睡眠時のいびき、歯ぎしり 病気や体調不良の原因に
◇無呼吸症候群の検査を/逆流性食道炎の可能性/対策の器具もいろいろ
「いびきの発生率は30~35歳で男性の20%、女性5%ですが、高齢になるにつれ高まり、60歳までに男性の60%、女性の40%が経験すると言われています。運動量が減って脂肪がつき、気道が狭くなることが多いせいです」と、順天堂大教授(耳鼻咽喉(いんこう)学)の池田勝久さんは説明します。
いびきの原因は、肥満のほかに▽アレルギー性鼻炎や花粉症、慢性副鼻腔(びくう)炎、鼻ポリープなどによる鼻づまり▽下あごが小さいため、舌の付け根部分の気道が狭まっている――などが考えられます。問題は「うるささ」だけではありません。「いびきをかいている時は呼吸が浅く、酸素不足になりがちです。音が大きければ大きいほど、呼吸も大変で換気障害が重いということ。眠りが浅いために朝からだるさがとれなかったり、頭が重かったりと身体トラブルが起きやすくなります」と池田さんは指摘します。
ひどくなると、寝ている間に呼吸が止まる睡眠時無呼吸症候群(SAS)になり、高血圧や心筋梗塞(こうそく)、脳卒中などの原因にもなります。「『無呼吸』とは1回に10秒以上呼吸が止まることで、それが一晩に30回以上、1時間に5回以上起きることをSASと定義しています。睡眠中の呼吸状態を的確に診断してもらうことが重要です」
一緒に寝ている人からひどいいびきを指摘される▽起床時にだるさが残る▽日中にどうしても眠くなる▽息苦しくなって夜中に何度も目が覚める――という場合は、入院して、睡眠中の脳波や血液中の酸素飽和度、鼻口呼吸の測定などができる終夜睡眠ポリソムノグラフィー検査を受け、いびきや無呼吸の程度を確認した方がいいでしょう。
いびきの改善は「まず医師による生活指導から」と池田さんは言います。運動と食事療法による肥満の解消は非常に重要です。睡眠前の深酒にも気をつけたいです。「アルコールは気道周辺の筋肉を弛緩(しかん)させ鼻づまりを引き起こしやすいので、いびきをかきやすくなります」と池田さん。軽度のいびきなら、舌が喉に落ち込んで気道を塞がないよう、横向きに寝るのもいいでしょう。「横向きの姿勢を保つためパジャマなどの背中に袋を縫い付け、中にテニスボールなどを入れておくのは有効です。ファスナーを開いて背中にボールを装着できる専用の腰枕も市販されています」
同様に、体を少し起こした姿勢にしておけば舌が落ち込みにくくなるので、ベッドの頭側を高くしておくのも効果があります。
SASの程度が中等症より軽いいびきには、舌や下あごを前に出させる特殊なマウスピースを使うと軽減することもあります。中等症以上や重度になると、本格的な治療が必要になります。鼻にマスクをして空気を送り込み、狭くなった気道を広げて呼吸を助ける「シーパップ療法」は全ての患者で症状が改善しますが、寝ている間に煩わしくなり、続けられない人も多いです。その場合は医師と相談し、本人に合った装着方法を検討します。
「いびきが改善すると日中の活動量が上がって減量に成功したり、原因不明とされた高血圧が改善したりします。いびきは病気ですから、医療機関できちんと指導を受けてほしい」。池田さんはそうアドバイスします。
一方の歯ぎしり。「誰でも多かれ少なかれ、寝ながら歯ぎしりをしています。全くしないという人はほとんどいない。ただ、回数が多かったり、その時に生じる力が大きかったりすると問題が発生します」。昭和大歯学部教授の馬場一美さんはそう話します。
「ギリギリ」「ガリガリ」と音が出てうるさい歯ぎしりと、音は出ないが強い力で歯をかみしめている食いしばりを合わせて「睡眠時ブラキシズム」と呼びます。眠りが浅い時に起きますが、詳しい原因は分かっていません。
「何らかの体のトラブルが睡眠時ブラキシズムとして表れることもあり、医師には、患者さんと話をしながら問題を探っていく診察が求められます」と馬場さん。
睡眠時無呼吸症候群▽夕方から夜にかけて足に虫がはっているような不快感に襲われる「むずむず脚症候群」▽逆流性食道炎――などの眠りが浅くなる病気が、原因の一つに考えられています。
「特に逆流性食道炎は胃酸が上がってくるので、それがむかつきの原因となり睡眠が浅くなる。唾液の嚥下(えんげ)(のみ下すこと)が起これば不快感はとれますが、寝ている間は通常1時間に1、2回しか起きません。歯ぎしりをすると唾液腺が刺激されて唾液を嚥下する回数が増えるので、無意識にそうしている可能性がある。逆流性食道炎を治療したら歯ぎしりが治ったという人もいます」。馬場さんは、そう解説します。
ストレスや飲酒、喫煙との関連も指摘されていますが、いずれも睡眠を浅くさせるものばかりです。
「睡眠時ブラキシズムは歯がない人でもすることが分かっているので、歯並びの悪さが原因ではありません。まずは、逆流性食道炎などの病気があれば内科で治療を受け、睡眠環境を整備することが重要です」
症状が改善しなければ歯を守るためのマウスピースを使用します。「睡眠時ブラキシズムは、あごの痛みや口が開かないなどの症状がある顎(がく)関節症の原因の一つで、さらには歯周病を悪化させ歯が失われたりもします。歯磨きをきちんとしているのに歯が欠けたり、歯が削れてしまい同じ場所を何度も治療しなければならなかったりする場合は、まず睡眠時ブラキシズムが原因と考えていい。マウスピースは保険適用なのでぜひ活用してほしい」と馬場さんは話します。
睡眠時の2大トラブルは軽く考えず、適切に対処したいです。