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ulcloworks

コロナの分かれ道。

2020.05.29 10:09

今日、普段から仲良くしてもらってる編工場の社長さんから「実験的にちょっとやってみてんけどな・・・」と、新規事業のことを教えてもらった。内容は伏せるが、滑り出し一ヶ月目にしてはすごく良い数字が出ていて、心からすごいと思った。狙ったところと時期的なタイミングがうまくいってたというのもあるだろうが、工賃仕事がメインの会社としては、別軸でその金額が作れるというのはとても心強いものになるだろう。


ご存知の通り、世界中に拡がってしまった新型ウィルスは間違いなく僕らの繊維業界に大きく影響している。

緊急事態宣言が解除されてから各方面へ電話などで状況をうかがっていると、編み工場ベースでは6-7月のキャパも怪しいところが多い。と言ってももう5月終わったんだが。これは波及して7-8月に染工場に、そして8-9月で縫製工場に流れる仕事量の減少を意味する。目下縫製工場ベースではガウンが熱い。熱すぎて、既存で仕事を入れたい人たちが弾かれてしまってるところも目立ってきた。この0か100の思想は諸刃の剣だ。冒頭の彼のような別軸を持つという発想にならない。常に目の前の人参を追いかける習性がある。弾かれたお客さんはその工場には戻らない。目の前の仕事が終わったときに、失ったものの大きさを知ることになるのだろうが、今はまだその冷静さはなさそうだ。


年明けに端を発したこの世界規模の混乱は、僕の目に映っている工業人の二極化を浮き彫りにしている。現金を元に新しいことに挑戦する人と、現金を手にしてそのまま何もしない人だ。

目減りする売り上げに対して政府が用意した緊急融資枠と補助金は、売上高2-3億で従業員20人未満の工場にとって、フル枠で取得すると十分すぎる現金を手に入れることになる。ただ、先行き不透明の中、これを手に入れること自体は全く問題ではない。まして現時点では大手破綻によるドミノを食い止める盾にもなっている。丸編機でガウンは縫えないので、既に編み工場ベースでは、新規の話はほとんどないに等しい。だからこそ延命の血液(現金)は必要だ。

血液を注入しつつ、目の前の仕事をがむしゃらに拾っていくのは、まさに生きるということを再認識させられる。ただ、慢性的に縮小傾向にあった産業では、赤字補填の融資で生きながらえてきたクセみたいなのがあって、事業再編とか、再生とか、その辺まで意識が行ってない。だから今回の現金確保後も、今までのスタイルでは明らかに減るであろう仕事量を前に、資金は必ず枯渇する。今借りるのは別枠とはいえ、おそらく落ち着いた後には通常枠と合算で考慮される可能性がある。資金が尽きる頃に折り返せる金額は相当少なくなるだろうから、今新しく収入の芽を見つけ出せないとかなり厳しい将来になることは割と簡単に想像がつく。それでも動き出さない人たちは、既に動いている人たちの様子をみているのか、または動き方がわからないから何もできないのか。


冒頭の編工場社長の彼は若い。と言っても僕より全然年上だし、いわゆる2-30代のインターネットに明るい今時のそういう感じの人じゃない。でも組合の中では圧倒的に若い。それくらい製造業の人員は老朽化している。

それでも最近は早めに家督を引き継いで若い(4-50代の)経営者も増えてきた。これは僕にとってとても明るい話題だ。しかし親父さんや組合連中の影響力が強すぎて、新しいことへの挑戦ができない人たちもいる。同調圧力。故に冒頭の彼は、周りの人たちに言わず、僕にこっそりと教えてくれたのだろう。なぜならその事業が表面上で儲かると判断した瞬間に、様子見をしていた人たちは襲いかかってくるから。競合の台頭はビジネスを加速させる良い側面もあるが、地方工業の狭い世界の中で起こるそれは正直言って誰も得しないケースが多い。


あまり良い噂を聞かない工場ブランド化を旗印に活動している某社がまだ無名の頃に工業組合の門を叩いた時、組合理事は門前払いした。その後、その某社が有名になった途端に門前払いした張本人から売り込み、絶対に布帛でやった方が着る人にとって良いと思われるアイテムを自社で作ったカットソー生地で『技術の粋』的な押出しで商品化し、絶望的に高い値段で出して売れず、挙句に某社の悪口を言いふらして株を落とした。双方に悪いところがあったにしても、すぐ誰かのせいにするのは、こういう地方ではよくあることだ。

だから冒頭の彼も、新規事業を表沙汰にして、組合連中から襲い掛かられ、そいつらのやり方の問題で商売が発展せずに、村八分にされてしまう可能性があるから、慎重にならざるを得ない。


だから今、そういう動き方がわからない各社に、現金と時間に余力があるうちにしっかりと考え直してもらいたい。既存事業の設備投資だけじゃなくて、知恵や情報を取りに行くための投資も、このタイミングなんじゃないかと思う。他所の経営にヤイヤイ言える立場ではないからお節介に口出しはしないけど、新しい領域に乗り出すワクワクみたいなのがあった方が、新しい人たちも入ってくるんじゃないかな。夢があるもん。冒頭の彼は、今までも色々とチャレンジしてきたし、これがもし失敗しても、またなんか考えて挑戦すると思う。伝統と品格ってのは大事だし、それをわざわざ否定することはしない。でも、そこだけでは牌は減っているのが目に見えてるんだったら、新しいことを拒む理由はないんじゃないかなって、僕はそう思うっていうだけの話。タイトル全然関係ねぇ。