盛者必衰。
オーミケンシが繊維事業撤退の報せを聞いて、過去に同社の糸に大変お世話になった思い出が蘇った。同社が盛者だったかどうかは別として、日本のレーヨンを大いに盛り上げてくれたことに違いはない。
会社がなくなるわけではないから、何をそんなに騒ぐ必要があるのか?と思う人はいるだろうけど、様々な方が既にネット上で書かれているように、国内レーヨン糸製造はダイワボウレーヨンとオーミケンシの二社しか無かった。
レーヨンと言えば、練り込みで様々な機能性を持たせることが出来るわけで、オーミケンシも備長炭や甲殻類など、いろんな物を混ぜて商品化していた。正直、機能系は備長炭しか使ったことないけど、一般的なスパンレーヨンといったら、僕の中では圧倒的にオーミのジェットホープだ。アクリルと言えば東邦のベスロン、1/48ウールと言えばニッケ、スパンレーヨンはレンチングではなくオーミのジェットホープだったのだ。銘柄が違うだけで、同じような商品は輸入糸も含めて選択肢はある。だから、オーミの商標だったもの以外は、別で代用ができるので何ら問題はないだろうけど、僕の中で一つ、わかりやすく時代が終わった感を感じたのである。
それほど浸透していない事実だろうから仕方ないにしても、少しだけ気にしておいた方がいいかもしれないのは、元々原料屋さんで城が建ったのに繊維事業を撤退するということの意味である。
先にも言ったように、輸入糸で代替えがきくから見通しとしては先細るだろうということが撤退の理由の一つにあると思われる。損切りは会社存続のためのポジティブな面もあるが、業界的には、わかりやすく『ちょっとヤバイかもね』っていうことを示してもいる。
以前から輸入原料で日本国内市場は先細っていたところに、今は特に諸外国各国とも国内を強めるために輸入も多少牽制されるだろうから、輸出で外貨を稼ぐことに対しても少し雲行きが怪しい。攻めれないし、様子見も危ねぇなってなれば、当然撤退も視野に入ってくる。
紡績が繊維事業を縮小しているのは珍しいことではないし、母体がデカくなりゃ変革を繰り返して脱皮していくのが成長する会社ってもんだから会社を悲観することはない。それができないでいるところの方がヤバイ。
経済のことを詳しく説明できるわけじゃないけど、貸借対照表の右下がプラスにならないような事業は、『義』だけ通しても食えない。誰だって同じような物なら、仕入れは安い物の方を選ぶ。そして高く売って生計を立てるのだ。諸外国に流れていった製造は、単純にそういう資本主義の原則原理からであって、決して一部の怠慢な製造業の方々がいうような「外国が仕事を奪った」わけじゃない。義理(もちろん大事だけど)だけで商売が続くなら、商いは鎖国時代みたいな状態になっちゃう。ある程度競争もあって、淘汰があって発展していくもんだろうから、弊社だっていつもその波に揉まれているわけだ。
もちろん、仕入れ先さんは大事にしている。作ってもらえなければ、売ることだってできないから。でも、経営状況を他社に依存するのは正直怖い。だから、お客さんはある程度新陳代謝してもいいと思う。僕だって付き合い長いお客さんも多いけど、新しいお客さんも定期的に増えてるし、古いお客さんでもウチよりいいところを見つけて乗り換える方だっていらっしゃる。それはそれで、誰を恨むでもない。その他社がウチ以上にお客さんにメリットを提供できるだけで、ウチではそこまで対応できなかったという事実だけだ。つまり、ずいぶん長いこと先細ってんなら、誰かのせいにしてる場合じゃねえんじゃねぇのって話である。
話が飛躍したけど、編み立て工場系は5-6月の生産予定が埋まっていないところが多いときく。これに引きずられて6-7で染色工場は暇になるだろう。その時期を乗り越えるくらい資金的に多少余裕があるなら、手元の作業が手薄なこの機会に、生き残りではなくて再繁栄を真剣に考えてみるのもいいんじゃないかなと思う。無責任なことは言えないし、何が正解かはわからないから、どうしたらいいなんてことは言えないんだけど。
僕の営業成績を一時期大変押し上げてくれた影の名プレーヤーの引退に少しノスタルジックなので、ビール一本では終わらなそうな夜である。