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皮膚弱まりアレルギー 英で研究報告「保湿不足で抗原侵入」

2020.06.03 01:44

 皮膚は異物の侵入を防ぎ、刺激や乾燥から体を守るバリアーの役割をします。

 しかし、その「皮膚のバリアー」の弱さが、さまざまなアレルギーの病気の発端になるという説が注目されています。

 アレルギーは免疫が過剰に反応して起こる病気ですが、この皮膚のバリアーを高めて予防につなげようという研究も進んでいます。

 皮膚のバリアーが着目されるきっかけは、2006年の英国での研究。

 この研究では、皮膚の表面(表皮)にある角質層の主要なたんぱく質「フィラグリン」にかかわる遺伝子に変異があると、アトピー性皮膚炎を発症しやすくなると報告されました。

 フィラグリンは分解されると天然の保湿成分として働き、皮膚のバリアーの形成や水分を保つのに重要な役割を果たすとされています。

 名古屋大の秋山教授(皮膚科学)によると、この遺伝子に変異があると、フィラグリンを作る量が半減または無くなってしまい、バリアー機能が弱まることでアレルギーを起こす抗原が体内に入りやすくなると考えられているとのことです。

 秋山教授らが日本人で調べたところ、アトピー性皮膚炎の人の27%に変異が確認されました。

 ただし、変異があっても発症しないひともおり、「気候や生活習慣なども影響する。ほかにも皮膚のバリアーにかかわる遺伝子があるかもしれない」と説明します。

 慶応大の天谷教授(皮膚科学)らは、死んだ細胞の積み重なりとされてきた角質層を詳しく調べました。

 すると、水分保持層などの3層で構成され、バリアーの機能を発揮していることを確認。3層を通過した抗原を、免疫反応をつかさどる活性化した「ランゲルハンス細胞」が突起を伸ばして取り込む様子を可視化することに成功し、過剰な免疫反応であるアレルギーが、皮膚経由で起きる仕組みの一端を解明しました。

 ただし、炎症やかゆみがなぜ起こるのかは解明されていません。

 気象庁のデータでは、ここ100年で都市部の湿度は15%ほど減少し、皮膚の水分が失われやすくなっていることが示唆されています。天谷教授は「皮膚にとっては厳しい環境だ。洗いすぎも角質層のバリアーを失わせるので、体をごしごし洗う必要はない」と助言します。

 英国では、ピーナッツアレルギーの子は、ピーナッツ由来のオイルを塗る頻度が高かった、という報告があります。食品を食べなくても、皮膚から微量に取り込まれることで、食物アレルギーを発症する可能性が示唆されています。

 「バリアー機能を高めれば、アレルギーの発症を抑えられるのではないか」

 国立成育医療研究センターなどのチームはこうした仮説をもとに、生後間もない乳児に毎日、保湿用の乳液を約8か月間塗ってもらい、アトピー性皮膚炎の発症の有無を調査しました。

 その結果、スキンケアをしていない乳児に比べて、発症率が3割少なくなり、バリアーを高めることが発症予防につながることを示しました。また、湿疹や皮膚炎のある乳児は、卵アレルギーを起こす可能性を示すIgE抗体の値が高いことも報告されています。

 子どもの場合、成長とともに、アトピー性皮膚炎や食物アレルギー、ぜんそく、鼻炎と進む傾向があるため、「アレルギーマーチ」と呼ばれています。

 同センター研究所の松本 免疫アレルギー研究部長は「乳児期に湿疹があると、さまざまな抗原が入りやすくなり、アレルギーマーチを引き起こすと考えている。湿疹を放置せずに、早く治療することが食物アレルギーやぜんそく、花粉症などの発症予防につながる可能性がある」と推測しています。

 同センターを中心に臨床研究に取り組む計画とのことです。