第4章:なにを使って?:除去力の知識(その1)用具の知識 〜 掃除の方程式(作業方法決定)〜
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「掃除学」第4章は、掃除の基礎理論として、「掃除の方程式」 、「物理的な除去力」・「用具の知識」について解説する。
現状分析が終わり、その結果をもとに作業法を考える。
掃除作業を考える際、掃除の方程式の簡略図で見ると、現状分析の結果をもとに、「なにを使って?」すなわち除去力について考えてみよう。
除去力には、大きく分類すると「物理的な力」 と 「化学的な力」 があり、相互を効果的に活用して、汚れを除去することになる。
現状の分析結果をもとに、汚れを落とす除去力について考える。
一般的に「掃除は、力を入れてゴシゴシ・急いでせかせか」など、何かと大変なイメージがある。
しかし、人が力を使う事はほとんどなく、急ぐ必用もないのである。
なぜなら、汚れは除去力となる用具や洗剤が落としてくれるからである。
むしろ、人が余計な動きをすることは、帰って除去力となる用具や洗剤の邪魔をしていることにもなり、掃除の効率が悪くなっていることも多いといえる。
掃除のプロは、無駄な動きを減らして、除去力に効率よく働いてもらい、掃除をしている。
除去力のことを知ることで、掃除はもっと効率も良くなりラクになるのである。
*動画でご覧になりたい方はこちら↓(一部内容が異なります2016年公開)
第4章−1:物理的な除去力「用具の知識」
物理的な除去力と掃除用具
物理的な除去力の代表的なものは、掃除用具と言える。
掃除用具にもさまざまな種類があり、現状分析の結果に伴い、必要とされる用具を選出する。
物理的な力を活用して汚れを除去する際、日用品や事務用品など、身近な用具も掃除用具として活用することもある。
必要な物理的除去力を理解していれば、様々なものが掃除用具としても応用できる。
また、作業を行うために間接的に必要な用具もある。
高所の作業を行うのに、踏み台や脚立などが必要になることもあるし、機械を使用する際コンセントが近くにないため延長コードが必要になることもある。
除去力の選出を行う際は、その用具や洗剤などの活用方法、すなわち作業方法も同時にイメージして選ぶことが大切と言える。
用具の選定
掃除方法を決定するための物理的な力として、掃除用具(各種器具や機械類)の選定を行う。
掃除用具を使用して、“掃く・拭く・はたく・吸う・磨く・擦る・削る・流す” などの物理力で汚れを除去する。
物理力においても、洗剤同様に使い方を誤ると素材を傷つけるなど、害を及ぼすので注意が必要である。
用具の知識
用具の選定を行うには、用具の知識が必要とされる。
基礎知識として、用具選定のポイントを、大きく3つに分けると・・・
(1)どんな用具があるのか?各種器具・機械類を含むを様々な用具を知る
(2)物理的除去力の種類を知る
(3)用具の使い方や応用を知る
などがある。
(1)どんな用具があるのか?(各種器具・機械類)
掃除用具の種類はとても多く、住まいに限定しても、様々な掃除用具がある。
大きく分類すると・・・
- 手動用具:手動により汚れを除去する掃除用具
- 機械用具:機械により汚れを除去する掃除用具
- 補助用具:掃除を行うために必要な補助的用具
などがある。
各掃除目的に応じ、調べて選出し、各商品の使用方法に従って、活用する事が望ましい。
また、本来なら掃除用具ではない物でも、物理的な除去力として活用出来る物もある。
住まいの代表的な掃除用具を例に挙げると、
雑巾やタオル類、スポンジ類、バケツ、モップ類、ほうき&ちりとり、ブラシ類、ハタキ類、掃除機、その他、などがある
*詳しくは、「住まいの掃除用具:自分の掃除スタイルにあった用具を選ぶ」を参照
これらの掃除用具…、どんな物理的除去力があるのだろうか?
除去力の種類(動作の分類)について考えてみよう。
(2)物理的除去力の種類を知る
数多くある「物理的な除去力」の代表的な掃除作業の行為を次に表す。
汚れ除去をイメージするための基本資料として、用具選出の際に活用してもらいたい。
*個々の微妙な感覚により、行為の分類の違いや重複するものもあるので、あくまでも目安として記している。
- はく: ほうき類などを使用して掃き掃除。おもに床面や机の上などで行う。
- 拭く: 雑巾やマイクロファイバータオルなどのウエス類で行う拭き掃除。
- はたく: ハタキ類を使用。布製の物から、近年では静電気や特殊加工で吸着させる物もある。
- 吸う: 代表的な掃除用具は掃除機。
- みがく: ウエス類やスポンジ類の他、磨き粉およびコンパウンドなども物理的除去力といえる。
- 擦る: スポンジ類やブラシ類など。研磨剤なども物理的除去力に分類できる。
- 削る: ケレン類やヤスリ類など。物理的除去力としては非常に強く、素材が傷つきやすいので注意が必要。
- 流す:ホースやバケツなどを活用して、水で汚れを流して除去するなどがある。
- とる:ほうきではいたゴミをちりとりで取り除いたり、水で流したゴミが排水溝にたまってい場合など手やごみ取りトングなどで取り除く。
- その他:表現の違いも含め、除去力の種類は多くあると言える。
では、もう少し詳しく、各行為について考えてみる。
掃除作業の行為(物理的除去力)から用具を考える
同じ用具であっても、使用方法やアタッチメントを変えたりすることで、複数の要素を持つ用具もある。
掃く
毛足のある用具などを使い、素材表面をなでるようにチリなどの汚れを払いのける行為。掃除作業でも、日常的に行う行為の一つで、除去力の表現としては弱い。
「掃く」と言う行為は主に床面で使用する事が多いが、机や家具の上を掃く事もある。玄関やバルコニー等、「ほうき」を使用した掃き掃除が代表的である。
掃き掃除の対象となる汚れは、個体で付着力は弱く、浮遊しない程度の重さがあり、重力により落下したのち、床や天板等に「のっている」又は「静電気等軽い力で吸付いている」等の弱い付着状態の汚れに適している。
反面、浮遊している汚れや重すぎる物、液体汚れ等の除去には不向きであると言える。
ブラシ類やモップ類などは、「擦る」・「拭く」行為のほかに、使用方法を変えることで「掃く」用具として活用できる。
代表的な用具:ほうき、ブラシ、ハケ、他
拭く
紙や布などを素材表面に乗せて、押し当てたり動かすことで汚れや水分を取り除く行為。
除去力の表現としては弱い。
掃除作業でも、日常的に行う行為の一つで、ガラスや家具や家電など、「タオル」を使用して拭く、床面を「モップ」で拭くなど、様々な素材や場所で活用出来き、掃除作業にはなくてはならない行為と言える。
拭き掃除では「乾拭き」・「水拭き」・「洗剤拭き」など、使用方法も様々である。
拭き掃除の対象となる汚れも様々で、個体〜液体汚れまで対応し、「のっている」・「吸付いている」・「軽度に固着している」など軽度の付着状態の汚れ除去に適している。
代表的な用具:タオル類(雑巾)、モップ類、ペーパー類、他
はたく
掃除の行為としての「はたく」は、主に布切れを束ねたり化学繊維を束ねるなどの形状をした用具を使い、素材表面をかすめるように縦・横に除う(はらう)または斜めに叩き、乗っているホコリなど質量の軽い乾燥した汚れを取り除く行為。
除去力の表現としては弱い。
掃除作業においては、主にホコリ汚れ等の除去で行われる行為で、天井や壁や調度品等に付着したホコリを叩いて取り除く。
拭き掃除に比べると汚れは多少残るが、手の届きにくい高所や目線程度の中所を広範囲に効率よく掃除が出来る。
日本では古くから行われている掃除方法の一つで、床面ではほとんど使用しない。
ハタキ掃除の対象となる汚れは、個体で付着力は弱く、浮遊していない目に見える程度の小さな粒子状の物質で、「のっている」又は「静電気等軽い力で吸付いている」等の弱い付着状態の汚れに適している。
反面、浮遊していたり汚れが多く堆積している等の除去、液体汚れの除去には不向きであると言える。
近年では、静電気や特殊な加工によりホコリ等を吸着させて取るハタキ等が主流になり、ホコリの舞い上がりを防止する役割を持つ物もある。
吸う
掃除作業における「吸う」は、対象となる汚れなどを引き入れるように(吸引)して取り除く行為。除去力の表現としては中度である。
吸うという掃除作業で代表的な用具は掃除機で、現代の掃除でかかせない用具の一つであり、床面や家具・家電の上など、様々な場面で活躍する優れものである。
個体で付着力は弱く、浮遊しない程度の重さがあり重力により落下したのち、床や天板等に「のっている」又は「静電気等軽い力で吸付いている」等の弱い付着状態の汚れに適しているが、浮遊している粉塵などを含む吸込み口の大きさより小さい物・吸引力に対して吸い込むことのできる重さの物は何でも吸取る。
また、機種によっては液体汚れ等を吸取る、ウエットバキュームや、アタッチメントを変えることで「拭く」や「掃く」効果を加えたものもある。
近年では、寝具専用の掃除機等も多く発売されており、新たな市場を形成している。
その他、配管の異物や汚れを吸取る手動式のサクションポンプやトイレのつまりを取るラバーカップ等、掃除機以外の用具にも「吸う」と言う行為による掃除用具はある。
擦る
掃除作業における「擦る」と言う行為は、用具を素材表面に押し当てて動かす。
用具により除去力が大きく変化するが、物理的除去力の表現は中〜強である。
しかし、掃除作業でよく使われる「擦る」という表現では、人が力を強く入れて押し当てて動かすイメージがあるが、用具の使い方としてはお勧めできない。
初めは用具自体の除去力を有効に活用するために、使用者が力を入れず手を添えて動かす「なでる」という表現が適している。
したがって、「擦る」と言う行為は最終手段ということになる。
例えば、除去力の弱い通常の柔らかいスポンジなどは、食器を洗う際に擦るなどの行為で汚れを落とすことができるが、擦るという表現よりは「なでる」という方が、用具を正しく活用できる。
どちらかというと、擦るという行為は、頑固な汚れなどを落とす際、用具自体の持つ除去力が強く使用抵抗(摩擦力)も大きい場合、人の力も必要とされるときに使う表現で、実際の行為自体は「なでる」が正しい使用の表現と言える。
日常掃除よりも間隔的(時間経過)に長い定期掃除で活用する事が多い。「掃く」・「はたく」・「吸う」などの行為よりも強い除去表現で、乾燥固着や経時変化に伴い強い付着力を持つ汚れ除去等で行う。
代表的な「擦る」ための掃除用具は、スポンジ類やブラシ類等がある。
スポンジ類は、汚れが付着している素材表面が平滑・密である場合に活用し、素材表面に凹凸がある場合にはブラシ類を活用する等、素材の表面形状により選択する。
また、素材の表面形状が同じであっても汚れの付着状態によって用具も変化し、軽度ならスポンジや毛の柔らかいブラシ、中度ならメラミンスポンジや硬めのナイロンブラシ、重度なら金ダワシやワイヤーブラシ等を選択する。
掃除対象となる素材が柔らかいと、傷や艶が無くなる等のリスクも出てくるので注意が必用である。
削る
掃除作業における「削る」と言う行為は、素材表面に付着した汚れを薄く削り(切り)取る行為であり、物理的な除去力の表現の中で最も強いと言える。
また、日常的な掃除で行う事は稀で、特殊な作業の一つでもある。
乾燥固着等を繰返し「かさ高固着物」になった汚れや、経時(経年)変化に伴い硬く頑固になった硬い汚れの除去に行う事が多く、汚れが付着している素材表面が平滑・密であり硬度は比較的高い場合に活用する事が多い。
代表的な掃除用具としてはケレンやヘラ等がある。形状や材質も様々で、細い物や広いもの、プラスチック製や鉄製など色々な物があり、汚れや汚れの付着している素材の硬さや表面形状により選択する。その他、サンドペーパーやカッターの刃なども掃除用具として使うこともある。
「削る」と言う行為は強い除去力を持つ反面、力加減や用具の選択が難しく、素材を傷めたり破損する事もあるので、物理的な除去力の中で最も注意が必要とされる。
流す
掃除作業における水等を「流す」と言う行為は、液体を動かすことにより汚れを運び取り除くこと。
主に水回り(キッチン・洗面台・風呂場・トイレ等)やバルコニー・外回りなど排水設備がある場所で行う。
水を流す作業なので、耐水性のある素材に「のっている」付着状態の汚れや、洗剤洗浄後の「すすぎ」作業等に適している。ただし、水量や水圧が変わると、用途や効果も変化する。
一般的には、バケツ等の容器に水を入れて流したり、水道にホースをつなぎ延長して作業を行う事が多い。
掃除用具ではないが、ジョウロやペットボトルなど、水を入れて流すことができる日用品も、掃除用具として活用もできる。
取る(拾う)
究極、汚れを「取る」とも表現出来るが、物理的な除去力表現としては「拾う」に近い行為とする。
主に、ゴミを取る(拾う)や生えている雑草を取る(抜く)など、個体の汚れ又は美観および衛生上問題のある異物を除去する行為。
用具によっては、液体を取ることもできる。
一般的な用具としては、チリ取り、ピンセット、ゴミ拾いトング、他、等がある。
磨く
掃除作業において、【磨く】と言う行為は、素材表面を研いで(拭く・擦る・削る含む)滑らかにし、光の反射をよくして輝かせること。
汚れを除去する「擦る」や「削る」ことにより、つやを出す時に使う表現とも言える。
床を磨く、窓を磨く、金物を磨く等、作業としては「擦る」ことと同様ではあるが、「つやを出す」ための行為としてとらえると、別物として表現している。
一般的には作業の仕上げとして、タオル等で磨く、専用の機械を使用して磨く、研磨剤を使用して磨く、他、等がある。
その他
汚れを・・・払う(除う)、移し取る、水を切る、吹き飛ばす、他、汚れを物理的に除去する行為やその表現は様々である。
掃除のプロの世界では「かっぱぐ」という表現を使い、平滑密な素材表面の水分を、ゴムなどでできたワイパー状の用具を活用して素材と用具の間に密閉空間を作り、汚れとともに水分を移動させながら除去する行為がある。
用具として代表的なものは、スクイジーやフロアスクイジー(かっぱぎ)で、主にガラスや床面で使用する。
また、掃除用具の中でも機械類などは、1台で複数の要素を持つものや、アタッチメントを替えることで効果も変わるものもある。
除去力の表現を知ると、用具自体が持つ除去力があることに気づき、その使い方が最も重要であると理解できる。
(3)用具の使い方や応用を知る
物理的除去力には、用具自体が持つ除去力と、用具を使う際に使用者が加える力がある。
用具の除去力と使い方
用具の力を最大限に引き出すなら、人の力はかえって邪魔となる事もある。
除去力が強くなるほど、素材を傷めるリスクも高くなるので注意が必用と言える。
用具の持つ除去力を最大限に生かし、人が使う力は少なくする事が、素材にも優しく、掃除をラクにする。
物理的除去力:スポンジ類の強弱
左から、スポンジ・メラミンスポンジ・パット(茶色相当)・焦げ取りスポンジ
物理的除去力:ブラシ類の強弱
左から、歯ブラシ・豚毛ブラシ・ツインブラシ・ワイヤーブラシ
スポンジ類なども、スポンジがへこむ程押し付けるのではなく、優しく手を添える感じで、使用する。
汚れの度合いに応じて、除去力の強弱はスポンジの種類で選出する事が、好ましい。
ブラシ類も同じで、毛のしなりを利用し毛先で掃除をするのに、力を入れると毛先(点)ではなく毛側面(面)での作業となり、凹凸部や隙間の汚れを除去しきれない場合もある。
様々な掃除用具の活用ポイントは、基本的に力はいらない!ということである。
「加減」に職人技あり
掃除のプロの世界では、除去力の持つ力を最大限に生かし、人が力を加えるのは最後の手段とし、用具や洗剤を効率よく活用している。
しかし、プロの世界で依頼される現場の多くは、何年も掃除をしていない、または一般の人では落とせない専門的な汚れの除去も多い。
そのような汚れは、積み重なった汚れが経時変化とともに頑固で硬くなり、汚れ除去に用いる除去力も強い傾向にある。
硬い掃除用具を使い、削るや擦るなどを行う場合には、素材に傷がつくリスクも高く、それらを理解した上でも止むを得ず汚れ除去を優先する場合、人が加える力の加減が素材に傷をつけるリスクに影響を与える。
職人の世界では、この「加減」に技があり、多くの現場経験や知識が必要とされる。
一般人とプロの汚れ除去の差は、この職人技の「加減」にあるのかもしれない。
用具の応用を知る(掃除用具としての応用)
掃除用具の応用例として、水に圧力を加える事でただ流すだけでなく、別の効果を得る事ができる。
ホースと散水用のアタッチメントを使い、水道水に圧力を加えてその散水形状を扇形にすることで、ほうきのように水で床を “掃く”ことや、高圧洗浄機を使いさらに水圧を高くして“擦る・削る”などの効果を得ることもできる。
このように様々な用具を組み合わせる事で無数の物理的な除去方法が生まれる。
また、油汚れを除去する際、温めることで分子が活性化し柔らかくなることを知っていると、お湯が使用できない場合など、ドライヤーで硬くなった油汚れを温めて柔らかくした方が掃除作業も容易になる。
柔らかくなった油汚れをプラスチック製の使わなくなったカードで取れるものは除去する方が仕上げもラクになる。
少し残った汚れは毛糸素材で編んだ布(冬物セーターの切れ端)で拭くことで、毛糸の素材に絡ませて油汚れをとるなど、身近な用具や要らなくなったもので掃除をすることもできる。
その他、ガラス用ワイパー(スクイジー)や洗車用のスポンジ付きワイパー等は、素材表面が凹凸がなく平な作業場所で応用が出来る。
浴室の壁面や凹凸のない室内扉の掃除や、チリ取りと併用する事で床面の液体を集めて取る事も出来る。
さらにアイデア次第では、身の回りの日用品や掃除とは無関係に思われるものが、使い方と組み合わせにより優秀な掃除用具となることもある。
第4章-2では、「なにを使って?」=化学的な除去力「洗剤の知識」 について解説したいと思う。
著者:植木照夫(クリーンプロデューサー、ベスト株式会社 代表取締役、掃除学研究所所長)