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Yoshiko Watanabe

大林宣彦監督が伝えて下さったこと

2020.05.21 02:20

2015年11月に中野の廃校後の施設の一室で

大森研一監督、今泉恵美子監督、武田正章監督と私の4人で開催した

小規模な上映イベント「理科室映画祭」。

その時にプライベートで来て下さった大林宣彦監督が私達や満席の会場の皆さんに

話して下さったお話が、今もずっと心に残っています。

いろんなお話をして下さったんですが、その日の最後に大林監督が伝えて下さったこと。

(少し長いですが↓)

20数年前、大林監督がメイキングで入っていた黒澤明監督の映画「夢」の現場でのエピソードを話してくださいました。

黒澤監督が「俺がもし400歳まで生きることができたら、映画で世界を平和にできるぞ」って言ってらしたとのこと。

そしてその理由をこう言われたとのこと

「世界中の人が手に持ってた武器をなぜか捨ててしまう、

 そうすると両手が空いて、やることがないから

 目の前に居る敵とハグしてしまう。

 世の中、この方がいいなぁっていうんで

 世界が平和になりましたっていう映画」


他のスタッフの方だったのか大林監督だったのかが黒澤監督に

「先生はおとしだから、世界の国々に行くのは大変だから

スタッフが実景を撮って来ますので、先生はブルースクリーンで合成部分だけ

撮ってくれれば成立します」と提案したところ、

黒澤監督は「君が言う通りにやれば映像はできるだろう、

でも、僕は映像を作りたいんじゃないんだよ、僕は映画を作るんだ」と

「映画とは、映像ができればいいってもんじゃないんだ、僕自身が世界中に出かけて行って

その国の、それぞれの国の名優や善良な市民達を使って、

実際に手に銃を持ってもらって、僕自身がよーいスタートと、

僕は日本人だから日本の発音でちゃんと分かるように言うから

そしてその演技をやってもらって、みんなで抱き合ってもらってごらん、

そりゃあバカバカしい子供の作文みたいな夢みたいな話だけど、

10人に1人はこの方がいいぞときっと思うよ、

これがもし映画になって世界中で放映されたら、100人、1,000人、10,000人

いや10年、20年上映し続けて行ったら、世界中の人が「いや、この方がいいぞ」と思うよ。

映画にはそういう力と美しさがある。

そしたら君、映画の力で世界が平和になるじゃないか、それが芸術の力だ。

でも残念ながら僕は80でそろそろ死ななきゃいかん、人の命には限りがあるから

大林くん、君が続きをやってくれ。いや、君の時代でダメだったら君の子供や孫達が

その続きをやってくれれば、君なら10年あれば、おれの80年はやれるだろうし

君の子供や孫ならもっと早くやれるから、みんなが続きをやってくれれば

いつか400歳の映画になる。

そしたらきっと映画で世界が平和になるんだよ。

これが映画監督の映画作家の役割だ」

と大林監督はそう黒澤監督に言われたそうです。

それが黒澤さんの遺言だと思っていると大林監督はおっしゃっていました。


そして、大林監督はこうもおっしゃっていました。

「政治経済は競争だから、No1を目指して喧嘩になってしまう。

 でも芸術はすごい、ゴッホとピカソは喧嘩しませんね。

 モネとマチスはあんなに違う世界。お互いが違いを認め合って、許しあって

 理解しあって共存しますね。これは芸術はオンリーワンだから✨」


私は感動して、少なからずこのお話を聞けたこの日を宝物だと思って

今も心の中に大切にして、生きています。

なんだか今、世界がコロナでいろんな事が混沌とする中

この言葉を、思い出しています。