私が好きなシーン(乳蜜
こんばんは! サイジョーサイコです!
明日から更新再開でございますが、まだまだ書かねばならないことがたくさん……。ああ、なんでこんなことに。まあいいですけど。
終わった暁には、谷崎さんと私で打ち上げ&トークキャスとかできたらいいなぁなんて話もしてます。
それでは今夜も張り切って、ステージ編の乳蜜萌え、まいります!
①どんなものを作る?
「先生がわたしと一緒に、どんなものを作りたいのか聞いてたの」
「は?」
「だって、お客さんに何を見せたいかが分からないと、ただ縛られて終わりだもの。それだったら、別にわたしでなくてもいいんだし」
うん、うん、って頷いてました。そうこなくっちゃと。
②このときを忘れたくない
「この瞬間を覚えておきたい、か……」
「そうよ。忘れたくないって、思った」
それまで向かいにいた歩が、座ったまますぐ隣にやって来た。
「どうした?」
そのときのことを思い出し、側に来たのは分かっているが、言葉で確かめたかった。
渡海が尋ねると、歩は脇に置いた縄を手に取った。渡海の右手に自分の左手を重ね、二人の手首に縄を回す。その様子を見ているうちに、ドイツへ発つ前の夜のことが頭に浮かんだ。
「これをやったときもそうだったわ」
「え?」
「このときをわたしは絶対に忘れたくない、って思ったの」
歩は縄で縛った二人の腕を持ち上げて、優しくほほ笑んだ。
縛りは一期一会だ。また同じような状況で縛れるかどうか分からない。それに、縛られている方だって同じように縛られるかどうか分からない。仲秋からそう学んだはずなのに、いつの間にか失念していたことに渡海は今更気がついた。
この二人好き、癒やしです。
縛りは一期一会ってまさにそれで、同じって絶対にないのですよね。
一個一個気づいていく渡海くんもまたよし。
③ぎしんあんき
「ここで先生のステージの打ち上げをしようと思ってるの」
「はあ……」
「それでね、そろそろ先生のお誕生日でしょう?」
「……そうですね」
「そのときパーティーをしたいんだけど、どう?」
結衣子が話し終えると、渡海は怪訝な顔を彼女に向けた。
何を企んでいる。その言葉が喉元まで出かかったけれど、ぐっと押さえ込む。
結衣子の意図が見えずどうしたものか返事に困っていると、隣にいたレオンが口を挟んできた。
「それ、いいな。やろう。ミストレス ユイコ」
どら焼きを片手に持ったレオンが結衣子に笑みを向けると、彼女は嬉しそうな顔でぱんっと手を叩いた。
「話がわかるわレオンくん! 誰かさんと大違いね」
「俺は別に反対してるわけじゃ……」
「あらぁ、こーんな顔を私に向けたのは誰かしらぁ」
ぶすっとした顔で否定すると、結衣子がしかめっ面を向けてきた。
それを見たのだろう。レオンが突然吹き出した。
「ミストレス、すまない。こいつは昔から頑固でね……」
どんだけ苦手なん……と、ついつい苦笑したくなるワンシーン。そんなにいつもいつも何か企んでないよ!
渡海くんの頑固さは、兄弟子からしても折り紙つきのようです。
④学びの場
「縄で遊ぶ、か……」
遥香が淹れた茶を一口含んだあと、仲秋はつぶやいた。
「お前も遊べばいいのに」
師から笑みを向けられたが、渡海は返事をしなかった。
「学びの場は何も稽古場だけではないぞ、マサキ」
苦笑している姿が浮かぶような声だった。
君はどうしてそんなにも頑ななんだね!!!!
先生がおっしゃっているではないか!!!!
本気の縄もあれば遊びの縄もある。日常もこういうちょっとした機会も、本来学びであふれてます。それにしても彼らの縄会、楽しそうでいいな。
⑤自由とは責任
「ただ縛るだけなのに、どうして?」
隣にいる遥香に目をやると、彼女は洗い物をしている手をピタリと止めた。
「ただ縛るだけじゃない、って気づいてしまったからです」
「それは、どういう……」
尋ねると、遥香と目が合った。
「初めて縄を持ったとき、あんな軽いのに重さを感じたんです。それを瑛二さんに言ったら、『それでいい』って。『その縄で人間は死ねるんだ』って。その時は物理的なことかと思った。けど、それだけじゃなかった。縄は、使い方を間違えたら、心が死んでしまうんだって」
「心が死ぬ?」
~中略~
「目の前にいる人を縛るって行為は自由を奪うこと。相手の全てに責任を負うこと。過去も現在も未来も含めて。恋人を縛ろうとしていたときのわたしは、それを分かっていなかった」
この辺、女王を読み返しながら私も一緒に作ったシーンでした。
結衣子でも瑛二でも稜でもない、遥香じゃないと言えない言葉を探したとき、瑛二のもとで縄を覚え、結局縛れなくて泣きつきにいった、あの時のことがまっさきに浮かびました。
彼女には、縄を握った体感覚やそこで覚えた悔しさがしっかりとあります。だから渡海にそれを語る意味も大きいのかな。
⑥粗末にするな
「さっき、わたしが言ったことを忘れたのか。なら、もう一度言ってやる。ルイのことは頭から離して考えろ。縛ろうとする相手と縄でどんな縁を築きたいのかを。レディ結衣子のように心酔させるか、瑛二くんのように綺麗にするか、稜のように乱すか、ルカのように解放するか。その意思が縄や縛りに籠もるものだから」
「そういったものが元々ないから、幾ら考えても何も浮かびません」
なかばやけっぱちのように返事をすると、仲秋から真剣な目を向けられた。
「それは、お前が過去に囚われたままだから浮かばないだけだ。前を見て考え続ければ、おのずと道は見えてくる。わたしが師匠のもとで縄を学んだときのように」
仲秋は真顔で言ったあと、膝の上に置いていた手に大きな手を乗せた。長年縄を握り続けたせいだろう。硬い手のひらが甲に触れた。
「この手を粗末にするんじゃない」
痛くなるほど強い力で手を握られた。
手を尽くし、言葉を尽くしてもなかなか動かない渡海。先生ももどかしいだろうなあとつくづく思います。
それでも見放さない先生は気が長い。まさに聖人君子。裏では爛れまくってますけどもね。
⑦いくら疎い渡海でも
ヨナスといえば、真っ白なバラの花束を手にしたままフロアで接客している結衣子をしきりに気にしているようだった。それが何を意味しているのかピンときて、渡海はヨハナと苦笑を交わしたあと、わざと顔を呆れさせる。
「ヨナス。何見てんだ」
声を掛けると、ヨナスは澄ました顔で問いかけてきた。
「彼女、ルイの姉か?」
「いや、違う。全くの他人だ」
「そうか。で、独身か?」
違う、と言いかけたが、渡海は言葉を飲み込んだ。
いくら疎い渡海でも、結衣子が既婚者であることを店で言うのは躊躇われた。その代わり、ヨナスの側に寄り耳打ちする。
「残念だが違う。旦那はカウンターの中にいる。それにお前の手に負えるような女じゃない。諦めろ」
すると、ヨナスはがっくりと肩を落とした。
で、独身か? も笑わせてもらいましたが、いくら疎い渡海でも、ですよ。
極めつけには、お前の手に負えるような女じゃない、ですよ。
⑧舞台
責めに耐えている彼女の姿を見ているうちに、初舞台の彼女の姿が重なって見えてきた。
あのときだってそうだった。ルイは仲秋の責めに耐え、涙をぽろぽろこぼし続けていた。それまで幾人の縛師に縛られたルイでさえ、仲秋の縛りはきつかったという。舞台の前に無心になれと言われたこともあり、素のままで縛られたところ我慢できるギリギリまで責められたと、のちになって彼女は話していた。
そのときよりかは我慢できるようになったと思う。けれど、それにだって限界はある。
~中略~
成功だ。フロアから感嘆のため息が漏れる音が聞こえてきたが、渡海はまだまだ心配でならなかった。それは、苦痛に歪んでいたルイの表情が、今にも泣き出しそうなものになっていたからだった。
渡海はステージを凝視しながら、唇を噛みしめる。が、あることに気がついた。
左脚だけで吊されているルイの顔を、床に膝をついてのぞき込む仲秋の表情が、今まで一度も目にしたことがないほど苦しげなものになっている。
どうして、師がそのような表情を浮かべているのか、その理由を頭の中で考えているうちに、仲秋最後の舞台の幕は下りていた。
ここはもう、谷崎さんお疲れさま! と。
緊縛描写ってね、大変なんですよ。なのでこう合間に心理描写とか回想とか挟むのですが、渡海と結衣子の見方の違いが顕著ですね。
⑨先生、わざと?
彼の笑みを見たとき違和感を覚えた。それが引っかかり、目を凝らしてみると、顔だけが笑っていることに気がついた。どうして作ったような笑みを浮かべているのか気になり、彼の目線をたどってみるとルイの頬に手を添えている。
「顔色がまだ悪いな。もう少し休んでいった方がいい」
師は気遣わしげな目を向けながら、白い頬を摩っていた。
仲秋にとって、受け手を務めてくれた彼女を大事に思うがあまりの行為だろうが、婚約者である康孝にとっては、我慢ならないものに違いない。現に康孝が師に向けるまなざしは不機嫌そうなものだった。
だが、仲秋はあえて無視しているのか、すぐ側にいる彼のことなど気にもせず、ルイの頬に触れている。
ルイから離れてほしくて、渡海は師を呼ぼうとした。しかし。
「仲秋先生」
康孝は、仲秋に呼び掛けた。作り笑いはそこにはなく、完璧な笑みを浮かべている。
「御挨拶が遅れて申し訳ありません。道家康孝と申します」
康孝は膝をついたまま仲秋の前に回り、名刺をすっと差し出した。
先生、わざと道家の前でやってんのかな、って思いながら読みましたねー。
渡海と道家、どちらも意識してそうだなぁ、とも。
マムシ(道家)と狸(仲秋)と小型犬(渡海)。相性悪そうな三人……。
⑩信条
どうして遥香が「解放させる」という信条を持ったのか、そこに至るまでの経緯は分かったし納得できた。それに気づいたことがある。それは結衣子たちの信条と、遥香の信条の性質が違うということだ。
結衣子は「心酔させる」
瑛二は「綺麗にする」
稜は「乱れさせる」
仲秋は「啼かせる」
だが、遥香は「解放させる」
結衣子から複雑な関係のことを言われた際、稜と瑛二の信条に目が行った。稜のほうが瑛二より能動的だということに気づいたけれど、それ以上考えなかったから気づかなかった。
結衣子達の信条はそれぞれの癖に繋がっている。相手の中に潜んでいる欲望にも繋がるものだけど、遥香の信条はそういったものではない。むしろ、抱いている欲望というより葛藤に繋がっていた。
女王でひとつの軸にしていた「縛りのポリシー」ですが、ここへきて大活躍するとはまったくもって夢にも思いませんでした。
渡海くんにも見つかるといいな。
⑪立ちはだかる
「わたしを縛ってみろ」
「え?」
張りのある声で命じられ、渡海は意味が分からず怪訝な顔を師の背中に向ける。
「聞こえなかったのか? わたしを縛れと言っているんだ。時間が惜しい。早くやれ」
仲秋は厳しい表情を渡海に向けた。
急に空気が張り詰めたようになり、渡海は顔をこわばらせる。
突然すぎる出来事に戸惑いを隠せないまま、仲秋の背後に近づいた。
まずは、体つきを確かめねばなるまい。師を最後に縛ったのは、もう三年も前だ。そのときの記憶を頼りに、縄を選ぶわけにはいかなかった。
渡海は膝をつき、仲秋の体つきを確かめようとした。が、目の前にある背中が、まるで難攻不落の山のように見えてしまい、腕が動かなくなった。その上、腰が引けていた。
~中略~
「遠慮をするんじゃない。今、わたしとお前は対等なんだ。しっかり閂を掛けろ」
「はい」
下縄に掛けた縄を背後に引いたとき、ほんの少しだけ加減してしまったことを見抜かれた。渡海は表情を引き締め、掴んだままの縄を引く。
「ん……」
仲秋が声を詰まらせた。
師の表情を確かめるべく、渡海は背後からのぞき込む。
すると、目線だけを動かした仲秋と目が合った。
「何を考えながら縛っていた?」
「え?」
仲秋の真意を探ろうとして向けられたものを凝視したが、何も分からない。
黙り込んでいると、師は視線を合わせたまま重いため息を漏らす。
「技術は申し分ないが、ここで縄を学んでいたときのような真摯さが見当たらない縛りだった。それに、迷いも」
避けて通れない師匠の大きな壁。いざ縄をかけるとなると、それはもう怖いと思います。
難攻不落の山というけれどまさにそれ。
だけど、縄の受け手と縛り手はあくまで対等なんです。どっちが上とか下とかない。サドマゾもそう。ゆえに、何も考えずにしたら本当はいけないんです。
⑫かさなる?
「渡海くん?」
急に結衣子から呼ばれ、渡海は顔をハッとさせた。
「目を大きくさせてみたり気難しそうな顔したりぼうっとなったり。まあ、見ている方は飽きないけど」
くすっと笑みを零す結衣子にからかわれ、渡海はむっとした顔になった。
「からかわないでくれ。あと、これ……」
渡海は顔をしかめさせ、持参した手土産を結衣子に渡す。
「わぁ、ありがとう。なにかしら」
無邪気な笑顔を浮かべた結衣子が、紙袋の中から風呂敷に包まれたものを取りだした。カウンターの上にそれを置き、風呂敷を丁寧に取り払う。風呂敷に包まれていたのは、朱塗りの重箱だった。
結衣子が蓋を開けた直後、良い匂いがあたりに広がった。同時に、彼女の表情がパッと明るくなる。
「くるすさんの鯛飯! これ好きなの。お客様に頂いて以来時々お邪魔したりしてね。季節のお吸い物が透き通ってておいしいのよねぇ。ありがとう渡海く……あら、どうしたの?」
きょとんとした目を向けられて、渡海は慌てて目をそらす。
結衣子が見せた無邪気な笑顔に、ルイの笑顔が重なったなどと言えるわけがない。渡海は落ち着かない様子でフロアを見渡した。
渡海くんは不憫(だがそれがいい
表情や感情表現が豊かなんですよね、渡海。結衣子と同じ一人っ子。どっちも我が道をずかずかいくので、ソリが合わないと壊滅的にだめになるという。
瑠衣と似ているがゆえにやりにくい、もありそうです。イマジンブレイカー的な意味で。
⑬縄は命綱
「みんなして、深い海の底にいるみたいだった……」
「深い海の底?」
気を取り直して尋ねると、遥香は頷いた。
「なんて言えばいいのかな。癖とか欲、情に愛、いろんなものが混ざり合った中に三人はいて、わたしは最初、水族館にいるみたいに外から見てるしかできなくて。でも、あるとき一人の、助けを呼ぶような声を聴いたの。そのうちそれが大きくなって、そんなのおかしいって思ったら、水槽の中に飛び込んでました」
なるほど、それが瑛二が言っていた「波紋」か。
「みんなあんなに上手く縄を操るのに、自分たちに絡みついたものは解くことができなかったんですよ。でも、いろんな人の本音に触れていくうちに、そういったものから解いてあげることが必要なんだって分かるようになってました」
だから遥香の信条は『解放させる』。
癖といったものがない彼女だから得たものだ。
遥香の真剣な表情を見れば、そこにたどり着くまでに多くの時間と経験を経てきたのか分かる。 そう思えるのは、抗いきれない衝動を抱えていると同時に苦悩していたことを稜や瑛二が聞かせてくれたからだ。そして結衣子や仲秋も、きっとそういったものを抱えているのかもしれない。
「解放させるって思ったのは半ばとっさのことだったけど、時間と経験を重ねるごとにその気持ちは強くなったんです。気づいたら、わたしにとっても、縄が命綱になってました」
彼らの側にい続けたゆえの苦悩を抱えてしまった遥香にとって、縄は彼らに向き合うために必要なものだったのだろう。だから彼女は、今も彼らの側にいて縄を握り続けている。そう思い至ったとき、疑念が湧いた。
「ルカさん、教えてください。瑛二さんの側にいて、後悔したことはなかったですか?」
渡海は真摯な目を遥香に向けた。
すると、彼女は迷いのない笑みをうかべ、はっきりとした声で返事した。
「わたしが自分で選んだことです。後悔なんてありません」
遥香が渡海のメンターねえ……、と思ってましたが、意外とその役をこなしている彼女。
この辺も谷崎さんと一緒に書いておりました。結衣子のもとに駆け出していく瑛二の背を見るのは、彼女もつらかったことでしょう。
女王ではある意味傍観者だった彼女ですが、しっかりと自分の軸を見つけて縄を取るようになりました。結衣子のことも彼女は好きですから、それで後悔もしてません。時々寂しくなっちゃうけど、瑛二がなんとかしてるはず。 成長したでしょ。へへんっ。
ささ、名シーンの連続だったステージ編。私も谷崎さんも時折詰まっては互いのを読んで糧にしてまた書く、ということを繰り返しています。
だけど一番糧になるのは読者様からの感想なので、ぜひ軽率に教えてくださいね。