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私が好きなシーン(自萌え

2020.05.16 12:00

こんばんは! 性懲りもなくロボット三原則の話を考え始めてあっちとこっちでわーわーしてますサイジョーサイコです! 

追憶ステージ編の自萌えポイントいってみましょー! 


①こいねがう

 ――これ以上は、いけない。
 結衣子が強引に仲秋を押し込もうとすると、仲秋は慌てた様子で結衣子の手首を引き寄せ、語気を強めた。
「せめてあの浴衣を――っ!」
 間近に迫ったその時、色濃く匂う白檀に決意が揺らぎかけて結衣子は息を止める。
 それで表情が引き締まったせいか、仲秋が我に返ったように声を縮めた。
「……もらって、くれないだろうか――」
 縋るような。こいねがいでもするような眼差しだった。
 縄を持たないだけでこうも切なげな瞳になる。しかしこれも、彼の真の瞳だった。
 だめな人だ。本当に。こうしてまたひとつ、結衣子をうれしくさせてくれてしまう。
 だけど、
「先生」
 結衣子はあの日、あの部屋に置いてきたのだ。
「……私、過去を使われるのは嫌いです」
 好き、などと。
 そんな青い感情だなどと思いたくもなかった。もしもそうなら、この掴まれた手に胸を高鳴らせるだけでいいはずだ。なのに今は、胸を絞られるような心地がして仕方がなかった。

「先生の初恋は結衣子」と谷崎さんに言われ、大人のそれってなんだろうなぁと考えた時、若者の初恋よりもずーっと痛々しい気がしたのです。 大人の純情ってなんていうかつらくて痛い。 


②やきもきする

 それでも仲秋が、癖のない彼女を受け手に選んだ理由。
 プロ意識や清廉さ、要望にすぐに応えられる柔軟さ。だがそれよりも仲秋は、結衣子の影を追いかけたのではなかろうか。
 そう思い至ったのは、自分の身にも覚えがあったからだ。写真集を作ると決めた折、結衣子に似たモデルを使ったものの、結局違和感が拭えず本人を前にしたら衝動が堪えきれなくなった苦い思い出。
 瑠衣が引退することになった今、仲秋の前に、本人がまた現れたら。
 考えることは、瑛二とそう遠くはないだろう。だから先日、あんなことが起きた。結衣子自身も望んだかたちで。
 瑛二の視界の端で、結衣子が呑気に金平糖を摘んでいるのが見えた。瑛二がそちらを窺うと、結衣子の目は様子を観察しているようで、確実に仲秋を捉えているのがわかった。
 ――中学生かよ……。
 内心イライラしながら、瑛二はその視線を遮断するように動く。

結衣子と仲秋が関係していたことを知ってしまって一番気が気じゃないのはこの人、瑛二くん。

そりゃあそうです。苦労して断ち切った人ですから。なのに二人はなんだか満更でもない様子。

しかも妙に純情だから余計手に負えない。 ごめんね、損な役回りで……。 


③むちをふる

 泣きたくなるほど愛おしい。身を捧げたくなるほど慈しみたい。結衣子のしたいことを叶えてくれる彼が、心の底から慕わしくなる。
 迅を見た。諸手上げにしたのは、この時彼が見えるからだった。つらそうな顔になったところで結衣子は腰を上げ、また靴音を鳴らして彼から少し離れた。かがんだ結衣子が手にしたのは、縄でなく鞭だ。
 音楽を聴いた。ステージの端の方に立ち、音に合わせて床に一閃。鞭の遠心力は強く、深い風切り音のあとでずしりとした音がフロアに響く。
 もう一発。観客がびくりと肩を揺らした気配がした。
 空振りは焦らしだ。結衣子はたっぷりと緊張の糸を伸ばして鞭を構えた。
 ムードの切れ目。リズムのカウント。音の変わる最高潮に合わせ、迅の太もも目がけて打ち下ろす。

このステージのBGMにした曲が好きというそれだけなんですけどね。

結衣子のステージ初めて書きました。渡海くんにガンガンダメ出しするくらいだからそれらしいものにせねばと、まあまあ気負いました。


④あふれる

 もしもボンデージを着ていなかったら歯ぎしりをしていたことだろう。結衣子はふうっと息を吐いて、もう一度笑みを貼り付けた。
「先生を受け手にしたらよかったわ」
「そりゃ面白い。引退したらそれもできんがな」
「あら。まるで勝ち逃げされるみたい」
「何を言う。私など負け越しだよ。君が気づいていないだけだ」
 気づきたくもない。なによりそんな境地に、たどり着ける気もしなかった。
「あいにく私、今ほしいものがほしいんです」
 それが自分の首を絞めることになると知っていても。
 一礼してきびすを返し、結衣子はカウンターに向かう。稜が姿を認めて少し長く目が合った。ちょうど彼がグラスをシンクに置いた瞬間、
「来て」
 とその腕を強く引いた。
「結衣子さ――っ」
 たたらを踏む稜を連れてバックルームに繋がるカーテンをくぐり、裏手を目指した。迅と真琴の視線が追いかけてくるのも構わずそこを抜け、バックヤードに入ったところで立ち止まる。
「どうし――」
 振り向きざま、怪訝そうに問いかける稜の口に唇を押し付けた。
 吐きそうなほどに昂った感情のやりどころが、それ以外に見つけられない。そうしないと、呼吸すらもままならなくなりそうだった。 
~中略~
「俺たちは下手だね。愛し方も、愛され方も」

ステージ直後で気も昂ってた結衣子が、自分の発言ミスで思わぬやきもちと衝動に襲われる。咄嗟に縋ったのは夫の稜でした。仲秋が関わっているせいだと稜は知らないのが救い。

愛したあとは愛されたくなる。彼女はそのサイクルを繰り返してSとMとを同居させてます。でもってどっちも、下手なのです。


⑤あこがれ

 もしも弟子だと名乗れていたら、自分もこれらを着て同じステージに立てたかもしれない。並ぶ三人の黒大島をぼんやり見つめていると、自然と仲秋の長着に手が伸びていた。
 しゃりっとした冷たい手触りの中に、年季の入った風合いを感じる。くしゃっと握ってもシワも残らない。
 胴裏と八掛は、目の覚めるような深紅。鼻を近づけると、淡く白檀が香っている。
 これの着姿を最後に目にしたのは二年半前だ。仲秋の、雄々しくも粋を感じる風格の漂うさまを思い出し、結衣子は堪らず衣紋掛けから着物を外した。
 持った時は重たさを感じるのに、肩に羽織ると軽やかだ。表面は固い割に、そっと背後から抱かれたような感覚があった。袖を通して鏡に全身を映し、前を決めてみる。裄や身丈、身幅も合わないせいで不格好ではあるのだが、肌なじみのある艶黒なため、顔映りがよかった。
 なにより精神が引き締まる。
 ――これを着て縄を手繰れたら、どんなに誇らしい心地がするだろう。 

これ好きな子のリコーダーに咥えちゃうやつと一緒じゃん??? 

ってのはまあ、あれですけど。袖を通してみたくなるよねって思ったので、彼女に任せました。 

だって純情どうしよう、ハートは万華鏡。なのでもう駄目です。止まりません。 


⑥おもいで

 仲秋もまた、耐えている。飼い慣らすことのできない自身の衝動に。それがある以上、きっと彼はまた縄を取らずにいられなくなる。
 縛った縄は、ほどかねばならない。ほどいたそのあとからまた募る。
 真剣な顔で女の縄をほどいていく仲秋を見ていたら、結衣子は妙に嬉しくなった。
『……はじめまして。倉本結衣子、と、申します』
 ありきたりの挨拶をして緊縛師に近づいた二十五歳の娘は、ほんの少し変わった申し出をした。
『……私を、……縛ってくれませんか?』
 着ている服のほとんどを捨て去り、持っていたバニティバッグの中身を舞台にこぼした。
『ここにカンパが入るくらい、もう一度この場を魅せるショーにするとお約束します。得たものはすべて差し上げます。だから、私を縛ってもらえませんか?』
 彼の眼差しに真に捉えられたあの瞬間から始まった師弟関係を経て、今この城の主となった結衣子がいる。 

耐える仲秋の姿に、終わりにできないであろう業と欲の深さを感じ取る結衣子。 

ほどいたあとからまた募る。かつてステージ直後に仲秋に縛ってもらったことを回想した彼女は、そこに仲秋の隙を見つけてしまう。 

あああああ、爛れてます、爛れてますよこの子たち。 


⑦ずるい

「私は今夜を最後に退きますが、ここにいる弟子らの活躍を最後まで見守り続けたいと思います。それが縄を教えたものの務めだと思うから」
 また仲秋は結衣子を見た。
 結衣子にはそれだけで十分だった。
 二ヶ月。たった二ヶ月だ。はじまりもひどければ、おわりもひどいものだった。再会も連絡もなにもかも自分勝手で、弟子とすら名乗らないのに。
 本当は認められたいと思っていたことを、彼は知っているから。
 ――ずるい。 
「そして、私が育てた弟子らを、どうかよろしくお願いいたします」
 最後の最後でまで捕まった視線の先はもう、涙で滲んで見えなかった。
 ――ずるいわ先生……。
 友人として。そう固めたはずの決意を溶かして、仲秋はまた結衣子を救うようなことをする。
 仲秋が深々と頭を下げた瞬間、結衣子も身体を折って泣いた。師に向かって頭を下げるように、声を殺して唇を噛んで。
 この日一番の拍手がフロアに響く。その中に、結衣子のためのものはない。
 けれどこの瞬間に言ってもらえたことが、結衣子にとってはうれしかった。  

この辺は谷崎さんが先行して書いていたのですが、「ここにいる弟子ら」は最初「二人の弟子」でした。んで、私が「お願い!」ってして変えてもらったのです。この子が揺さぶられてくれますから。

そしたらまあ案の定。でも、いいシーンになってくれたと思うのですよ。 


⑧にらみあい

 もしかしたら、瑠衣がなにかしら話してもいるのかもしれない。結衣子を警戒する必要性を感じるだけのことを。
 道家の注意深く見据えるような目が結衣子を刺した時、彼の目が瞬時に柔らかいものになる。
「瑠衣から話を聞かされているから、初めてお会いした気がしない」
 苦笑交じりの物言いに、結衣子も合わせて笑みを浮かべた。
「あら。とんでもないことを言われていそう」
「先月仙台で結納を挙げたとき、あなたの話を聞かされました。自分にはない強さを持っている人だと」
「らしいわね」
「それでいかがでした?」
「主語をくださる?」 
「私のモナリザは、あなたのお目にかなったかな?」
 だからか、と結衣子は思った。彼が結衣子を用心するに足ることを、瑠衣は彼に話したようだ。
 彼女に厳しい課題を課した人間だから。
 彼にヒントを求めたか。それとも単に、今度は彼に甘えたか。しかしそれらも、真贋さえも、彼女なりの意地を見た今となってはどうでもいい話だ。結衣子は鼻で嗤って道家を見つめた。
「ご自分が見初めたモナリザの価値を、あなたは他人に委ねるの?」
 道家の目が細くなる。その眼差しは、広く視野を持っているようで、ただ一点に注がれているかのようだった。  

大好き。大好き。大好き。(何度でも言う

ウィットに富んだ会話シーンを作るの大好きです。とは言え私の思うウィットなのでウィットなのかわかりませんが、特に最後が最高に好き。 

ちな、結衣子はちゃんと瑠衣のこと認めてます。道家の押し付けがましさが気に入らなかっただけです。 


⑨おまえがほしい

 裸足がひた、とタイルを踏む。
 逃げるなら今だ。わかっているのに、結衣子の足は縛られてしまったかのように動こうとしない。そのあいだにも足音は迫り、結衣子はぎりっと奥歯を噛んだあと、意を決して声を発した。
「……せんせ――」
「結衣子」
 伸びてきた仲秋の手が、結衣子の肩を掴んで振り返らせた。
 取り落したシャワーヘッドがバスタブの中で暴れ、やがてそこから湯気が立ち昇ってくる。しかしそんなものが気にならないほど、焦げてざらついたひどく熱っぽい眼差しが素早く結衣子を射抜いた。
 両腕を掴む手の力が尋常じゃない。詰まりかけた息を吸って、結衣子は挑むように仲秋を睨めつける。
 呼吸を止めた。一分の隙も見せてはならないと本能が叫んでいる。
 汗で貼り付いた肌襦袢から蒸した白檀がむわっと薫ってきて、結衣子の目はますます厳しさを増す。
 膠着したまま永遠にも思えるような時間が数秒過ぎたころ、仲秋ははっと不敵に笑った。
「それがほしかった」 
~中略~
「『浮気うぐいす梅をば焦らし、わざととなりの桃に鳴く』」
「……っ!」
「お互いさまです。どちらも香りや蜜の味が違うし、私もあなたも貪欲だわ」

ここにきて先生の欲望が暴走して爆走してます。ステージ後だからね、しょうがない。結衣子もそうだった。

拒絶する割に思わせぶりに焦らすのも、私を見て、の悪いくせ。 


⑩もえさかる

「ほら、結衣子。いつまでも一人で泣こうとするんじゃないよ」
 溜め込んできた思いをここまで汲まれたところで、何も返せないと結衣子は思った。身体に刻めるような覚悟もなければ、受け継ごうという心意気だってない。
 ――私は私しか持ってないのに。
「たまにはおとなしく人の胸を借りなさい」
 服に涙が落ちる音を聴いた途端、意地が崩れ去った。蔓のように伸びてきた仲秋の腕に抱かれ、白檀の濃く香る胸に、しなだれかかるようにしがみつく。
 舌っ足らずな声で、「ありがとう」とも、「うれしい」とも「やだ」とも言った。そのすべてを受け止めてくれる存在のあたたかさが、ひどく懐かしい。自身を全部放り出していられたころを思い出すだけで、頭がくらむほどの熱さを覚えた。 
~中略~
 稜に鎮めてもらうのとは違うものがそこにある。だけどそれに身を委ねることは、許されない。  浅く触れ合っていた唇が離れようとしたが、結衣子は深く息を吸ってそれを追い、自ら唇を押し付けた。
 仲秋の呼吸がわずかに乱れた。食むように顎を動かした瞬間、仲秋に舐められた指に残ったぐずぐずの和三盆の甘さを思い出した。
 誘われた仲秋の舌先が唇を叩く。しかし結衣子は、リップ音をわざとらしく立てて顔を離した。  二人のあいだで定めたセーフサインだ。
 彼の身体が強ばったその隙に、結衣子は身を捩って距離を取る。そして手の甲で乱暴に、頬の涙を拭った。 

あー、やっちゃったー、って思いましたね。着物もキスも抱擁も。 

着物を贈る話は谷崎さんと相談していて、あれもこれも先生ならやる、絶対結衣子を落としにくる、と意見が合致しました。そしたらものすごいことになってしまった。金額的な意味で。

そしてなんだかやたらと切ないシーンにもなってしまった。 


⑪あいしちゃう

「稜……、お前聞けよ。旦那だろ。聞く権利あんだろうが」
「うん。でもやっぱり、今じゃないんだと思う。だってまさに今揺らいでるところだ」
「揺らぐって……」
 諦めすら漂う口振りに、瑛二は慌てて稜の肩を掴んで自分の方を向かせた。
「そんなんおかしいだろ!? あいつはそれでもお前を選んで――」
「うん、でも彼女にとっては別なんだよ。瑛二さんならわかるでしょ。違うように愛されたら、違うように愛しちゃう人なんだ」
 稜の口調は穏やかながら、溜めていたものを吐き出すような勢いがあった。  

稜は本当に寛大ですね。結衣子は黙したままで、それでも彼は理解だけはできちゃって。こうして話せる瑛二がいるのが救いです。 


ステージ編も自萌えがいっぱいありますが、きりがないのでこんなところで。

とにかく結衣子がぐらぐらした回でしたね。我慢が苦手な彼女がそれはもう健気に耐えてます。それはひとえに稜がいるから。 

そんな彼女を描きながら私は、「もっと傷ついておいで」と思うのです。


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彼女の言動、共感はされないと思います。賛同なんてもってのほかでしょう。 

だけどそうやって生きる子も、多分いるのです。 

さ、お次は谷崎さんの追憶萌えです。このステージ編、たくさん吐血していらっしゃったので楽しみですw