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キャラシート

なつひぼしを夢見て

2020.05.27 08:50

「離陸30秒前。電磁加速器作動」

マスドライバーに紫電が走り機械群が唸りを上げる。

今か今かと待ちわびる観衆。周辺を警戒していた

哨戒機が一斉に退避していった


「SRB点火、固定具解除。リフトオフ」

こうのとりは一瞬にして音速を突破し、赤や橙色で煌めく翼を誇らしげにはためかせる。

歓声を上げる人々。背後に追手が迫っていることを知らずに機体は

ぐんぐんと上昇していった


離陸から数秒が経過した時だった。突如としてSRB-L(左側の固形燃料ブースター)が

停止してしまったのだ。本来燃料が尽きるまで止まらないはずのものが止まったことで

機内は混乱する

「おいどういうことだ!?計器の故障か!?」

「それが間違いなく停止しているんです!」

「両サイドを緊急分離しろ!飛行は中止だ!」

「了解。飛行管制、こちらこうのとり!SRB-L停止!・・・管制が応答しません!」

「まさか通信もか?何度も呼びかけろ!ダメなら独自の判断で分離する!」

機内が慌ただしくなる中、左翼には異形の存在が張り付いていた。

“ソレ”は音速を超えて飛ぶ機体を悠々と歩き回る。その目がコックピットを捉え

不気味な笑みを浮かべた。


一方、大陸の反対側。島国のある一室ではその様子を生中継で見ていた。

「ねえ、あれ・・・片方エンジン止まってない?」

気づいたのは若い女の方だった。その発言に同じくらいの年齢の男が目を見開く

「・・・遠視してみよう。何か嫌な予感がする」

目を閉じて右掌を前に突き出す。次の瞬間彼の視線は機体の真上にあった

各所を見ていく。そしてあの異形が機体で何かをしているのを発見した。

血相を変えた彼は飛び上がるように立ち駆け出す

「ちょっと忠君!?」

「マスター、どちらに?」

「日本に。連盟には僕から出向くから心配はいらない」


「なんだ、制御系統までおかしくなってやがる・・・。」

何度も操縦桿を操作しようとするがびくともしない。機体が意志を持ったかのように

勝手に動き始めた。軌道が徐々に変わっていき再突入コースへ偏移していく

「オーパイ、手動、切り替え不能です。・・・ああ、そんな」

「今度はなんだ!?」

再突入コースが固定された。その先は米帝を名乗る過激派組織が制圧する地域

このままいけば彼らが攻撃とみなし報復を行うことは血を見るより明らかだった

「このままでは米帝支配域に着弾します!」


一方。地上では通信トラブルが起きていた。衛星はもちろん海底ケーブルさえも

寸断されてしまったのだ

「こりゃただ事じゃないぞ・・・護衛艦とすらも連絡できない。他国からの攻撃か?」

「安易な予測は慎め。一応警備隊に周囲を警戒させよう。引き続き

通信系統のチェックをー」

続けよう、そう言おうとした時であった。唯一生きているレーダー系が異常を

示す警告音を発した

「室長!何かが高速で接近中!IFF反応せず。熱源あり!ミサイルかもしれません!」

「やはり他国からの攻撃だったんだ。室長、独断での指向性エネルギー迎撃砲に

よる迎撃を提案します」

警備責任者が神妙な面持ちで告げる。本来は上からミサイル接近の報を受け

迎撃するものだが今回においては通信不能という緊急事態であるため警備要項が

適用されるのだ

「仕方ない。対空火器の無制限使用を許可すー」

「IFF、感!友軍と表示されました!」

「それは・・・アマテラスシステムか?」

おかしい。通信系統は復旧していないはずだ。誰しもがそう思った。

「いえ、オフラインのままです。しかし古いアーカイブにデータが」

「古い?いつのだ?」

「それが、自衛隊時代のものなんです」


「メイル、制御を預けるぞ」

『承知しました。制御系の譲渡を正常に認証』

彼は空を飛んでいた。おそらく地球上の何よりも速く。再び視界は透視へと

移り期待の各所を確認する

「SRB-Lが停止。奴の仕業だな・・・。分離機構に物理的ダメージ。メイル、予測軌道は?」

『このまま外的事象がなければ米帝 ワシントンに着弾します』

「奴の目的はそれか。・・・メイル、リミッター解除状態で制御を戻せ」

『マスター、何を』

「僕がSRBの代わりをする」

短く答える彼。人工知能であるメイルにもそれいかに危険な行為か理解できた

『マスター、そのままでは魔力流に対処出来ず死亡する可能性が』

「命令強制執行。コード「ソロモンの鍵」』

『コード承認。リミッター解除状態にて制御を移行します』

これは彼の師匠が取り入れた制限であった。あまりに無茶をしすぎるためだ。

だが彼はこっそり裏コードを仕組んでいたのである制御を戻した彼は一気に加速し

こうのとりに接近していく。

「機長、レーダーに高速飛行物体が!」

「まったく、次から次へと!方向は!?」

「7時の方向!・・・!?レーダーから消失しま─」

レーダーに映っていた物体が消えた直後だった。がくんと機体が大きく揺れる。

「機長・・・軌道が変わっていきます!加速しているようです!」

「本当だ、速度計にも出ています!」

「何が起きているんだ・・・?」

ぶつん、と外部モニターが切れる。そして現れたのは不可思議な文字だった。

すぐさまその文字はアルファベットへと切り替わる。そこにはこう表示されている

「Hold on!(つかまっていろ)」と。

「ぐ、ぅぅうう・・・・」

嗚咽を漏らす照光。彼の体には許容をはるかに超える魔力が流れていた。

たとえるならば致死量に近い電流が流れているようなものである

『現在毎秒5.2km。まもなく目標速度』

皮膚のあちこちが引き裂かれ、血を流す。膨大な魔力が体を焼いていた。

それもそのはず、その魔力流は大魔術師を100人集めても多いものだ。

『毎秒6.3km。軌道誤差、許容範囲。微調整完了。最終噴射に入ります』

「持ってくれよ、僕の体・・・!」

『第一宇宙速度突破』

機内が一瞬光に包まれる。次の瞬間ありとあらゆる状態が正常に戻った。

記録には「軌道投入完了」とあり、全ての項目に異常なしの表示が。

そして映像でもSRBは問題なく燃焼したことになっていた。

「機長、第一宇宙速度達成。無事軌道に乗りました!」

一方、照光は大気圏への再突入コースに入っていた。離れていく機体を眺める彼。

「・・・僕が助けられるのはここまでだ。あとは自分の足で。」

ボンボヤージュ。そう呟いた彼は姿勢を整えイギリスへの帰路についた。



人間たちが歓声に包まれる中、ある一角では一人の女、そして男が数名

怪しげな雰囲気で集まっていた。

「・・・こうのとりへの侵入、完了しました。カバーストーリーの流布も完了。

地上並びに機内人員の記憶処理、完了」

「よろしい。・・・しかし、大事に至らず何よりだ・・・。まったく彼奴も無茶をする」

「しかしよかったのでしょうか。これは文明への介入になるのでは」

「そんな掟は錆びた古いものだ。人間たちに気づかれねばそれでよい」

驚いたように女を見る男たち。彼女は彼らを無視し、天を見つめる。

「行け、人類。想像の及ぶ限り」