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フィアーノ(Fiano)辛口、甘口ワインの香り成分の違い

2020.05.24 09:05

個人的に大好きなブドウ品種の一つ、フィアーノ(Fiano)について、2007年に行われたプーリア州のフォッジャ大学からの研究報告です。

ドイツ、フランス、ハンガリー、イタリアなど、ヨーロッパのブドウ栽培地域では、甘口ワイン生産において長い伝統がある。白ブドウでは、リースリングとセミヨンが有名だが、フルミント(Furmint)、ピコリット(Picolit)、ゲヴェルツトラミネール(Gewurztraminer)、シュナン・ブラン(Chenin blanc)、ピノ・ブラン(Pinot blanc)などの品種は、伝統的に特定の産地で用いられている。イタリアでは、マルヴァジア(Malvasia)とモスカート(Moscato)、またヴェネト州では黒ブドウであるコルヴィーナ(Corvina)、ロンディネッラ(Rondinella)、モリナーラ(Molinara)を用いて陰干し製法によりアマローネ(Amarone)を製造している。

一般的に熟しすぎた果実は、果実組織の老化による固さの喪失、そのことによって得られる柔らかい質感が特徴として表れる。これらの物理的な特徴は、機械的損傷を受けやすいこと、病原体による感染率を高める。ブドウがボトリティス・シネレア菌(Botrytis cinerea)に感染すると、多くの重要な変化が起こり、水分が失われ、皮膚に存在するアロマ化合物(テルペン類ノルイソプレノイドやモノテルペン前駆体など)が果肉に放出される。

一般に、甘いワインについて用いる表現は、フローラル、タイムフラワー、トロピカルフルーツ、パッションフルーツ、マンゴー、柑橘類、オレンジの皮、アプリコット、ドライアプリコット、ピーチ、マーマレード、ハチミツ、キャラメルである。

トカイ・アスー(Tokaji Aszù)に関する研究では、ココナッツ、チョコレート、ピーチ、フルーティーの匂いの原因となるヒドロキシ-、オキソ-、およびジカルボン酸エステルがベースワインよりもはるかに高いレベルで存在していたことが示されている。

本研究では、イタリアのカンパーニア州で最も代表的な白ワイン品種「フィアーノ」を用い、ガスクロマトグラフィー/質量分析(GC-MS)、ガスクロマトグラフィーを用いた香り分析(GC- O)で、甘口、辛口ワインから揮発性化合物の内容とその臭いの影響を特定および決定し、訓練されたフォッジャ大学の農学部の学生8名によって官能評価分析が行われた。

辛口のフィアーノは完熟状態のBrixで22で収穫、甘口用はボトリティス・シネレア菌によって26°まで糖度を高め、更にラックでBrixが32°まで乾燥させた。ブドウは破砕され、低温にて前清澄(デブルバージュ)を行った。培養酵母を添加したのちに木樽にてアルコール発酵を行い、安定化されたのちに瓶詰めした。亜硫酸の添加量は辛口用は30g/L、甘口用は100g/Lであった。

官能的な記述分析による結果は、辛口では果実の香り(バナナ、リンゴ、ナシ、パイナップル)、花の香り(ライム、ローズ、アカシア)と植物の香り(ミント、グラス、ワイルドフェンネル)が示された。甘口ではドライフルーツ(アプリコット、プラム、イチジク)、蜂蜜、柑橘類のジャム、ココナッツのアロマが、辛口よりも甘口でより多く示された。この結果は主にテルペン類ノルイソプレノイド(β-ダマセノン、ヴィティスピラン)、ラクトン類(γ-ノナラクトン、δ-デカラクトン、γ-デカラクトン)、アルデヒド(フルフラール、ベンズアルデヒド)、ケトンの影響が考えられる。

辛口に比べて高濃度に存在した甘口の主な香り化合物は、テルペン類のネロール、ゲラニオール、リナロール(オレンジ色の花)、β-ダマセノン(お茶、花)、ヴィティスピラン(樟脳)、γ-ノナラクトン(ココナッツ)、δ-デカラクトン、γ-デカラクトン(アプリコット)、フルフラール(アーモンド)、1-オクテン-3-オール(キノコ)だった。1-オクテン-3-オールはボトリティス・シネレア菌によって産生される典型的な副産物として知られている。

辛口と甘口で生じたこれらの化合物の違いは、ブドウの成熟と乾燥のプロセスにより、品種の芳香族化合物が濃縮され、果皮に主に含まれるこれらの成分が醸造中に果汁に移行しやすくなるための起こると考えられた。

(私見)フィアーノはオレンジ色の果実を連想させる豊かな味わいを生み出します。茎や茶葉の香りを伴うこともよく経験しますので、今回の分析結果と通じるところがあるように感じました。また熟成によってテルペン類β-ダマセノンラクトン類の濃度が高くなり、甘口ワイン特有の濃密な果実の香りが生み出されることも理解できます。では今回私のおススメのフィアーノを使ったワインを一本紹介します。

カンパーニア州の造り手 イ・ペントゥリ(I PENTRI)のラモーレ・デッレ・アピ フィアーノ(L’Amore delle Api Fiano Beneventano IGT)です。熟れたリンゴや白桃を感じさせる香り、アカシアの蜜のような香り、豊かな味わいはフィアーノがどういったブドウ品種なのか実感させてくれる素晴らしいワインです。IGTなのでコスパも最高(2800円)!フードライナーさんで扱っています。

https://www.foodliner.co.jp/wines/campania/post_233.html

(参考)フィアーノの語源について

ジャンシス・ロビンソンは、フィアーノは古代ローマのワイン、アヴェッリーノ北方の丘陵地で生産されていたアピアーヌムの正体であったと考える歴史家もいる、と述べています。 ローマ人のあいだでウィーティス・アピアーナ (vitis apiana) の名で知られたブドウで作られており、アピアーナの語源はラテン語の「ハチが好むほど甘い」。今日でも、糖度の高いフィアーノの果実に蜂がさかんに寄ってくる光景は、アヴェッリーノ中のブドウ園でよく見かけられているそうです。(Wikipediaより一部改変)

(参考)論文中のグラフ

Fig. 1. Correspondence analysis (CA) of sensorial attributes of sweet Fiano wine (A), base Fiano wine (B) and Fiano wine analyzed and reported in a previously paper (Moio et al., 2002).
Fig. 2. Aromagrams of the sweet Fiano wine (A) and base Fiano wine (B).

Reference:Sensory properties and aroma compounds of sweet Fiano wine

Genovese A., Gambuti A., Piombino P., Moio L.

Food Chemistry 2007 103:4 (1228-1236)