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#池上高志 - 08年に起きてた⁉ #シンギュラリティ

2020.05.30 18:22

2008年にシンギュラリティはすでに起きていた


池上高志

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

人物

複雑系と人工生命などを専門とし、1998年以降には、身体性の知覚、進化ロボットの研究を展開。2005年以降は、油滴の自発運動の化学実験を開始。近年は、アート関連の活動なども行なっている。テレビ出演の際、爆笑問題の田中から、「アーチスト、ロッカーみたいな感じの風貌」と言われた。


経歴

1961年 長野県に生まれる

1979年3月 愛知県立旭丘高等学校卒業

1984年3月 東京大学理学部物理学科卒業

1989年3月 東京大学大学院理学系研究科物理学修了理学博士 論文の題は「Model immune network : : the role of antigen-antibody complexes(免疫ネットワークのモデル :) 」[3]。

1989-90年 日本学術振興会特別研究員(PD)京都大学基礎物理学研究所

1989年5月-8月 アメリカ・LosAlamos 国立研究所visiting fellow

1990年4月-1994年2月 神戸大学自然科学研究科助手

1994年3月より 東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻助教授

1994年7-8月 オランダ・Utrecht 大学理論生物学・招聘研究員

1998年3-6月,7-9月 フランス・Sony Computer Science 研究所・招聘研究員

2002年7-9月 スイス・EPFL(スイス工科大学)・特別招聘研究員

2008年 東京大学大学院総合文化研究科 広域科学専攻 広域システム科学系 教授

2010年 東京大学大学院 情報学環 教授

著作物

主な論文

Bedau, Mark A., John S. McCaskill, Norman H. Packard, Steen Rasmussen, Chris Adami, David G. Green, Takashi Ikegami, Kunihiko Kaneko, and Thomas S. Ray. (2001) Open Problems in Artificial Life. Artificial Life 6(4): 363-376.

Hashimoto, T. and Ikegami, T., Emergence of Net-grammar in Communicationg Agents BioSystems 38 pp.1--14. 1996.

Kaneko, K. and Ikegami, T. Homeochaos: Dynamical stability of Symbiotic Network with Population Dynamics and Evolving Mutation Rates, Physica D 56 pp.406--429. 1992.

書籍

『動きが生命をつくる―生命と意識への構成論的アプローチ』 (青土社 2007), 単著

『複雑系の進化的シナリオ―生命の発展様式 (複雑系双書)』 金子 邦彦、津田 一郎 らとの共著(1998)

外部リンク

本人のウェブページ http://sacral.c.u-tokyo.ac.jp/~ikeg/

Twitterアカウント http://www.twitter.com/alltbl

池上高志氏「Artificial Life and Real Life」(第33回VCASIセミナー)


「未来の箱舟教室」様よりシェア、掲載

ありがとうございます。感謝です。


2018.03.06

シンギュラリティは既に起きている。ALife研究者・池上高志が語る「過剰性と生命」


人工知能が急速な発展を遂げている。


その事実を目の当たりにするいま、私たちが考えるべきことは何だろうか?


 人間の仕事の行方、社会インフラの変化、知性や創造性...、第2・第3の「知能」の誕生を前に様々な議論が飛び交う中、「Beyond AI(人工知能を超えて)」を契機にさらに広い眼差しで未来を想像するのが、複雑系科学者池上高志の志向する「ALife(人工生命)」だ。


アートサイエンス学科「箱舟教室」で池上が語った、機械と共存していく未来とは?


私の研究は「人工生命(ALife:Artificial Life)、生命を人工的につくりだそうとする試みです。


昨今は人工知能(Artificial intelligence)が急速に発展していますが、ALifeが目指すべきは「Beyond AI」だと考えています。


私は人間と同等かそれ以上の知性を持つ「汎用的なAI(AGI)」をつくろうとするよりも、人工生命の実現こそを目指すべきだと考えています。


仮に人工的な知性をつくれたとしても、そこに「意識」や「生命」が生じるとは限らない。


しかし私たち人間がそうであるように、生命という「器」をまず先につくることができれば、そこには自ずと知性や意識が生じてくると考えられるからです。



生命をつくるための、2つのアプローチ


人工生命は、1987年にアメリカの計算機科学者、クリストファー・ラントンが提唱した国際会議の名称であり、新しいことばです。


人工生命の研究には、大きく分けて2つのアプローチがあります。


ひとつは、バイオ分野から、化学的に生命をつくろうとする研究。分子細胞の再構築など様々な化学実験によって、個体が生命的なふるまいをする現象を解析していく。


このとき、その生命的な現象はどんな条件から、どのように生まれるかを理解していくというアプローチです。


もうひとつは、コンピュータから生命をつくろうとするアプローチです。


ソフトウェア上で生命的なふるまいをするプログラムをつくりだすことで、その生命の本質を見出す研究です。私の研究は後者に基づいています。


たとえば1987年にクレイグ・レイノルズが考案した人工生命シミュレーションプログラム「ボイドモデル」があります。


これは鳥などの「群れ」がどのような場合にできるかを考えたものです。


レイノルズは、ボイドモデルにおいて、3つのルールさえあれば群れができることを示しました。

コンピュータ上の鳥のオブジェクトに、ぶつからないように互いに距離をとる「分離」、互いに向きを揃える「整列」、離れたところから集まってくる「結合」などのルールを与えると、まるで生きた鳥のように群れをつくって動き出すのです。


これは人工生命の典型的なモデルと呼ばれています。


シンギュラリティはすでに到来している


さて、なぜいま「人工生命」なのでしょうか。


人工生命の研究は80年代からありましたが、私はいまこそ人間が人工生命と向き合う時代がやってきたと考えています。


アートサイエンス学科の皆さんであれば、「シンギュラリティ(技術的特異点)」という言葉を聞いたことがあると思います。


AIテクノロジーが人間の知性を遥かに超えて進歩し、その先の一切の未来が予測不可能になる、人類史における新時代の幕開けとなる臨界点のことです。


シンギュラリティを提唱している未来学者のレイ・カーツワイルは、その年代を2045年と予想しています。


しかし私は、2008年にシンギュラリティはすでに起きていたのではないかと考えています。


ディープラーニングやビットコインなど、現代を象徴する技術の多くも2008年から2010年に出揃っていました。


私たちはいま、シンギュラリティが起きた後、あるいは起きつつある時間の中を生きているのかもしれません。


たとえば2010年には、コンピュータサイエンスに革命的な進歩がもたらされていました。


たとえばグーグルのAIが立方体パズル「ルービックキューブ」の最小の手数が多くて20手以内であると突き止めたのもこの頃です。


ルービックキューブは6面の立方体の色を揃えるパズルで、そのミニマムの手数に関しては数学界で長い議論が続いていました。


人間の数学者が出した答えは22手。しかしグーグルの社員がたくさんのコンピュータを同時に使って調べたところ、20手以内だということが分かったのです。


この発見に、世界中があっと思ったのではないでしょうか。


何よりの驚きは、その分析方法のシンプルさ、あるいは大きな表を作ってみせる、ということにありました。


それはコンピュータによって、10の19乗もあるキューブの全パターン、アボガドロ数の1万分の1です、を総当りで計算する、というものでした。


人は視覚に依拠するが、このアルゴリズムはそうではない。


「神のアルゴリズム」と呼ばれています。


人間が決して持ち得ないアルゴリズムだからです。


2009年にも、非常に興味深いプロジェクトが発表されています。


デブ・ロイという研究者の「Human Speechome Project」です。


彼は自分の幼い子どもがどのようにして言語を習得するのかを調べるため、家中にカメラを取り付け、9万時間に及ぶホームビデオを撮りました。


その映像には、子どもがどのようにして言葉を話し始めるのか、最初の言葉が発せられるとき、親はどこにいたのかなどが克明に記録されていました。


彼の主張は、「言語の獲得装置は家そのものである」ということでした。


彼の研究によって、言語の獲得は、頭の中だけで起こるものではなく、家の間取りや人がどこにいたかなどの環境要因が複雑に影響を与えているということが分かりました。


人間の「学習」とは、知識のインプットからだけではなく、その複雑な環境との相互作用の中から自然と発達してくるもの、だからSpeechHomeなのです。これは、AIや人工生命をつくる上で非常に重要な視点だと思います。


また彼は後にこの研究を学会で発表しますが、その際、9万時間に及ぶホームビデオを解析するソフトウェアのほうに新たな関心が集まりました。


その解析ソフトウェアの複雑さこそ、人間の言語習得の複雑さそのものではないか、と考えたのです。


これまでの2つの例が物語っているのは、サイエンスの在り方が変わったということです。


我々の知性の結晶として、人間がまず何らかの「仮説」を見出し、そこから実験を繰り返していく理論先行型のアプローチよりも、まずモデルをつくり、膨大なデータを解析することで後から答えを見出していくデータ先行型という手法自体が、ひとつの時代の分かれ目を象徴している事例だと考えられるのです。


データから世界を見る。マッシヴ・データ・フロー


従来のサイエンスのアプローチは、大まかに言うと、「少ないデータから、てんこもりの理屈を生み出す」というものでした。


しかし先の2つの事例が示すように、現代のサイエンスは「過剰な量のデータが、そのまま理屈になる」というアプローチに変わりつつあります。


つまり下手な還元はしないほうがいい、ということです。


それは、これまでの科学は経験したことがない極大主義でもあるのです。


その意味で、いま、サイエンスは大きな転換点にあります。


こうした人類が今まで接したことがない状況の中で私たちは生きているのです。


この状況下で求められるのは、「巨大なモデル」です。人間が物事を理解するための「小さなモデル」ではなく、人間が世界をより深く、広く探索できるような巨大なモデルの模索が重要です。


巨大なモデルはどのようにしてつくられるか。


ここでは例として、GPGPUを用いて、先ほどのボイドモデルを文字通り数字の単位を巨大化させるという例を紹介してみます。


単位体積あたりの個体数を同じに保ちながら鳥の数を増やし、空間を広くしていきます。すると、数が増えるにつれ、だんだんと最初に見えていたものとは異なるふるまいが立ち現れてくることが分かると思います。


個々の鳥に働いているルールはまったく同じ3つ(分離、整列、結合)です。


しかし数が大きなところでは、異なるルールが創発してくるようにみえる。それらは小さな数を相手にしていては、見えてこないものです。


過剰な量や詳細さを持つ巨大なデータのことをビッグデータと呼びます。


その中で、かつては見えなかった構造が見えてくる、さらには生命的な振る舞いが立ち上がってくる環境であり秩序のことを「マッシヴ・データ・フロー」と私は呼んでいます。


また、先程のボイドモデルの映像はUCLAのVR研究者ヴィクトア・ヴェスナとの共作“Birds Song Diamonds”で用いました。


2017年にオーストリア・リンツのアートセンター、アルスエレクトロニカ・センター内の8Kの映像空間「ディープスペース」でも上映されたものです。


生命とは野蛮で制御不可能なもの、カオスから見出す生命性


人工生命の研究では、「あり得ない生命」を研究することによってはじめて、「生命とは何か」を理解することができると考えています。


そのためには、サイエンスにとどまらずその外側からも観察できる手段として私にはアートが必要だったのです。


人工生命を考える上で非常に重要なアーティストのひとりは、オランダの物理学者テオ・ヤンセンです。


彼のつくる人工生命体「ストランドビースト」は、自身の体の構造を利用して、風力や視力をエネルギーとして取り込んで動くことができます。


自動車のエンジンは燃料を熱エネルギーに変換して動きますが、ストランドビーストは、PCBを使ってうまい関節のかたちをつくる。


その形によって、自身の体を環境に協調させることによって動く。


そうした点に私は、これまでの研究ではなかった、形の生み出す生命性を感じるのです。


続いて私が大好きな作品「NYLOÏD(ニロイド)」を紹介します。


スイスのアーティストであるコッドアクト(Cod.Act)による、極めてシンプルかつダイナミックなインスタレーションです。


硬質なワイヤーが3本、固定された床に巻き取られていくにつれて、だんだんとワイヤーにテンションが高まっていく。


それが突如不安定化して暴れだす。


その不安定な動きを繰り返し続ける。


ここに一種の生命の本質が見えてくるように思うのです。


なぜなら、生命とはそもそも野蛮で制御不能なものだからです。


その性質は、コンピュータの中のプログラムだけではあまり見えてきませんが、こうして現実世界に形として表現することで分かるようになります。


最後に私の作品もひとつご紹介します。これは2005年にICCで渋谷慶一郎さんとつくった作品《Description Instability》です。


僕は長らく複雑系科学、カオス理論を研究してきましたがその抽象的な理論を可視化した作品です。


この装置は、同軸のシリンダーを2つ重ね、その間に水を挟んで内側のシリンダーを高速で回転させるものです。


すると、やがて水はうねりながらシリンダーの周りを回転し、いろいろな複雑化を経て、あるとき乱流化します。


これが「テイラークエット流」です。


「お互いに関係しない周期が3つ現れると、乱流化(カオス化)する」という理論を実験的に示していると考えられています。


そして生まれた乱流をCCDカメラで撮影し、プログラミングによってリアルタイムでサウンドに変換されています。


こうした物理理論やアルゴリズムをアート作品として知覚化させることで、新しい何かを見つけようとしているのです。


シンギュラリティ時代の人間の仕事は、新たな言葉や感情をつくること


人間の持っている自由意志や情動はどのようにつくられるのか? 


それが機械的に構成できるとすれば、どのようなものになるか?


そんな疑問から、ロボット工学者の石黒浩さんとつくったのが「機械人間オルタ」というアンドロイドです。


池上高志Lab.+石黒浩Lab. 「機械人間オルタ」


あえて機械部分をむき出しにし、不規則に手や顔が動く複雑さで人間らしさを表現するアンドロイド。

「なぜかわからないが生き物っぽく感じる」という声もあれば、「動きが不規則すぎて、何をしたいかわからない」という声もあり、様々な反響を呼んでいる。


オルタは、ただ指示に従うだけではなく、自律的なふるまいができるロボットです。それを可能にしているのは、オルタの頭脳に相当する部分にある「CPG(Central Pattern Generator)」と呼んでいる、不安定な周期運動を作り出すリズム生成システムと、それに摂動を加える人工のニューラルネットワークです。


このCPGは、人間のニューロンを模してデザインされており、まるで人間の脳のように機能します。これによってオルタは、周囲の温度や湿度など、センサーから得られるさまざまな情報に影響を受け、動きを変えることができる。まるで人間のような動きを可能にしているのです。


『人間と機械のあいだ 心はどこにあるのか』石黒浩+池上高志(講談社)


オルタ製作のプロセスを軸に、人工生命やアンドロイドと共存する人間の未来について、二人の思考が綴られている。


また、オルタの知見を活かして開発した「スケルトン」は、世界で初めてオペラを演じたヒューマノイドになりました。


オーストラリアのアデレード・フェスティバルの一環で、渋谷慶一郎さんが手掛けたオペラ「Scary Beauty(スケアリー・ビューティ)」に登場したのです。


私たちはいま、これまでのテクノロジーやサイエンスの考え方だけでは到底考えられないようなことが起こりうる世界に生きています。


そうした時代にあって、サイエンスでもアートでもない何ものか、そうした「第三項」を見つめていく必要があるんです。


きっとこれから先の10年で、私たちはいままでのPCやiPhoneとはまったく異なるデバイスを目の当たりにするでしょう。


そのとき、これまでとは異なる技術をつくり、それらを記述し、交流するための「言葉」をつくることが必要になってきます。


そうして私たちは今のものとは異なる、新しい感情を持った生命になっていくでしょう。


シンギュラリティは恐怖ではなく、私たちがいままでと異なる新しいものを捉えていく時代になる。私はそう考えています。


最後に、私の大好きな言葉を紹介します。


作曲家ルイジ・ノーノがロシア人映画監督アンドレイ・タルコフスキーに捧げた詩の一節ですが、ここには未来を考える上で非常に示唆に富んだメッセージが詰まっていると思います。


人間の技術の変化の中で

新たにこれまでと異なる感情

異なる技術、異なる言語をつくりだすこと

それにより人生の別の可能性

別のユートピアを得ること

(ルイジ・ノーノ)

池上高志

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』