療機関の倫理委員会の承認を得る必要があります。一般的に倫理審査の段階でこの「COVID-19に対する薬物治療の考え方 第2版」を遵守することが要求され、初期の肺炎患者さんには投与できない現状が続いていることが想定されます。

COVID-19は新しい感染症ですので、治療開始時期に関しては今までの臨床経験から類推することしかできませんが、抗インフルエンザ薬、抗ヘルペス薬といった抗ウイルス薬の投与は、ウイルス増殖を抑制するという薬理作用から、一般的に発症早期でなければ有効性は期待できません。中国政府の下で行われた臨床試験で得られた結果2)や、わが国の症例報告で、早期投与の有効性が期待されています3)。ファビピラビルの早期投与開始の有効性と安全性を適切な手法により評価することを提言します。

遺伝子診断に基づき、高齢者、基礎疾患を有する患者さんだけでなく、遺伝子診断されCOVID-19が強く疑われる臨床症状(発熱、咳嗽、味覚嗅覚異常等)を認め、肺炎像がある患者さん達にも重症化を予防するために、早期投与が必要と考えます。

病原体診断に時間がかかっている現状では、早期投与できる症例が限られるため、遺伝子検査の拡充も望むものです。

【文献】

1)日本感染症学会「COVID-19に対する薬物治療の考え方 第2 版」(2020年4月28日)

  [http://www.kansensho.or.jp/uploads/files/topics/2019ncov/covid19_drug_200430.pdf]

2)Cai Q, et al:Engineering. 18 March 2020.

3)ミクスonline 2020年4年20日「日本感染症学会・新型コロナWebシンポ」

 [https://www.mixonline.jp/tabid55.html?artid=69134]


COVID-19重症患者の多くが敗血症に陥っていると推定

松嶋麻子 (名古屋市立大学大学院医学研究科先進急性期医療学教授)

掲載日時:2020年4月30日

2020年春、世界は新型コロナウイルスによる感染症(COVID-19)のパンデミックに見舞われています。影響は5月に及び、日本では最も気候がよく、お出かけ日和となるゴールデンウィークも緊急事態宣言の下で外出自粛が続いています。連日、多くの患者がCOVID-19と確定され、医療機関では日夜、感染症への対応に追われています。

今回のパンデミックでは、感染拡大の比較的早期から、重症患者に医療資源を投入すること、医療崩壊を防ぐことが強調されてきました。これは過去の新型インフルエンザや重症急性呼吸器症候群(SARS)の流行後に出された解析から、患者の予後に最も影響する因子は基礎疾患や年齢より、医療資源だったことが判明したためです。患者の急増により人工呼吸器やICU病床が不足し、院内感染により医療従事者が最前線から離脱すると、十分な医療を提供できなくなります。その結果、通常であれば救えた患者の命を救えなくなる、という意味ですが、今回はこの「医療崩壊」を防ぐため、早期から行政や専門家が一般市民に向けて対策への協力を呼び掛けています。その効果もあってか、ヨーロッパや北米と比較し、日本ではCOVID-19の患者数、死者数とも低く抑えられ、何とか医療を維持しているという現状です。

では、重症化するCOVID-19の中に、敗血症患者はどのくらいいるのでしょうか。米国・シアトルからの症例の解析報告では、肺炎による呼吸不全以外に、肝機能障害は約40%、循環作動薬を要する循環不全は約70%の症例に認められたと報告されています1)。また、中国からの報告では、肝機能障害は15%、腎機能障害も15%、凝固障害は34%、心筋障害は72%の症例で認められたと報告されています2)。重症のウイルス疾患はウイルスの直接的な影響と宿主の免疫反応により全身の臓器に影響を及ぼすことがこれまでも報告されていますが、COVID-19においても重症化する患者の多くが敗血症に陥っていることが推定されます。COVID-19に対する抗ウイルス薬とワクチン開発が進む中、それら病原体特異的な治療とともに、敗血症を呈する重症患者に対応する人材の育成やICU病床を始めとする医療資源の確保が求められています。

【文献】

1)Bhatraju PK, et al:N Engl J Med. 2020 Mar 30.

2)Guo T, et al:JAMA Cardiol. 2020 Mar 27.

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中規模民間病院における新型コロナウイルス対策

伊藤一人 (医療法人社団美心会黒沢病院病院長)

掲載日時:2020年4月30日

2020年4月27日現在の群馬県内の新型コロナウイルスの感染症数は117人と増加傾向で、人口比では0.006%と、東京都の0.028%と比べて感染者率は低くなっています。車社会の群馬県は人との接触頻度が東京の約1/5である結果と考えます。しかし県内感染症指定医療機関のベッドは逼迫しており、公立病院を中心に受け入れ体制拡充中ですが、対応困難な事態が間近に迫っています。

当院は病床数130床の中規模民間病院で、透析患者200人以上を抱え、泌尿器科と脳外科を中心に急性期を維持し、病棟担当内科医は少ない現状です。ICTが院内感染対策にあたっていますが、行政より中等症以下の肺炎症例の入院要請を受ける可能性があり、民間病院として以下のような問題に直面し、限界も感じています。

①陰圧室3室の隔離ベッドが現状での物理的・人的見地からの最大限、②感染症専門家が不在のため、より慎重な環境整備が必要:例えば専用看護ステーション設置、遠隔バイタル監視装置導入と監視カメラ新規設置による不要な患者接触の回避など、③院内感染拡大リスク回避のため専属医療チーム選任と家庭内感染予防のための住居準備、④人工呼吸器管理が困難な現状を踏まえ、入院時に倫理規定に沿った、重症化の際の対応に関する意思確認のための同意説明文書の準備、⑤感染症専門家・保健所による物理的・人的整備指導、⑥実施中の発熱外来の体制維持のためのPPEの公的補助依頼、⑦入院受け入れ時の大幅な他疾患診療制限による経営状況悪化に対する公的資金補助、⑧新型コロナウイルス感染症診療に携わる医療関係者の危険手当、感染時の重症度に応じた公的保証、⑨アビガン使用準備(臨床倫理審査委員会の承認手続き)─など問題が山積です。

民間病院の経営悪化による地域医療崩壊に陥らないため、行政からの入院要請と同時に保証は必須です。また、自己防衛は重要で、日々激変する状況ですので、即断が必要な検討課題があれば感染対策委員会を随時開催(現在週3〜4回)し、万全の対策をしています。

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COVID-19の三大死因の一つに血栓症が加わった

坂本二哉 (日本心臓病学会初代理事長)

掲載日時:2020年4月30日

2020年4月中旬、アメリカのテレビでは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の死因の一つとして治療抵抗性の血栓症が問題視され始めていた。アメリカの二大主要新聞の一つであるWashington Post誌(4月22日)には、Clinical-care surgeonのCraig Coopersmithが同僚との共同記載で、彼らの患者の20〜40%で血栓(blood clots)が致命傷であったとの記事が掲載された。その中には妊婦も2名含まれている。

現在、American College of Cardiology発行のJournal of the American College of Cardiology(JACC)に近々掲載予定の論文には、4月15日の時点で、Bikdeli B, Madhaven MVほか44名の共同著者による多施設研究成績がある(COVID-19 and thrombotic or thromboembolic disease:Implications for prevention,antithrombic therapy,and follow-up)。すなわち、静脈系や動脈系ともに、激烈な炎症、血小板活性化、内膜機能不全、血流停滞などによる血栓症が死因に直結する問題であると言う。高齢者に死亡例が多いのは、高血圧、糖尿病、心疾患例が少なくないためと思われるが、そのような例では既に抗血栓療法下にあるものが多く、新型コロナウイルスの感染はその治療を複雑化する。この論文はこの点を詳述している。

最近、日本でもCOVID-19症例が肺炎以外に、家庭などで待機しているうちに急激に悪化したり、突然脳症状で倒れる例が目立ってきている。孤独死例も増えている。入院中に死亡して初めてそれに気付く例もあると報じられるようになった。明らかに肺炎死ではない。専門家はその理由の解明に迷っているようであるが、血栓症あるいは播種性血管内凝固症であれば納得できる。したがって症状の軽重を問わず、血小板、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)とプロトロンビン時間(PT)、フィブリン分解産物(FDP)を検討する必要があろう。全症例にできれば(あるいは積極的に)アンチトロンビンⅢ(ATⅢ)、トロンビン-アンチトロンビン複合体(TAT)やD-ダイマーの増加をチェックすべきだろう。

抗血栓剤の有効性は低いが、今後の治療法開発が待たれる。またCOVID-19では高血圧、糖尿病、心疾患合併例が死亡増加に関係すると言われているが、それに対し、ACEやARBの積極的投与の有効性が、4月3日、Bavishiらにより示唆されている(COVID-19 infection and renin angiotensin system blockers. JACC April 16, 2020)。それにしても、この物質-生命体の中間体であるウイルスに対し、本質的に有効な薬剤やワクチンの開発が喫緊の課題であることに異論はない。

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新型コロナウイルスへの対応からみる医療機関の病床機能と病床数

小林利彦 (浜松医科大学医学部附属病院医療福祉支援センター特任教授)

掲載日時:2020年4月28日

日本では病院の開設者が民間(医療法人ほか)であるものが全体の7割前後を占めており、一施設あたりの病床数は民間において少ない傾向にある。また、一施設あたりの病床数が200床未満である病院が全体の半数を、300床未満の病院が8割を占めている。その一方で、国立大学法人や私立学校法人、国立高度専門医療研究センターの一施設あたり病床数は500〜700床規模である。

地域における医療機関の病床機能については、医療法で定める「一般病床」「療養病床」「精神病床」「感染病床」「結核病床」という病床分類や、地域医療構想でいう「高度急性期」「急性期」「回復期」「慢性期」という4種の病床機能だけでなく、病院の病床数規模がその施設で担うことができる診療機能に影響するものと考える。実際、より高度な医療を行うにあたっては、先進的な医療機器の整備とともに、それを取り扱う医療従事者の数が多く必要になる。しかし、本邦では、病床数(患者数)あたりの医療従事者数は、一施設あたりの病床数が100〜150床で最も少なく、医師の常勤比率も200床未満では70%を切っている。その理由として、日本の医療保険制度では、中小規模の医療機関への診療報酬手当が比較的低く設定されていることがある。また、中小規模の病院は民間施設であることが多く、設備投資などには慎重であるほか、対象とする診療領域においても採算性を優先する傾向が強いということもある。

平時であれば、高度急性期の診療は病床数が多くICUのある公的医療機関で行い、回復期治療はリハビリ施設で、療養的な対応は中小規模の慢性期施設でといった機能分担が可能である。しかし、今回の「新型コロナウイルス感染症」のように、基礎疾患の重症度等でなく感染症への集中管理需要が問題となると、病床数が少ない施設では対応が困難である。その結果、大規模病院で本来担うべき高度急性期需要に十分対応できず、院内感染などとも相まって、いわゆる「医療崩壊」という様相をきたしやすい。

一般に感染症患者には個室管理やコホーティング対応が望ましいが、中小規模の病院がその役割を担うには、大規模病院等からの人的派遣が必要となる。ただし、民間の中小規模病院では直近の安定経営も重要であることから、必ずしもその種の役割を担うことはできない。現在、ホテルでの軽症・無症状患者への対応が進められているが、一定のリスクを背負いつつ、無限ではない医療従事者を分散させる結果ともなっている。

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新型コロナウイルスと精神科医療(2)─クラスター発生事案が増えている

平川淳一(平川病院院長、東京精神科病院協会会長)

掲載日時:2020年4月27日

4月に入り、精神科病院でのクラスター発生事案が増えてきている。閉鎖病棟に入院している患者の多くは、高齢で糖尿病や喫煙によるCOPDなどの合併症を抱える。精神症状も重く、手洗いやうがい、咳エチケットなど清潔保持もなかなかできない。他患に感染しないように自分の部屋にいるように説明してもすぐに出てきて歩き回ってしまう。このようなところに感染者が出れば、病棟丸ごと汚染し、大変なことになってしまう。また、医師の数も少なく、1人の医師が多くの病棟に出入りするため、医師の感染は病院すべてをレッドゾーンにする。そもそも精神科医の多くは点滴もできないほど身体的な管理は苦手であるため、感染防御については学生並みで、1から教育が必要である。さらに、精神科病院は病院ごとに、検査室、CTやXPなどの設備や人員配置がまちまちで機能に大きな幅があることも課題であり、1つのマニュアルでは対応できない。

このようにリスクの高い病棟が敷地内にある中で精神科救急をやらなければならない。先日、某県で措置入院した患者が、入院後に発症しクラスターが発生したと報道された。感染源は警察官の可能性が高いという。暴れている患者に複数の警察官で対応する場合、ソーシャルディスタンスは難しい。簡易のビニールカッパでは引きちぎられる。取調室などは3密(密閉、密集、密接)そのものであり、警察から病院までの移送も3密である。

また、入院経過の中で感染するため、入院時には検知できない。措置入院は県の指定病院が当番制で引き受ける仕組みになっているが、指定病院は脅威を感じ、拒否しはじめている。路上で倒れていて発熱しているようなケースは、恐ろしくて受け入れられない。もし、強く疑われる入院患者が出ても保健所はなかなかPCR検査をしてくれない。やっと検査してもらっても、結果は数日かかるため入院を継続させざるを得ない。数少ないN95マスクや防護服は1日で消えてしまう。また、結果待ちの間に症状悪化した場合の搬送は、救急車には断られ、保健所も陽性にならないと搬送しないため、どうにもならなくなる。さらに陽性の場合は精神疾患があるということで受け入れ先の病院は見つからない。そのうえ、措置入院の場合は地方自治体がその責任を持つため、逐一、行政の指示を待たなければならない。法的にも、精神保健福祉法での隔離拘束にも感染症法との齟齬があり、命と人権のどちらが優先するか苦慮する。

一方、濃厚接触したスタッフは自宅待機になるが、家族から拒否され、ホテルは断られ、自家用車に車中泊をしている人もいる。地獄である。我々のように還暦も過ぎ、生殖能力に無関係な人間には素早くアビガン投与ができるようにならないかと願うものである。

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PCR検査をめぐる再混乱─集団的同調圧力で決めてはいけない

岩田健太郎 (神戸大学医学研究科感染治療学分野教授)

掲載日時:2020年4月23日

日本は世界の中でも新型コロナウイルス感染症に対する検査数を抑えていた。全例を把握しようとはせず、むしろ重症例やクラスターに的を絞って検査を行い、感染を抑え込みつつ医療崩壊を防ごうというわけだ。

患者数が少なかった時期にはこの方法はうまく行っていた。が、患者数が増えるとむしろこの方法こそが医療現場を疲弊させ、崩壊寸前にまで至らしめてしまった。検査基準を満たさぬと検査を断る保健所。検査を求めていくつもの医療機関をハシゴする患者や救命救急士たち。行き来する保健所と医療機関の折衝の電話。さっさと保健所を介さずに検査できていれば回避できていた混乱である。

患者数が増えてPCR検査のニーズも増えた。当初は一部の「専門家」の失笑すら買っていた韓国のドライブスルーも「実は便利だよね」ということでなし崩しに導入された。それはいい。

しかし、「なし崩し」にどんどんものが決まっていくパニッキーな現在の雰囲気をきわめて危ういと考えている。PCR検査はやらなければよいものでも、やればよいものでもない。検査は適切な患者に適切に行う。それだけだ。検査医学の原則をEBM的に学んでない医者が多い日本では、検査の誤用がきわめて多い。PCR検査に限った話ではない。

京都府立医科大学附属病院と京都大学医学部附属病院は共同で無症候患者に対するPCR検査の保険適用を要求した(https://www.kuhp.kyoto-u.ac.jp/press/20200415.html)。

無症状の人を検査して、陽性者はどうすればいいのか。今、特に多い要求は分娩前妊婦や術前の「ルーチン」のPCR検査である。外科医たちの院内感染を防ぎたいというのだ。

しかし、(執筆時)現在の日本ではPCR陽性者は自動的に入院患者となる。自宅にて療養、というオプションが全国的に確立されていないからだ。加えて4月22日、埼玉県で自宅療養していた感染者がそのまま急死する事態が起きた。大多数の感染者が自然治癒するこの疾患で、重症化の徴候もないまま自宅で急死するというのは稀な事象だ。が、稀な事象を一般化して対応するのは日本の「あるある」な失敗のパターンだ。大学でもこのパターンの失敗は多い。例えば稀な研究不正が発覚すると、全研究者に毎年「研究不正はいたしません」という効果も不確かな誓約書にサインさせるというペーパーワークが増えたりする。今後、安定したPCR陽性者の多くは自宅やホテルなどで療養すべきだが、「稀な事象の一般化対応」のためにこれが困難にならないか危ぶんでいる。

無症状の妊婦や術前患者をどんどん検査すれば、感染者が増加している日本ではさらに新たな感染者が見つかるだろう。ヤブを突けば蛇が出てくるのだ。その感染者は入院患者となり、病棟管理を圧迫する。すでにたくさんの院内感染が日本各所で起きている。感染管理策がきわめて難しいのが本ウイルス感染の特徴だ。院内感染が起きれば感染した医療者はさらに入院の対象となり、濃厚接触者は自宅待機となる。マンパワーを失った病棟は感染者で膨れ上がり、疲弊した医療者の間でさらに感染が起きやすくなるという悪循環が起きる。まさに「医療崩壊」だ。

ルーチンのPCR検査、無症状の人に対するPCR検査がどういう結末を医療現場にもたらすのか、長期的視野で熟考するのが大切だ。パニックを起こして衝動にかられて集団的同調圧力で決めるべきことでは絶対にない。

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新型コロナウイルス感染対策と鼻うがい

堀田 修 (認定NPO法人日本病巣疾患研究会理事長)

掲載日時:2020年4月16日

昨今の世界情勢を見る限り、新型コロナウイルス感染の封じ込め政策は残念ながら失敗に終わり、結局のところ、新型コロナウイルスと人類の共存が残された道のように感じる。そこで、これから先は、これまで以上に一人ひとりの感染をいかに防ぐかという点に焦点をあてる必要がある。

わが国におけるクラスター感染が生じた背景の検証や、新型コロナウイルスがエアロゾル化した状態で数時間にわたり生存することが証明されたこと等から、新型コロナウイルスの感染様式としてエアボーン感染、つまり空気媒介感染がきわめて重要であることが広く認識されつつある。これに伴い、新型コロナウイルス感染対策として、従来の手洗い、マスク、社会的距離(個体距離)に加え、施設や乗り物における換気の重要性が最近では強調されている。

肺炎を発症するまでの新型コロナウイルス感染症の諸症状は、「のど風邪」の原因ウイルスとして知られる従来のコロナウイルス同様、「急性鼻咽腔炎(急性上咽頭炎)」の症状に矛盾しない。それ故、体内に入った新型コロナウイルスの最初の感染部位が上咽頭を中心とする鼻咽腔粘膜であることは疑う余地がない。

新型コロナウイルスの潜伏期間は平均5日間(4〜7日)で、インフルエンザ(1〜2日)に比べてかなり長く、ウイルスのエンベロープが鼻咽腔の細胞膜と融合して細胞内に取り込まれ、感染が成立するまでに比較的時間的猶予があるといえる。そこで、空気を媒介して鼻咽腔に侵入した新型コロナウイルスが、粘膜上皮細胞に取り込まれる前の段階で洗い流してしまえば、ウイルス感染を未然に防ぐことができるのではないか、という推論が成立する。

それを簡単に可能にする手段が鼻うがいである。今でも「鼻うがいは痛い」という先入観を持っている人は少なくないが、実際には0.9%等張食塩水を用いれば、鼻うがいを不快感なく簡単に実施できる。さらに、塩化ナトリウムに重曹を加えて弱アルカリ化すると、細胞の繊毛機能が向上するという報告もある。

現在、使い勝手のよい、数種の鼻うがい器具が既に市販されている。使用する洗浄液は自身で調製することも可能だが、鼻うがい一回分に分包された塩化ナトリウム粉や重曹入塩化ナトリウム粉が市販されており、それらを活用すると便利である。

新型コロナウイルス感染症は人類初の経験であり、鼻うがいのエビデンスはどこにもない。しかし、今後、有効なワクチンが登場する数年先まで、個人のレベルでこのまま、手洗いとマスク以外に何もしなかったら、この先も困難な状況が続くことは自明である。毎日1〜2回の鼻うがいという新型コロナウイルスに対する積極的感染防御の習慣が国民に広く定着することにより、新たな地平が拓かれることを期待したい。

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緊急寄稿:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する漢方の役割

渡辺賢治 (横浜薬科大学特別招聘教授)他

掲載日時:2020年4月13日

編集部より:上記は、弊社有料会員向け学術論文ですが、新型コロナウイルス対策として有益な情報であると判断し、閲覧制限を解除いたしました。どなたでもご覧いただけますが、内容は医療者向けであることにご留意ください。

新型コロナウイルス感染症:抗体検査を一刻も早く確立せよ!

浅香正博 (北海道医療大学学長)

掲載日時:2020年4月13日

4月7日、日本政府は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対して緊急事態宣言を発した。しかしながら感染者数はその後も東京を中心に急激に増え続けてきている。COVID-19のような治療薬のない未知の感染症と闘うのに最も重要なことは診断法の確立である。現在、わが国でCOVID-19に対して用いられている診断法はPCR法のみである。PCR法はウイルスの遺伝子を増幅して測定するもので高い感度を有しているが、鼻咽頭粘膜など検体採取部にウイルスが存在しない場合、感度をいくら上げても陰性と出る可能性がある。したがってCOVID-19の診断法がPCR法のみというのは現場の医師にとっては相当心許ないと思われる。

最近、世界中で注目を浴びつつあるのが抗体測定法である。新型コロナウイルス感染が生じると感染者の体内でウイルスに対する抗体ができてくるのでかなり有力な診断法となる可能性がある。感染後、数日でIgM抗体を生じ、かなりの時間が経ってから中和抗体であるIgGが生成され、感染は終結に向かう。したがって新型コロナウイルスに対するIgM抗体を測定することにより、感染が現在生じているのかどうかが明らかとなり、IgG抗体が陽性であれば、すでに感染を克服している可能性が高いことがわかる。

このようにCOVID-19の診断にとってその病期までわかる抗体検査は有用で必須なものと考えられるが、最大の問題点はその精度である。IgM抗体測定で診断できる最も有名な疾患はA型ウイルス肝炎である。その臨床的意義は十分に確立されており教科書にも記載されている。しかし、COVID-19の場合はIgM抗体測定の意義がまだ十分に解明されていない。測定キットは中国や米国などから提供されているが、抗体測定の有用性に関する評価可能な論文はまだ報告されていない。それ故、一刻も早く新型コロナウイルスに対する抗体測定の臨床的意義についてわが国をあげて確立してほしいと願っている。特に感染診断におけるIgM抗体とPCR検査との相関性については早急に検討願いたい。これはCOVID-19対策に従事する医師へのきわめて強力で重要な武器になる可能性が高い。抗体検査は血液採取により短時間で結果が得られることより、一挙に数万、数十万件の処理が可能になる。COVID-19に対する有効な治療法とワクチンのない現状では、診断法の確立によってCOVID-19への対策の幅が明らかに広がっていく。英国、米国でもすでに検討が始まっているが、感染爆発や医療崩壊に結びつけないためにも、わが国での検討を期限を決めて大急ぎで行うべきと考える。

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新型コロナウイルス感染症:感染ピークを抑えている?

岩田健太郎 (神戸大学医学研究科感染治療学分野教授)

掲載日時:2020年4月2日

「新型コロナウイルス感染対策は封じ込めのフェーズは終わった、これからは感染のピークを下げて、ずらす方向にシフトすべきだ」という専門家会議の見解を耳にした。

この大方針は概ね、正しい。急激な、指数関数的感染拡大が起きてしまうと中国・武漢のように万単位の患者が発生し、たくさんの死亡者が出る。韓国もこれで苦しんだ。本稿執筆時点ではイタリア、フランス、スペインといったヨーロッパ諸国で同じことが起き、米国ではニューヨークが同じように苦しんでいる。急激な患者の拡大は医療を圧迫し、医療者を疲弊させ、医療リソースは枯渇する。それは結局患者のアウトカムにもネガティブに作用する。

急峻な感染ピークを押さえ込めば、これを回避できる。ただし。それは「感染ピーク」をきちんと把握できている場合に限る。ピークを把握できていなければ、それが高いとか低いとか、抑えているとか、抑えていないとかを論ずることはできない。

韓国と日本の検査数の違いが何度も議論されているが、意味のない議論だと私は思う。検査は感染者数の反映だ。その逆ではない。感染者が一気に激増した韓国では当然たくさんの検査を必要とした。日本ではそんな感染者の増加はない(執筆時点では)。必要ない検査はしなくてよい。ただ、それだけだ。問題は、東京などで感染者の数が増えていることだ。増えているならば検査も当然増やさねばならぬ。

東京都の新型コロナウイルス感染症対策サイトには都の検査実施件数がグラフ化されているが、医療機関が保険適用で行った検査は含まれていない(https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/)。これによると3月25日の検査数は108件だ。一方、厚生労働省の資料によると同日行った保険適用分の検査数は民間検査会社で139件、大学で34件、医療機関で23件、合計196件だった。全国で、である(https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000614793.pdf?fbclid=IwAR3zpt9tu9Hs2NXgSCYA8D7BSbxJVKivQKiieYgrX10zivm7IUtXHWYkMpk)。

では、東京都の真の検査数は何件だったのだろうか。3月25日の都の検査陽性者数は41人だった。私見だが、感染者がきちんと捕捉されているであろう、最低限の適切な検査数は、陽性者が検査数の10%未満に収まっている時だと考えている。とすると、25日の適切な検査数は東京都で410件以上ということになる。これでは全く足りていない。

感染ピークは抑えるべきだ。が、陽性者数を捕捉しきれず、「感染ピークが抑えられているかのように勘違いしている」状況は実に危険だ。それは将来のもっと巨大な感染ピークの予兆だからだ。

大事なのは事実だ。願望ではない。ピークを抑えたいという願望が、ピークという事実から目を背けさせる根拠となってはいけない。日本は大丈夫だろうか。

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緊急寄稿:アビガン開発者からの提言

白木公康 (千里金蘭大学副学長,富山大学名誉教授(医学部))

緊急寄稿(1) 掲載日時:2020年3月18日

緊急寄稿(2) 掲載日時:2020年3月25日

緊急寄稿(3) 掲載日時:2020年4月1日 共著:松本志郎 (熊本大学生命科学研究部小児科学講座准教授)

緊急寄稿(1)新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のウイルス学的特徴と感染様式の考察

緊急寄稿(2)新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療候補薬アビガンの特徴

緊急寄稿(3)COVID-19を含むウイルス感染症と抗ウイルス薬の作用の特徴

編集部より:上記は、弊社有料会員向け学術論文ですが、新型コロナウイルス対策として有益な情報であると判断し、閲覧制限を解除いたしました。どなたでもご覧いただけますが、内容は医療者向けであることにご留意ください。

COVID-19パンデミックによる抗菌薬使用量の変化

具 芳明 (国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファレンスセンター情報・教育支援室長)

掲載日時:2020年4月1日

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックに伴い、首都圏を中心にさまざまな活動の自粛が求められている(本稿は3月下旬に執筆)。COVID-19対策はもちろん重要であるが、薬剤耐性(AMR)対策はさらに長いスパンで考えていく必要がある。抗菌薬使用の増加はAMRの増加に直結する。パンデミックに伴う抗菌薬使用量の変化が後々のAMR対策の負荷に影響する可能性があり、決して無関係ではない。

パンデミックによる抗菌薬使用量の変化は、増加要因と減少要因が考えられる。まず、COVID-19が重症化した場合、急激に状態が悪化するため細菌感染症の鑑別を行いつつ抗菌薬が投与される可能性がある。したがって、重症患者の増加は抗菌薬使用の増加要因となる。また、国内での流行規模が拡大し軽症患者が多く受診することになると、「診断的治療」として抗菌薬を処方される機会が増えるかもしれない。それは本来避けるべきものではあるが、感冒をはじめとする急性気道感染症に対する抗菌薬処方がまだまだ多い現状や、他の疾患を診断するための迅速検査が感染対策の観点から行いにくいことを考えると、そのような抗菌薬処方の増加が懸念される。

一方、風邪症状での受診を控える呼びかけや、定期受診の間隔を空けるなどの動きがあり、そのため全体に外来受診患者数が減っている。受診数の減少は抗菌薬処方の減少要因となる。薬局サーベイランスによる抗菌薬処方件数をみると、2月〜3月下旬までは前年比で減少傾向となっており(http://prescription.orca.med.or.jp/syndromic/kanjyasuikei/)、現状の受診状況が続けば抗菌薬使用量が減少するものと予想される。また、今後COVID-19の迅速診断が実用化されれば、念のための抗菌薬使用が減ることが期待される。

本稿執筆時点ではCOVID-19の拡大を抑えようと懸命に取り組まれているところであり、先の状況は読めない。パンデミック対応が最優先の状況ではあるが、その状況によって抗菌薬の使用状況が大きく変化しうる。後々のAMR対策につなげるためにも状況を注視していきたい。

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日本はPCR検査を抑制しているのか?

岡本悦司 (福知山公立大学地域経営学部長)

掲載日時:2020年3月31日

パンデミックが続くなか、日本の新型コロナの感染数や死亡数に注目が集まっている。欧米諸国ほど、厳しい外出禁止等の措置がとられていないにもかかわらず、感染数も死亡数も少なすぎるのではないかと。日本は、特にオリンピックを控えていたこともあり「PCR検査を意図的に抑制し、感染者数を少なくみせかけているのでは」という憶測さえ呼んでいる。

世界中にパンデミックが拡大した今、各国の検査数、陽性者数そして死亡数のデータがネット上で公開されるようになってきたので国際比較を試みた。検査を抑制し、ハイリスク者のみに限定すれば、陽性率は高くなる。だとすると、人口当たりの検査数が少ない国ほど、検査の陽性率は高くなるのではないか?

Wikipediaに掲載された人口100万人当たりPCR検査数と検査陽性率との相関を国ごとにプロットしたのが下図である(時点は概ね3月26〜28日)。人口当たりの検査数は国によるバラツキが大きく、対数目盛りにしなければならなかった。回帰直線をひくと、予想通り、人口当たり検査数と陽性率との間には負の相関がみられた(決定係数は0.16程度と低いが)。回帰直線を延長し検査数が100万人当たり100万件(=全数検査)と交わるところが現時点での全世界の陽性率と考えられる。世界中の陽性率が高まれば、直線全体が上へ押し上げられてゆく。

興味深いのは、国情の似通った韓国の数値である。日本の検査数は人口100万人当たり226件で、陽性率5.3%、対して韓国は7502件で2.4%。陽性率だけで比較すると日本は韓国の倍以上だが、韓国はドライブスルーやウォークイン検査までやった結果である(両国のプロット間の傾きは概ね回帰直線に一致)。両国ともに、既に人口の0.1%弱程度陽性者がいると考えられる。

もはや、検査を増やしたり、陽性者の感染経路を調査するよりも、既感染者からの感染拡大による感染爆発を阻止するため国を挙げて取り組むべき状況にきている。

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新型コロナに関する一般社会の疑問と対応

勝田吉彰 (関西福祉大学社会福祉学研究科教授)

掲載日時:2020年3月31日

筆者は引き続き、COVID-19関連についてメディア対応を行っている。その中で、記者やテレビマンから問われた質問をいくつか、対応の一例とともに紹介する。彼らの準備過程で、街中の取材も行っているから、これらは一般庶民の持っている疑問をある程度反映していると思われる。

Q1.いつ収束するのでしょうか?

「神様にしかわかりません」というのが最も誠実な答えであろう。実際にその通り申し上げたことも何度かあるが、「感染して治癒した人が増え、世間に抗体が行き渡ったら、そこで盾になって感染拡大が収まってきます。およそ2年ぐらいでしょうか」と集団免疫を噛み砕いて説明する。

より短期的に当面、この“騒動”が収まるのはいつか?と聞きたい向きもある。やはり「神様しか〜」が誠実であろうが、筆者は「気温の上昇とともに、20℃台後半になったら予想感染者数がぐっと下がる可能性を指摘する論文が最近でています1)」「緯度・温度・絶対湿度の分析で、暖かくなればという論文も2)」と紹介することもある。preliminary evidence(予備的証拠)であると明記されているから、独り歩きしないようしっかり釘をさしながら。

Q2.大阪府—兵庫県の往来自粛要請は意味があったか?効果があったか?

3月20日からの3連休、大阪府民は兵庫県内に行かないようにと往来自粛要請が大阪府知事からなされた。当初、兵庫県知事が会見で不快感を表明することもあったが、要請自体はおおむね効果的に受け止められたようである。この自粛要請が効果ありやなしや? との問いかけも多数いただいた。武漢の封じ込めに関する報告はあれど3)、強制力のない要請についてのエビデンスはもちろんない。「人と人との接触回数が減るので、その部分は感染拡大の機会を減らすことはあるでしょう。ただ、このような『前例のない、初めて聞くこと』を首長が言語明瞭に表明することによるメッセージ性は大きいと思います。これは大阪の人が大阪の繁華街に出かけるのが減ったりといった、県境を越えた往来以外についても効果があったのではないでしょうか」と伝えている。(潜伏期からみて)実際の効果は1〜2週間後に、同様の要請のなかった首都圏と比較において明らかになるであろうと付け加えて。

Q3.嗅覚を失う症状があるのか?

阪神タイガース球団の藤浪選手が嗅覚脱失を訴えて受診し陽性確認されたことから、世間の関心が一挙に高まった。「確かにあります。米国の耳鼻科学会(正確には耳鼻咽喉頭頚部外科学会)は、嗅覚がなくなることを、新型コロナ感染のサインのひとつに盛り込むことを提言しています」「同学会のHPではこの件について大きくスペースを割き、その診察を経験した現場の医師が簡単に報告できるコーナーをつくっています4)。おそらく遠からず症例が集まって正式な論文も出てくるのではないでしょうか」と話している。余談であるが、このコーナーは会員でなくとも、米国外からでも簡単に入力できるので、読者諸賢も経験されたらお試しあれ。

Q4.特に避けるべきリスクは?

専門家委員会から提示されたクラスタのできやすい3条件。筆者は、子どもにも口ずさんでもらえる語呂合わせを、TVのパネルなどで採用いただいている。かみかみ。

か:換気悪い

み:密集(人ごみ)

か:会話(至近距離)

み:みんなで減らそう!

子どもも大人もこれを口ぐせにして、いま居るところが「かみかみ」じゃないかいつも意識してもらうという狙いである。専門家会議のメッセージを、咀嚼(かみかみ)して世間に広めるのも我々医療者の役割、という思いも込めている。

【文献】

1) https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.03.18.20036731v1.full.pdf

2) https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=3550308

4) https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.02.16.20023770v1

3) https://www.entnet.org/content/reporting-tool-patients-anosmia-related-covid-19

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新型コロナウイルス感染症:子どものSOSと大人のストレスに対応を

小橋孝介 (松戸市立総合医療センター小児科医長)

掲載日時:2020年3月30日

中国から始まったCOVID-19の流行は全世界へ広がり、日々感染者数、死亡者数の増加が報道され、欧米諸国では都市封鎖、外出禁止といった未曾有の対応が行われている。感染症としてのCOVID-19に焦点が当てられがちであるが、このように日々の生活が一変するような大きなストレス(精神的な面だけではなく、経済的な面もあるだろう)は、それに直面している家族に対し、大人だけではなく、乳児や幼児も含む子どもにも大きな影響を及ぼす。

子どもはこのようなストレスに対して様々な反応を示す。例えば、イライラして怒りっぽくなったり、いわゆる「赤ちゃん返り」のような行動の退行を示したり、おねしょをするようになったり、などである。「保育園で咳払いをして『コロナウイルス』と言う遊びをしていた」と言う相談があった。こういった遊びの変化もストレスに対する反応であろう。

これらの反応は子どもからのSOSである。このSOSに対して身近にいる大人は、その行動に対し怒ったりするのではなく、まず子どもに目を向け、寄り添い、子どもの言葉を聴き、子どもが安心できる環境をつくることが重要である。一緒にできる遊び(トランプやボードゲームなど)や運動をするのもよいだろう。

また、年齢に応じて正しい情報をきちんと伝えることも必要である。子どもは入ってくる断片的な情報を、誤った捉え方をして不安や恐怖が増強することがある。米国疾病予防管理センター(CDC)が子どもとCOVID-19について話す際の基本原則等についてページを作成しており参考になる1)。

平時に家族機能が十分保たれている家族であれば、上記のような対応を取ることができるだろう。しかしながら、もともとの家族機能が脆弱な、もしくは様々なサポートを受けてなんとか家族機能を保ってきた家族においてこのような状況下ではその維持が難しくなってくる。そして、大人のストレスが弱い立場の子どもに向かう可能性が高くなる。すでに米国では重篤な子ども虐待が増加しているという報道もされている。このような時に、どのように子どもと家族を守っていくのか、既存のシステムでは対応ができない部分をどのようにカバーしていくのか、子ども家庭福祉に関わる専門機関は早急に対策を考えなければならない。

日本小児科学会は2020年3月13日に「普段と異なる状況下における子どもの安心・安全のために」として情報発信を行っている2)。また世界保健機関(WHO)は今回のCOVID-19流行に伴う子どものストレスへの対応についてのリーフレットを作成している3)。その他にも米国小児科学会等の海外の様々な団体が様々なリソースを公開しており参考になる。

我々も医療者として、そして家族の一員としてこれから起こるであろう大きな感染の流行に備えなければならない。

【文献】

1) https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/community/schools-childcare/talking-with-children.html 

2) https://www.jpeds.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=333

3) https://www.who.int/docs/default-source/coronaviruse/helping-children-cope-with-stress-print.pdf

4)『感染症対策下における子どもの安心・安全を高めるために』(こども向け)動画版「子どものこころのサポート動画」

  第1回「子どもの一般的な反応・行動」 https://youtu.be/3F2sr_wx0qg

  第2回「見るポイント、聴くポイント」 https://www.youtube.com/watch?v=JjHKthKkJ8o

  第3回「周りの大人へもサポートを」  https://youtu.be/odnHUnJ1BAI 

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緊急寄稿:今こそ、アビガン®の使用を解禁すべき

菅谷憲夫(神奈川県警友会けいゆう病院感染制御センターセンター長・小児科、慶應義塾大学医学部客員教授、WHO重症インフルエンザガイドライン委員)

掲載日時:2020年3月27日

緊急寄稿 COVID-19流行は緊急事態─今こそ、ファビピラビル(アビガン®)の使用を解禁すべき

新型コロナウイルス感染症:グレー・リノが暴れだした

神野正博(社会医療法人財団董仙会恵寿総合病院理事長)

掲載日時:2020年3月26日

新型コロナウイルス禍はあっという間に世界を駆け巡り、局地的な対応からパンデミックとして全世界的な対応が求められる局面となった。これまでの化石エネルギーを大量消費して、航空機や船舶でありとあらゆるところに移動し、洋の東西から取り寄せられた美酒や美食に舌鼓を打ち、「快適で」「豊かな」生活を送ってきた地球市民を震撼させている状況だ。残念ながら東京2020オリンピックの開催も延期となったことは止むを得ない選択だろう。

主に金融の世界に『ブラック・スワン Black Swan』という言葉と『グレー・リノGray Rhino(灰色のサイ)』という言葉がある。

われわれはスワンと言えば白い鳥だと思っている。黒鳥ブラック・スワンはあり得ないと思っている。その存在は見えにくいゆえに予見しにくいのだ。しかし、現実には存在する。したがって、発生する確率は低いが、発生すれば大きな影響を与える問題だとされ、主に発生の予測が難しい「金融危機」や「自然災害」を表す際によく使われてきた。

一方、図体の大きなグレー・リノはその存在に気が付いている。そして、草を食むおとなしいリノが一旦暴走すると、その攻撃力は凄まじく、誰も手が付けられなくなる。ここから転じ、われわれの視界の中にずっといたにも関わらず、普段はおとなしいゆえに「まぁ、大丈夫だろう」と軽視されてきたリスクや問題が爆発する場合に使われるという。

さて、今回のコロナ禍はどちらに当てはまるのか。われわれは、その存在に気が付いていたのか。コロナ禍の直前まで、目の前で議論されてきた環境破壊、海洋汚染、地球温暖化、そしてそれに伴う気象の変化はグレー・リノではなかったのか。根本的な問題の解決から目を逸らせ、経済発展のみを優先してきた西や東の超大国、その顔色をうかがう極東の島国の責任に対しての地球からのしっぺ返しだったのではないかと思われてならない。 

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産業医のための一般企業における新型コロナウイルス感染症対策(3月18日版)

和田耕治 (国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授)

掲載日時:2020年3月18日

産業医として企業を訪問される際には、現段階で以下の事項をお伝えする必要があると考えています。

1. 新型コロナウイルス感染症は、国内外で広がっている。高齢者への広がりをみせている地域もあり、死者が増加している。今後、国内で人口の多い地域は、いつ患者の爆発的増加(オーバーシュート)が起きてもおかしくないと考えて備えを。

2. 新型インフルエンザ等特別措置法の緊急事態宣言後に地域で感染拡大が見られた場合には、知事の権限で第45条に基づき、不要不急の外出自粛の要請や学校、興行場等の使用制限の要請等がなされる可能性がある。事業所のあるエリアが該当した場合にどう企業として動くのか。どういう業務は続け、どういう業務は減らすのか。何が社会機能維持に必要なのか。店舗は開くのか、閉じるのか。こうした頭の体操を今すぐにしておきたい。

3. 社会機能維持に関わる業態については、新型インフルエンザ等特別措置法の特定接種について定められた国民生活・国民経済安定分野が参考になる。新型インフルエンザ等対策特別措置法第二十八条第一項第一号の規定に基づき厚生労働大臣が定める基準に該当するかを確認する(https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=78ab3693&dataType=0&pageNo=1)。当面は特定接種の予定はないが、社会的使命として企業がこういう事業にあたるのかを確認しておく。

4. 社会機能維持に関わる業態においては、普段の感染対策と、感染者が社内や社員の家族に出た場合の対応などについて検討し、訓練までしておきたい。

5. 今後、流行は年単位で続くと考える。地域によって流行の波の時期や大きさは異なるが、集団免疫が得られるまでは、流行拡大を抑えるための措置として社会活動の低下や人と人の距離をあける対策が必要になる。

6. 人が集まる場を提供している事業者は、サービスのあり方や感染対策を整備したい。全国から人が集まるイベントを実施した場合に、感染が確認されると全国に広がる可能性があることから、今後も当面の実施は難しくなる可能性がある。換気が悪い、人と人との距離が近い、会話や発声がある─という3条件が揃う場は様々な対策を必要とする。

7. 海外渡航は、当面の間は、業務、個人的な理由も含めて控えることが必要である。

8. 職場での手洗いのタイミングや質がおろそかになっていないか確認する。 そのほかにもお伝えしたいことはあるが、文字数の関係で優先すべきところのみとした。これらは2020年3月18日の段階の状況に基づいた、筆者の専門的観点からの考えであることを申し添える。

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新型コロナウイルス感染症:「つくる/なる」(丸山真男)の区別から考えた対策

堀 有伸 (ほりメンタルクリニック院長)

掲載日時:2020年3月17日

私は、日本人の意識は深層において「右より」と「左より」の意識に分裂しているという仮説を持っています。今回の考察では、「右より」の意識における「前近代的、共同体的」側面と、「左より」の意識における「近代的、個人的」側面を踏まえた上で、丸山真男の日本人論にあった「なる(生成。四季が自然にめぐってくるようなイメージ)/つくる(制作。人為的につくられたもの、近代や自然科学)」の区別を、新型コロナウイルス感染症対策との関係で考えてみます。

日本人は「なる」に適応し、「つくる」方針を採用することにはとても慎重です(ただし、一旦「つくる」スイッチが入ると猛進するという特徴もあります)。今回の感染症対策でも、「ウイルスに対して多数の検査を行って実体を把握するなどの対策を徹底的に実行し、その封じ込めを目指す」という「つくる」精神に寄った戦略と、「感染力は強いが致死率が限定されているウイルスと共存しつつのコントロールを目指す」という「なる」精神に寄った戦略では、無意識的に多くの日本人が後者を選択していたのではないでしょうか。

感染力が強く制御の難しいウイルスと徹底的に戦わずに状況に合わせる日本の戦略は、ある程度奏功しているように思えます。しかし、問題点もあります。世界全体における新型コロナウイルス感染症への取り組みという視点では、日本からの貢献は少なく、「外国の基礎研究にただ乗りしている」という状況もあるのです。

もちろん「パニックや医療崩壊を防ぐ」ことは重要です。望まれているのは、高次の水準での「なる」精神と「つくる」精神の統合です。「なる」精神が優勢な日本社会にとって、「意図的に決断する」などの「つくる」精神を適切に包含することは、一つのチャレンジだと考えます。

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新型コロナウイルス感染症:指定感染症であることによる混乱の可能性

浅香正博 (北海道医療大学学長)

掲載日時:2020年3月10日

中国の武漢で始まった新型コロナウイルス感染症は中国本土を越えてわが国や韓国にまで波及し、さらに全世界に広がりを見せている。医療従事者の一人として私もわが国での新型コロナウイルス感染の広がりを憂えている。この感染症は無症候性キャリアの存在が明らかになった時点できわめて予防しにくい感染症となった。さらに1月28日、政府が本感染症を「指定感染症」に指定したことにより、医療現場では季節性インフルエンザの診療よりはるかに煩雑なものとなっている。

この感染症の診断はPCR検査によって行われている。PCR検査は感度については良好であるが、鼻咽頭粘膜などの検体採取部にウイルスが存在しない場合、感度をいくら上げても陰性と出る可能性が大きい。そのため検査陽性の場合は感染ありと断定できるが、陰性の場合は信用ができない可能性がある。PCR検査を希望者全員に行うことは感染者の数を著しく増やすことにつながると考えられる。この場合、無症状や軽度の症状の人もまとめて新型コロナウイルス感染症と診断されるので、指定感染症である以上、原則的には入院隔離措置が執られることになる。そうすると、感染症指定医療機関ではない一般の医療施設でも入院させざるを得ない状況になり、逆に院内感染を拡大させる可能性が増してくる。いつの日か、本感染症を指定感染症から解除する時がやってくると思われるが、そうなってくれると通常のインフルエンザと同様に軽症の場合は自宅待機を勧めることが可能になり、医療における混乱が生じる可能性は減少する。

個人的な意見になるが、これからの1カ月間の感染の動向により新型コロナウイルス感染症への基本方針が大きく変わる可能性が高いと考えている。新規感染者より回復者の方が多くなれば指定感染症の枠から外し、季節性インフルエンザと同じ診療方針で行えばよい。新規感染者がなお回復者を大きく上回っているのであれば、感染ルート探索のために全力を挙げ、個別の調査により感染源を完璧に絶たなければいけない。結果が前者であってほしいと強く望んでいる。

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COVID-19に際し、プライマリ・ケアが守るべきものを後輩と議論する

吉田 伸 (飯塚病院総合診療科)

掲載日時:2020年3月9日

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が拡大している。この原稿を執筆している2020年2月28日にも、政府から小中高一斉休校が要請され、医療現場・介護現場だけでなく、各家庭と教育現場も対応に追われている。

自らも恐慌に陥れば、プライマリ・ケアの専門家たる家庭医(総合診療医)の矜恃を見失う。我々はいま、誰のために、何をしなければならないのだろうか。知識欲旺盛な後輩専攻医と、当直診療の合間に議論を繰り広げた。彼はすでにあらかたのCOVID-19関連論文に目を通している強者である。彼の意見からは、ここまで数ヶ月の医学的知見が指し示す、この新しいコロナウイルス感染の病像と、それに合った対応が次々と列挙される。

私の意見はこうだ。“感染が国内に広がった今、誰の何を守るか?”である。これはけっこうはっきりしていて、自施設では、以下の方々の肺炎死の予防が最優先である。

・外来のかかりつけ患者。特に高齢・多併存疾患・免疫不全のある方々

・90余名の病棟患者

・300名の在宅患者(居宅・施設)

・60余名の透析患者

これら患者の住まいを城に見立て、安全に籠城できるように門を守るのである。門番は病院なら我々医療者、施設なら介護スタッフ、家なら家族である。

門の守り方は、これまで人類が経験してきたパンデミックとの戦いから得られた医学知見を活用し、わかりやすく伝える。城内にウイルスを持ち込ませない、門番が発症したら休む、門番が交代できるよう人員に余裕を持たせる、そして主たる患者に必要な物資と、通常に近いケアと、人とのつながりを届け続ける。それを城の状況に合わせて微調整する。プライマリ・ケアの長所は、個々の城と門番のステータスに精通しているところだから、門を守りやすい。

ちなみにこの原稿を書き始めてから、筆者は暫く咳が出ていたので診療を数日休み、自宅待機して部屋に籠もっていたが、やはりとても辛かった。予防対策では特に社会的な隔絶が起きるので、限定されたなかで残った人のつながりを確かめられるようなケアが大切だと強調しておく。

WONCA(世界家庭医機構)の会長である香港大学、Donald Li教授は、世界中の家庭医に、COVID-19の対策は「First in,Last out」であると呼びかけている1)。家庭医は最初にコミュニティで感染の予防指導と状況把握にあたり、ピークがすぎたあとにもコミュニティの身体的・精神的なダメージのアフターケアにあたる。ここにはきっと、顕在化する貧困問題も入るだろう。

簡単なわけはない、でもこれをやらねばならない。チームで。コミュニティとともに。

【文献】

1) WONCA News, Donald Li, January 2020, cited on 28th February, 2020.

[https://www.globalfamilydoctor.com/News/DonaldLiontheCoronavirus.aspx?fbclid=IwAR0ytJ4Go3KDeRqm0AIdiMGBbN53yt2UPbjKmygMaCTDvTzvUYMQqjVW_0Q]

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新型コロナウイルス対策の心構え:人同士の物理的な距離をとりながらも、関わりは続け、そして連帯すること

和田耕治 (国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授)

掲載日時:2020年3月9日

新型コロナウイルス感染症の今後の中長期的な予防策の一つが見えてきました。それは、「人同士の物理的な距離をとること」です。対策を難しくしている理由は、比較的元気な人が知らず知らずのうちに多くの人に感染させていることです。つまり、誰が集団に感染させているかがわからないのです。飛沫感染対策としては人と人の間を1m〜2mを空けることが必要となります。

個人のレベルでは、①換気の悪い密閉空間、②人が密集、③近距離での会話や発声─の3つが重なる場所は、流行を拡大させないために、今後も自粛を呼びかける必要があるかもしれません。懇親会や、観客も声を出すような室内でのコンサートなどが対象になります。影響を受ける企業や自営業者も多いことが想定されています。一方で、個人レベルの飛沫感染対策として様々な取組がなされています。ネットでの懇親会や、マラソンを各自で走ってタイムを報告するといった取組があります。

国レベルでは、9日から、中国と韓国からの日本への訪問者を対象に厳しい措置(2週間の待機要請など)が実施されています。これも人同士の物理的な距離をとるためです。ただ、対象は中国と韓国だけでいいのでしょうか。保健医療体制の脆弱な国において流行は容易に拡大しますが、感染者数は明らかになりません。アジアにはそうした国がまだまだあります。これらの国は高齢者が比較的少なく、影響は日本より少ないかもしれません。鎖国のような状況は現代では通常は考えられませんが、こうした国との間の往来も制限が続くかもしれません。

高齢者に接する人の数や時間を減らしたり、高齢者は人混みを避けるようにとの呼びかけも対策として含まれるようになってきています。要は高齢者に触れる機会を減らすことで感染機会を減らす取組です。ただ、高齢者施設で高齢者に触れないことは難しいですし、家族の絆の分断にもつながります。

私達の人間関係や行動を変えることが新型コロナウイルス対策となります。変わらなければ影響を受けるのは重症化リスクの高い高齢者です。次に影響が出るのは、医療を必要とするすべての人です。

今後も、様々な場所で小規模な集団感染がぼやのように始まる可能性があります。次第に火事が広がれば、地域の「緊急事態宣言」のような形で社会活動を低下させて、人同士の距離をさらに空けるということが行われます。

物理的な距離をとる一方で、我々は個人で、地域で、国を超えて連帯しなければなりません。距離をとるというのは心理的にも影響が大きいです。しかし、関わりすらも減らすという意味ではなく、距離はとるが、関わりを減らしてはいけません。個人でも、地域でも、国でも。新しい価値観と前向きな行動で、今後長く続くであろうこの流行に対応して行かなければなりません。

(略)