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私が好きなシーン(追憶

2020.05.17 12:00

こんばんは、現時点(5/17)でようやく一息ついてるとはいえ、この記事が公開されるときは死人になっているかもしれません。

というのも、渡海とルイのステージの前に二山残っているからです。そして今日、夫氏がいるので(書いてるのが日曜日w)ちまちまとしか原稿書けないw

18日の週に公開する分はほぼほぼできているので、わたしも西条さんも最後の追い込みに入ります。

がんばります、生きます、最終話を仕上げるまでは!!


ということで、今日は追憶リハ→ステージ→打ち上げまでをご紹介。


➀女王様の最後の試練

シーンというか、この章のタイトルで吐血しました。


➁縄の縁

「おお、そりゃあいい。それに八の字結び(エイトノット)というわけか」
「はい。一度結んだらほどけない。無限の縁と命を繋ぐんです」
  麻縄の端の処理に施す結び方の名前。登山や船舶で命綱として使われるそれを、結衣子は店名にした。
 たかが癖、されど癖。それを吐露する場所があるだけで救われる人間がいる。
 自身の名前とももちろん掛けたが、横に倒せば8はインフィニティだ。縁を結び、無限に繋ぐ。
「先生のステージ、楽しみにしてますよ。たくさんの縄の縁が繋がっているのですからね」

女王のレッスンでも登場した「縄の縁」「縄が繋ぐ縁」

その言葉がずっと頭に残っていて、今回のコラボでも随所に登場しています。

渡海の兄弟子であるレオンが受け手であった最愛の妻を失い、縄を手放そうとしたとき、仲秋は「縄の縁を繋げ」と命じます。酷な言葉だなと思いますが、縄を手放していたら、レオンはずっと妻を失った喪失感の囚われたままだったはず。レオンにとって、縄は救いだったんです。

そういえば、結衣子も縄で救われましたね。渡海くんは縄で救われるのでしょうか・・・。


➂お返し

 結衣子はほうじ茶で口直しをして、テーブルの中央にある桜の和三盆を、袖を引きながら摘み上げた。
 ふいに伸びてきた仲秋の手が、その腕を掴んで引く。結衣子がハッとした瞬間、視線が捉えられた。
 仲秋がふっと笑みをもらし、桜を摘むその指を自らの口に運ぼうとする。結衣子は腕を強ばらせたが、力強い手はびくともしない。
 食われる、と息を飲んだ時、仲秋がはたと止まった。彼の視線は結衣子の腕に落ちていた。
 結衣子もゆっくりと目を下げる。そこには執拗なまでに縄目の揃った綺麗な赤い縄痕が、蛇のように絡みついている。
「私の、ではないな」
 それをまじまじと見た仲秋が鋭い声で言い放った。
「ええ。稜くんが」
 返す刀で毅然とした表情と態度を結衣子は彼に向ける。
 仲秋は結衣子の腕を掴んだまま、心配そうとも寂しそうとも取れる顔で結衣子を見た。結衣子はねめつけるような薄笑みを浮かべ、続けた。
「私をわかって、叱ってくれる人なの。あの日私が望んだことも、全部わかってくれてました。その上で彼は止めなかった。官能的で綺麗だったとすら言ったわ。帰ってからは、大変でしたけど」
「っ――」
「今日のことも言ってあります。お陰でこの有様ですけどね。私は今も、愛されてるか確認する子どもみたい」
 苦笑してみたが、仲秋はひとかけらも笑わなった。代わりに結衣子が摘む桜を指ごと口に含み、ぐっと噛む。
 尖った舌を指先に感じて、結衣子は奥歯に力を入れた。湿り気を帯びて和三盆がしゅうっと溶けていく。仲秋の舌がそれを舐め取るように、緩慢な動きで前後する。
「あの日、私は嬉しかったです。先生がご自身をさらけ出すほどの本気を縄で味わえて。私をずぅっと見ててくれて」
 結衣子は脚を強ばらせながらも、気を振り絞って微笑んだ。
 仲秋は、溶けきってなにもなくなった結衣子の指先を、口の中からぬるりと追い出し、にやっと笑った。
「お返しだ」 
 意図せずほっとする。それと同時に、食べそびれたことを少しだけ恨みがましく思う。
 ようやく解放されて自分のもとに戻ってきた指を、結衣子は見せつけるようにれろりと舐めた。生ぬるく残る上品な甘さを堪能していると、仲秋の目がすがめられ、それをじっと追いかけてくる。
「そうこなくちゃつまらないわ」
 毒気を抜いてふふっ、と結衣子がこぼすと、仲秋もつられるようにくつくつと笑った。

仲秋邸で結衣子は仲秋の指を噛んで煽りました。そのお返し。

本筋は最初からできていたんですが、書いている最中ああしたらどうだろう、こうしたらどうだろうと西条さんと話し合ってきました。結衣子の指を掴んで舐めるというのは、確かわたしが言い出したのかな(記憶にない)

それを西条さんはこんな素敵な、ハラハラするようなシーンに仕上げてくれました。しかもこの後のタピオカ・・・。先生、タピる・・・。そこでほっこりしますが、その後のシーンがまた切ない。


➃もしや・・・(もやしではない

「いずれにしても、物の用意は必要だ。いつまでも仮のままじゃ、レディ結衣子にも申し訳ない」
 いざ仲秋の口から結衣子の名前が出ると、瑛二の背筋に緊張が走る。
 このまま駄目になってくれたら、いっそ都合はいい。これ以上仲秋と結衣子が関わらずに済む。だがこの口ぶりから察するに、仲秋は弟子を信じているようだ。
 それに瑛二も、渡海が乗り越えるのを見届けてみたい。せっかくここまで付き合ったのだ。この際8 Knotでやらずとも構わなかった。

この辺りを見て、私が思ったのは。

「瑛二、もしや君、渡海にかつての自分を重ねていたりする?」でした。

仲秋邸で瑛二は渡海に結衣子とのことを打ち明けます。どんな男のもとへ行っても必ず彼女は戻ってくるという優越感や、彼女に対して抱いてしまった情に雁字搦めになっていた頃の自分と、渡海の姿が重なって見えたから、そうしたのは言うまでもありません。

だから、そんな気持ちになったんじゃないか、と・・・。西条さんには答え合わせをしていませんのでわかりませんが、わたしはそう感じて吐血しました。


➄パートナー

「浴衣、どうするの? 先生のところに置いてきたままじゃない」 
 ふいに稜からの鋭い視線が結衣子を刺した。
 欲望、嫉妬、情愛、冷徹。数多の言外の意味を含んでいるような双眸だった。
 浴衣は仲秋の屋敷に置いていったまま。恐らく既にクリーニングも済んで、彼の手元にあるだろう。だが、仲秋と銀座をそぞろ歩いたあと、その旨の連絡は一切していなかった。
「……一連のイベントが落ち着いたら、一緒にもらいに行きましょうか」
 ぽつっと結衣子が呟くと、稜は驚いたように目を少し大きくさせたあと、くくっと喉を鳴らして笑った。 
「そうだね。それがいい」
「やだ。なんで笑うの」
「なんでも。少しは周りが見えてきたのかなって思って」

このシーン好きです。稜が結衣子の側に居続けるために相当な努力をしてきたことは、女王シリーズを読んだ方なら分かっていると思います。どうしてそこまでして側にいるん?と何度もわたしは思いましたが、彼の決意は揺らがなかった。ゆえに苦しみもがいていた頃に(瑛二も)遥香がやってきて、誰にも言えないことを彼女に少しずつ打ち明けながら彼なりに考えたと思うんです。

それでも選んだ。その覚悟の裏には、影のメンターとなる覚悟もあったんじゃないか、と思わせるシーン。仲秋邸で渡海に言った言葉の重みを感じました。


➅まるごと受け止める

「迅くん、緊張してない?」
「してても平気です。結衣子さんの縄、不安とかそういうの全部忘れさせてくれるんだもん」
 きれいに整った子犬のような顔で結衣子を仰ぎ見てくる迅に、結衣子はもう一度深く抱き寄せる。焦げ茶色の猫っ毛をくしゃりと撫で、そのまま額をこつんと合わせたところで、稜のアナウンスが流れてきた。

ミストレスであるとはいえ、結衣子自身の本質はマゾヒスト。苦悩を抱え孤立し絶望していた彼女は、緊縛師でありサディストである瑛二と出会い救われたわけです。このシーンを見て、女王の中での一シーンを思い出しました。男縄会で語られた、遥香の前で瑛二が結衣子を縛り、その結衣子が過去語りをする場面です。

「それでもいいって言ってくれる人がいる」長く孤独だった彼女にとっては、受け止められることが嬉しかった。それを誰かに教えたくて8Knotという城を築いたわけです。


➆サディストはマゾヒストの奴隷

 吊り縄を一度留めて腰縄をかけた。チューブシースに収まった彼の股間がぴくりと動き、ラテックスの中で盛り上がっていく。
「いけない子……」
 耳元で囁き、触れそうで触れられぬところで、結衣子は指で強く弾く真似をしながら音を鳴らした。彼のそこがまた力を得て、生き物のように跳ねた。
「あ……ぁ……っ!」
 顕著な反応が嬉しくなる。結衣子の内からあふれてきた加虐的な衝動と情愛が、もう一本縄を継ぎ足すよう促してきた。
「ここも縛ってあげたほうがいいかしら」 
 そうしてほしいと言わんばかりに彼の首が縦に振られ、結衣子は望みを叶えるべく、手にした新たな縄を床に叩きつけてほどいた。

サディストはマゾヒストの奴隷です。その一言に尽きます。


⑧痛みの意味

「……ごめんなさい」  
「別に責めてないって。アンバランスなのは知ってるよ。愛したあとは愛されたくなるんだもんね」
 ふ、と柔らかにもれた彼の息に、結衣子の中で安堵が広がるのを感じた。 
わかってくれる人がいるというだけで、衝動的でささくれ立った感情が少しずつ落ち着きを取り戻していく。しかし同時に、求めていたのはこのぬくもりかと自問する。
 本当に、バランスが悪い。愛したくて、愛されたくて、結局今も変わらずもがいている。
「結衣子さん」
 穏やかな稜の声に顔を上げると、結衣子の背を抱いていた彼の手が、突然胸の膨らみに伸びてきた。
「え……」
「ほんと、下手だ」
 ひとりごちるような声とともに、谷間まで深く切り込まれたラバーの中から乳房をまろび出される。
「や……っ!」
 短い叫びが結衣子の胸元に埋まった頭に吸い込まれた。
 豊かなそこに立てられた歯が、肉に深々と立てられる。鋭く走った痛みに結衣子が脚をばたつかせても、その力が弱まることはなかった。
「い、たっ……、りょ、……く……っ!」
 ――痕が。  そう思うのに、強く拒絶することもままならず、結衣子は喉を仰け反らせる。
 やがて小さなリップ音を立てて離れたその場所に、赤く腫れたように残る歯型が刻まれた。ずきずきとした痛みが胸全体に広がっていくのを感じながら、結衣子は疑問符を浮かべて稜を見る。
「……俺たちは下手だね。愛し方も、愛され方も」
 稜は苦しげにそう告げて、戸惑う結衣子に困ったように笑った。

乳蜜で稜が抱えているものを書いた後だけに、ここは吐血しました。切なくて。

結衣子に対する稜の言動はまさに飴と鞭、立派なサディストです。

蛇で書きましたが、縄酔いの最中ぎりっと縄を絞られて一時的に現実に戻るようですが、その後また深く酔うケースが多い、とか。それと稜の飴と鞭がピタリと重なりました。


➈白大島を着た理由

 稜の申し出を断り、結衣子はそれを指示通りバックルームへ持っていった。
 そこには仲秋の黒い大島紬の長着と羽織、瑠衣の白い単衣、渡海とレオンが着るであろう黒大島に、濃いベージュと江戸鼠の羽織が、すでに衣紋掛けに掛かっている。テーブルには編笠と、縄を始めとする小物が置いてあった。
~中略~
――これを着て縄を手繰れたら、どんなに誇らしい心地がするだろう。
 しかし途端に気恥ずかしくなって結衣子ははっと我に返り、そそくさと着物を脱いで、衣紋掛けに戻した。湿っぽいため息が、衿を閉じる手元に吹きかかった。
 仲秋の黒大島の羽織に目をやれば、その裏に紅白の牡丹が描かれているのが見えた。それもまた結衣子の気分をくさくさとさせた。  
自身の衣装を白大島にしたのは、彼らを引き立てたいのもあったが、あの縄を学び継承している自負を結衣子が覚えているからだ。  瑛二とともにあることを諦めた時もこうだった。理解が先にきて、納得が追いつかなくて、無理やり思い込んでもまだどこか縋って。

大島紬といえば黒ですが、白や赤もあります。その話を西条さんと話していたときに、この日結衣子が着る着物が決まり、そして仲秋が結衣子に贈る着物が決まった、と思う(うろ覚え

私事ですが、母親が着物を売る仕事をしていたので、家にはたくさんの着物がありました。引っ越しのときに大島や白大島、色大島を見せられたとき、西陣のように華美でないのに存在感がすごかったのを今でも覚えています。

西条さんが着物に詳しかったこともあり、総柄の浴衣(特注)といいこの後に贈られる色大島や西陣の帯といい一体いくら結衣子につぎ込んだのかという話しになりましたが「創作だから考えないようにしよう」と・・・。


⑩仲秋のステージ

 白檀の香の小さな灯火から細い煙が揺らぐ。豆行灯の火に忍ばせたアロマオイルも手伝って、フロアには蠱惑的な匂いがじっと沈んでいた。
~中略~
 ――「罪人」ね……。
 仲秋のお気に入りである伊藤晴雨の責め絵だ。仲秋の書斎で、研究するのに何度も見た。  絵を真似てそれらしく寝転べば、縄を得た仲秋がそれらしく縛る。どういうふうに縛ればその形になるのかを議論したあとは、まるで服の代わりのように、仲秋は結衣子にそれらしい罪を着せた。
 ――懐かしい。
~中略~
 意志なきモナリザのようにただ守られ飾られて、縄に寄りかかっていた瑠衣はもうそこにはいない。呼び覚ました意地とプライドを糧に縄を受ける、立派な受け手であり演者だった。
 多かれ少なかれ貢献はできただろう。嬉しくもあり、悔しくもある。結衣子にはできないことができる彼女を、羨ましく思う。
~中略~
 初めて仲秋のこの逆海老を見たとき、まるで天女が舞い降りてきたかのように思ったことを、結衣子は思い出す。その天女に連れて行かれることを、望んでいるような仲秋の姿。
 彼もまた長年、縄に救いを求め、縄に救われてきた人間だ。
 それが今日終わってしまったら、彼はこの先、一体何に救いを求めるのだろう。縄をなくして彼は、果たして息ができるのだろうか。
~中略~
 静謐な低音が主旋律を引き立たせ始めた中で、仲秋が床に膝をつき、左脚だけで吊されている女の顔をのぞき込む。
 苦しげに、もどかしそうに。しかし最後であることを惜しむような表情とも違った。それに気づいた時、泣きそうになっていた結衣子の頬が、わずかに綻んだ。
 仲秋もまた、耐えている。飼い慣らすことのできない自身の衝動に。それがある以上、きっと彼はまた縄を取らずにいられなくなる。
 縛った縄は、ほどかねばならない。ほどいたそのあとからまた募る。
 真剣な顔で女の縄をほどいていく仲秋を見ていたら、結衣子は妙に嬉しくなった。
~中略~
「本日はお忙しいところ、わざわざ足を運んでいただきありがとうございました」
 そう切り出した仲秋は、観客に向かって頭を深々と下げた。
「そして、わたしのわがままを聞いてくれたレディ結衣子と、この店のスタッフたちにもお礼を申し上げる。お陰で素晴らしい幕引きができた。これでもう思い残すことはない。あとは」
 ふいに結衣子の視線が、わずかなあいだ仲秋の熱い眼差しに捕まった。
「ここにいる弟子らに任せてゆっくりできる」
 一度逸らされた目が、両側の二人にそれぞれ注がれ、結衣子は息が止まっていたことに気づく。  偶然だ。そう思うのに、ふつっと湧いてしまった期待を胸に仲秋を見つめる。と、
「私は今夜を最後に退きますが、ここにいる弟子らの活躍を最後まで見守り続けたいと思います。それが縄を教えたものの務めだと思うから」
 また仲秋は結衣子を見た。
 結衣子にはそれだけで十分だった。
 二ヶ月。たった二ヶ月だ。はじまりもひどければ、おわりもひどいものだった。再会も連絡もなにもかも自分勝手で、弟子とすら名乗らないのに。
 本当は認められたいと思っていたことを、彼は知っているから。
 ――ずるい。 
「そして、私が育てた弟子らを、どうかよろしくお願いいたします」
 最後の最後でまで捕まった視線の先はもう、涙で滲んで見えなかった。
 ――ずるいわ先生……。
 友人として。そう固めたはずの決意を溶かして、仲秋はまた結衣子を救うようなことをする。
 仲秋が深々と頭を下げた瞬間、結衣子も身体を折って泣いた。師に向かって頭を下げるように、声を殺して唇を噛んで。
 この日一番の拍手がフロアに響く。その中に、結衣子のためのものはない。
 けれどこの瞬間に言ってもらえたことが、結衣子にとってはうれしかった。

ここは全部好きですね、吐血しすぎて大変でした。

まず、西条さんの言葉選びのセンスで吐血しますし、仲秋のステージを見てこれまでのことを振り返る結衣子の心情に吐血します。

過去を振り返るときって、そのときの自分の未熟さも思い出してしまいます。そして遠いところに来てしまったような気がしたり、過ぎた時間を痛感するものではないでしょうか。


⑪康孝が・・・が・・・

「すみません、彼女を連れて帰りたいのですが……」
「はい。稜くん、裏にタクシー呼んでもらえる? 瑠衣ちゃんが帰るわ」
 了解を告げて子機を手にした稜を横目に、結衣子は彼を向いた。
 懐から名刺入れを取り出し一枚提示する。
「オーナーの倉本結衣子です」
「お店のオーナーでしたか。どおりで……。ああ、申し遅れました。道家康孝どうけやすたかと申します。瑠衣の婚約者です」
~中略~
 柔和な顔に不釣り合いな言葉の毒。この毒を、獲物(かのじょ)は知っているのだろうか。
 ピリピリとした睨み合いのさなか、我関せずを装った稜が子機をこん、とカウンターに置いた。

仲秋のステージ後、康孝と結衣子が交わす会話は「彼ら」だからできたこと。

お互い探り合っているのがよく分かる会話ですね、はい。

西条さんが蛇を読んでいたこともあり、康孝の雰囲気がびっしびし伝わる・・・ありがとう西条さん・・・。


⑫先生、動く

 裸足がひた、とタイルを踏む。
 逃げるなら今だ。わかっているのに、結衣子の足は縛られてしまったかのように動こうとしない。そのあいだにも足音は迫る。結衣子はぎりっと奥歯を噛んだあと、意を決して声を発した。
「……せんせ――」
「結衣子」
 伸びてきた仲秋の手が、結衣子の肩を掴んで振り返らせた。
 取り落したシャワーヘッドがバスタブの中で暴れ、やがてそこから湯気が立ち昇ってくる。しかしそんなものが気にならないほど、焦げてざらついたひどく熱っぽい眼差しが素早く結衣子を射抜いた。
ステージで耐えた反動ですね・・・。

そして結衣子はぐらっぐらぐらぐら(吐血


⑬お耳がピン

「まさか、見合いで結婚相手を決めるとはなあ」
 興味深い話題に耳が二倍の大きさになった錯覚を得る。
 運命と道家は言ったが、先ほどの瑠衣の話では三年前から知っているとのことだった。早くもどこか、胡散臭さを感じてしまう。
「きっかけはそれでしたけど、いろいろ。散々迷いもしましたが、結婚してステージを降りる決意もできました。それに、彼の仕事に興味も湧きましたし」

打ち上げの始まりの際、ルイはうっかり口を滑らせました。隠すべきことではないのですが、かといって先生にはその話をあえてしない。この後に語られる結衣子の康孝の考察がまたすごい。


⑭手作りには敵いません

「いらなければ、引き取ります。だからその色にしたし――」
「いらないものか、なんて奇遇だ」
 仲秋が勢いよく言葉尻を奪って身を乗り出した。気圧されてなにが奇遇か尋ねる間もなく結衣子は喉を詰まらせたが、やがて肩の力を抜き、淡い笑みを仲秋に向ける。と、仲秋が居住まいを正して頭を下げた。
「いただくよ、ありがとう。これほどのものをもらってしまうと私の贈り物など霞んでしまいそうだ」
「言い過ぎです。だってそれ、あの浴衣ですよね?」

打ち上げの際、結衣子は仲秋に「深紅の地に生成りの糸を編み込んだ、丸打ちの江戸組紐の羽織紐」を贈りました。そして仲秋は自らが着ていた黒大島を仕立て直したものと、もう一枚(というかセット)を結衣子に贈ります。

身も蓋もないですが、ざっと試算すると、この日仲秋が用意したもものの総額は100万円以上・・・。


⑮先生の残念さ

 誘われた仲秋の舌先が唇を叩く。しかし結衣子は、リップ音をわざとらしく立てて顔を離した。
 二人のあいだで定めたセーフサインだ。
 彼の身体が強ばったその隙に、結衣子は身を捩って距離を取る。そして手の甲で乱暴に、頬の涙を拭った。
「待て、です。せんせ」
 用意していた冷たい声を放つと、仲秋は打ちひしがれたような顔になった。
 心苦しさが胸中に渦巻いて、結衣子の表情も曇っていく。仕方なく瞼を閉じ、ゆっくりと首を横に振った。
「……結衣子――」
「不審がられます。戻ってください。私、お化粧直してきますから」
「だが……」
「鳴かぬ蛍です」
 ワンピースのポケットに手を突っ込んで、白のハンカチを結衣子は手にした。
 仲秋の頬に触れ、唇に移してしまった不自然な色を目がけて布を強く押し当てる。ゆっくりと剥がしたそこには、薄い紅が唇の模様を描いていた。
 結衣子が苦笑しながらそれを仲秋に見せると、彼もああ、と気恥ずかしそうに笑う。 
 結衣子はもう一度ハンカチに視線を落とし、そこに描かれた唇に惜しむように口づけた。仲秋がはっと息を吸ったのが聞こえた。
「身を焦がす痛みは、お嫌いじゃないでしょう?」

ここ、先生の残念さをしっかり書いてる場面だと思います。そして結衣子の弱さも。

ぐらっぐらに揺れているのに、彼女はそれを見せようとしない。一瞬でも隙を見せたら負けだと思っているからです。

先生は狡いですよね。乳蜜では随分師匠ぶっていますが、渡海をダシにしているだけのように思えてしまう。

でも、そうではなかったら?一度は手放した情に火がついてしまい、気づいたときにはコントロールできないまでのものになっていた、としたら?

と考えると、吐血します。妄想が滾ります、はい。


⑯恋とはなんぞや

「『先生のこと好き?』……って。先生と焼き印のオーダーをしに行くっていう前の日に」
 一気に核心を突くセリフに、瑛二の鼓動が跳ねた。この調子で言われたら、誤魔化せるものも誤魔化せなくなりそうだ。 
「……返事は?」
「答えるわけないじゃない。目ぇまんまるにして、なんで聞かれたかわかんないような顔してたよ」

結衣子は恋を知りません。(たぶん

結衣子の過去を振り返ると恋を経て繋がった相手がいないことに気づくと思います。


⑰黒大島の意味

「ああ、彼女が泣いたのはむしろこっちかな」
 はっ、と虚無感のある笑いが聞こえて、瑛二は顔を上げる。稜の手は、結衣子が着そうにもない黒の着物の上に置かれている。
「そっちはどんだけすげえもんなんだ」
「黒大島。そっちの赤と同じ紬だけど、多分意味は全然違う」
「意味?」
 稜が敢然と頷いて、挑むような眼差しを瑛二に向けてきた。
「ステージ前日、結衣子さんと一緒に着物をここに出してたんだけどね、三人分の大島紬があったんだ。先生と渡海さんとレオンさんが着てたやつ」
「ああ、黒の揃いの」
「俺、どうしてこの着物なのか彼女に聞いた。『舞台に上がる勝負服』なんだって。『だから弟子にも、同じものを贈ったんでしょうね』って」
 稜の表情が、まるでそうするしかないというふうに歪んだ笑みを浮かべた。
「彼女、黒大島は一枚も持ってない」

稜と瑛二がここで気づきます。

そして男縄会で答え合わせをさりげなくする・・・。


リハーサル・ステージ・打ち上げと色々ありました。そして吐血しまくりました。

さて、ここまでは結衣子におされ続けて来ましたが、月曜からは渡海が頑張ります(多分

今日の段階で5/22更新分までは書いてますが、その後五話くらいある・・・(え

明日月曜から頑張って仕上げます、はい・・・


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谷崎文音拝